地域通貨

 八百屋で野菜を買って千円札を出したら、若いアルバイトのにーちゃんに、
「あの、お釣りに杉並円が混じってもいいっすか」
 と聞かれた。
「杉並円?」
「杉並区内だけで使える地域通貨だそうです。杉並銀行に両替に行ったら、これを渡されちゃったもんで」
「杉並銀行?」
「知らないっすか。南阿佐ヶ谷の駅前に出来てますよ」
「いやー、あまり家から出ないもんだから知らなくて。で、いいの、その銀行」
「親切っすよ。いろんな手数料が無料だっていうし」
「大丈夫なのかな、杉並円。あやしげだけど」
「よくわかないっす。けど、うちに持ってきていただけたら、ちゃんと使えますよ。一円が一杉並円ですから、ややこしくもないですし」
 で、いま机の上に百円玉と十円玉と一円玉がある。日本円ではなく、杉並円である。
「これ、どういうこと?」
 とうちの電子ネズミに聞いてみる。
「日本の赤字は1000兆円でチュー。一年の税収は40兆円で、出費は200兆円と言われているでチュー」
「ひどいね」
「年収400万円の家庭が借金重ねて毎年2000万円使って、すでに1億円の借金を抱えているっていう状況でチュー」
「個人ならまちがいなく自己破産だな」
「なので、円が潰れないうちに、杉並円を作ったでチュー」
「でも、これ、杉並区でしか使えないだろ」
「なにか問題があるでチュか」
「杉並区には秋葉原がないよ」
「……」
「どうした?」
「区長から質問です。杉並円が秋葉原でも使えるようになったほうがいいか、秋葉原を杉並に誘致したほうがいいかって」
 無言の間、区長とやりあっていたんかい!
「そりゃ、誘致してくれたほうが買い物が楽でいいけど」
「わかったって言ってるでチュー」
 そのうちまた、町内会メールに面白い話が載るのかなあ。杉並区は日に日に日本離れしていく気がする。

(了)

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