電書鳩
こんこんと窓ガラスを叩くものがいる。
正直言って、怖い。
わたしの部屋は二階にあり、窓は小さなバルコニーとして突きだしており、人間が這い上がってこれるような場所ではないのだ。
こんこん。
こんこん。
わかったよ。
パソコン画面から顔を上げると、鳩がいた。
「その窓、鍵が錆びて開かないんだ」
と言って後悔した。鳩にむかって、なにを言い訳しているんだ、わたしは。
あっちあっちと反対側にある妻の書斎を指さすと、鳩の姿が消えた。
しばらくして、妻の「きゃああああ」という叫び声が聞こえた。
窓をこんこんしている鳩の姿があった。
「入れてやれよ」
「いやよ。怖いじゃない」
「こいつ、なにか用事がありそうだよ」
部屋に入ってきた鳩は目をぱちくりした。足になにかつけているかと思ったのだが、伝書鳩ではないらしい。
壁に映像が浮かび上がった。
「深川様。6月分の年金が指定口座から引き落としできませんでした。今すぐお支払いください」
プロジェクター鳩の胸がぱかっと開いた。
ここにお金を入れろということらしい。
「ありません。お金、ないの。わかる?」
鳩は小首を傾げた。
「入金があるまで待ってって言ってるの」
バサバサと飛び立った鳩が肩に留まる。いきなり電撃ショックが来た。わたしはぶっ倒れる。
「今度、来タトキニナカッタラ、モット痛イゾ」
捨て台詞を残して、鳩は次の滞納者のもとへ飛んでいった。
やることがえげつないぞ、厚生労働省。
(了)
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