払いたくない

「クリスティーズの話、聞いた?」
「なにそれ」
「競売商人よ」
「サザビーズみたいやつだな」
「パリでイブ・サンローランの遺品オークションしてたんだって」
「ああ。あれか。すごい値段がついたんだって?」
「うん。でね、その遺品の中に十二支のウサギとネズミの銅像っていうのがあったんだけど、これ、中国人が39億円で競り落としたの」
「すごい」
「競り落とすのなんて誰だってできるんだからすごくないよ」
「おれ、無理だよ」
「できるできる。だって、この中国人、競りおとしたけどお金払わない宣言したんだから」
「いいなあお金払わない宣言。でもなんで? 中国人だから?」
「その銅像ってのがもともと中国から略奪されたものだからだって」
「ふーん。でも、その男、べつに中国代表ってわけじゃないんだろ」
「違う違う」
「じゃあ、ただ払いたくないだけじゃん」
「いいじゃん」
「いいけど。っていうか、あやかりたいけど。住宅ローン払いません宣言ってどう?」
「ダメよ。家とられて終わり」
「だってさあ、住宅ローンって銀行の金儲けだろ。銀行って死ぬほど公的資金が入ってるんだし、それおれたちの金だし。もうそれでいいじゃん」
「あ、そっか」
 というような会話が今夜、みずほ銀行に住宅ローンを支払っている一万戸くらいの家庭の中で彷彿としてわき起こり、即座に実行されてほしい。そうしたら、私たちも追随します。
「追随宣言だね。さすが小心者」
「だって怖いんだもん銀行屋」

(了)

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