無精髭
ほおづえをつくと、ジャリジャリした感触がして、私はうんざりした。
「ネズミはいいよなあ。いくら顔にひげが生えても無精髭って言われないんだから」
びすは髭をぴくぴく震わせた。
「ひげは大事でチュー」
「猫やネズミはね。人間のひげは邪魔なだけだよ」
「そんなことはないでチュー」
「そうかな」
「ひげは訓練しなきゃ、能力を開花しないでチュー」
「そうなんだ」
「ご主人さまもやってみるでチュー」
それから、三年。びすのいうことはほんとだった。
私の無精髭はみごとに特殊能力を獲得し、妖怪が近づくと、ぴんと立つようになった。
「よかったでチュー」
「どうかなー。あ、きたきた」
「怖いでチュー」
ひすはあわててポケットに隠れた。
私は隠れる場所もないので頭を抱えてやりすごす。
ずりっ。ずりっ。
どんな妖怪なんだろう。怖すぎて、目もあけられない。
「どんな妖怪だったでチュか」
「見られるわけないだろっ」
ないほうがいいんじゃないのか、この能力。
(了)
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