引っ越し
「ちわーっ」
「おつかれーっす」
なだれ込むようにして、引っ越し業者が入ってきた。
「えっ」
と戸惑っていると、かれらの後ろから手足の長い奇妙な昆虫がついてくる。カーボンファイバーのような色つやをもった、不思議な機械の群れだ。
びすがポケットから顔を出して、
「ドローンでチュー」
と言った。
「また杉並区役所の回し者か?」
「無関係でチュー。あの昆虫は無人作業ロボットみたいなものでチュ」
廊下や床に緩衝材を敷き詰め、作業員は段ボール箱にどんどん荷物をつめていく。その手際のよさったらない。
「あ、ご主人さまはなにもなさらなくて結構ですから」
と言われ、行き所もなく、書斎に引っ込んだ。
まもなく書斎の荷物も片付けられ、家がからっぽになる。
ひとが運ぶにはちょっと重すぎるのではないかと思った段ボール箱だが、ドローンの群れは細長い手足でがっちりと箱を抱え込み、背中の羽を回転させて、浮遊した。
「では、われわれは先に行って待っております」
「あ。おつかれさまでした」
と私は思わず返事して、作業者と昆虫ロボットの群れが去っていくのを見送った。
「で、どこに行くんだ?」
「どこへ行くんでチュー」
「おまえが頼んだんじゃないのか」
「ネズミは勝手に引っ越しはしないでチュー」
「わー、じゃあ、あいつらはなんだ」
「泥棒でチュー」
それからしばらくびすは黙った。
警察に連絡し、杉並民兵団と交渉し、杉並区長まで口説いたらしい。
すでにドローン泥棒は区の境界線を越えようとしていたが、杉並区区境防衛隊が、巨大空気銃で砲撃し、ドローンの撃墜に成功した。
「一件落着でチュー」
犯人たちは捕まったが、うちに戻ってきた荷物はすべてバラバラに砕けていた。
(了)
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