集票ロボット

「ピンポーン」
 面倒くせえなあと思いながら玄関のドアを開けると、テカテカと脂ぎった顔をした中年男が立っていた。
「どなたですか」
「私、今回、自民党総裁選に立候補いたしました、越知遊三郎と申します」
「はあ」
「ぜひとも私の政策をお聞きいただきたく、訪問させていただきました」
「あの、そういうことは、テレビでやった方がよくないですか。それに、私は自民党員ではありません」
「ん、党員ではない。では、議員さん?」
「自民党とはいっさい関係ありません」
「ではこれを」
 越知は、入党届を差し出した。
「サインと印鑑をお願いします。寄付はとりあえず五万円もあればいいでしょう」
「誰が入党したいと言いましたか」
 越知はすっと声を落とした。
「いいですか。これは内緒ですが、こういうものも用意しております」
 自民党入党届けの用紙をめくると、共産党の入党届があった。
「こちらなら赤旗を購読するだけとたいへんお得になっております」
「あのね、政治に興味ないの」
「おおっ」
 越知は顔を覆った。
「わかりました。わたくし、越知遊三郎、自民党総理総裁候補、実は共産党シンパ、しかしてその真実は!」
「別に聞きたくないけど」
「こういう者です」
「公明党杉並支部選挙対策委員越知遊三郎」という名刺を渡された。
「あんた、一体なにものなんだ」
 びすがポケットから顔を出した。
「あ。こんなところにも有権者が」
 越知遊三郎はもう一つづり、入党届けを出した。
「ささ、好きなものをどうぞ。私は人間だのネズミだのと細かいことは申しません」
「こいつは集票ロボットでチュー」
 私はぎくっとした。
「まさか」
「そう、まさかのダブリン社でチュー」
「警察は?」
「とっくに連絡したでチュー」
 なだれ込んできた警官隊と壮絶な撃ち合いを展開し、入党届けの紙吹雪を吹き上げながら集票ロボット、越知遊三郎は散った。
 最後の一言は、
「誰にでもいいからあなたの清き一票を」
 だった。

(了)

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