タイムテーブルと出演者を紹介するよ!
文:松坂大佑
はじめに
まず今回のタイムテーブルを見て、これはすぐにお気づきになると思うのですが、そうです、ほぼすべて二つのステージでの演奏が交互に配置されています。
CAMP Off-Toneには、ご存じの通り屋外のOuter Spaceと屋内のInner Spaceという「二つの世界」があります。
そこで我々は『二つの世界の呼応と調和』を、出来るだけ強く感じてもらえるような工夫として、演奏を交互に配置することで、呼びかけあい、ぶつかりあい、響きあいながら一体化する、そんな他では体験できない時間を作り出してみようということになりました。
そして、その流れにも「環境の芸術化」を目指すための物語が編み込まれています。
いまから、その物語を、アーティスト紹介の形を取りながらお話ししていきたいと思います。
が、その前に、まずは、このタイムテーブルそのものについての、ご説明をいたします。
タイムテーブルの秘密
画像を見ていただくと、それぞれの日にテーマが設けてあるのがお分かりになるかと思います。
書き出すとこんな感じですね。
1日目「Greet(迎える)」
2日目「Play(遊ぶ)」
3日目「Send(送る)」
これは、お客様や会場内の音・音楽のような様々な事柄を「よいもの」「大切なもの」「敬うもの」のように捉え、それを3日間かけて、まずは迎え、共に遊び、そして送り出す、という流れになります。
これは、茶道での客人へのもてなしや、神楽などで神様への意識の流れを表すために用いられるほど、古くからある物語と手法なのです。
こうした意味を持たせた3日間がメインテーマである「Ritual〜聴いて考えて眠る3日間~」に繋がっているのですが、その詳細は、また別の記事でお話しします。(→「聴いて 考えて 眠る」を読む)
そして、出演者の欄を見ていただくと、どうでしょう。
ちょっと普段よく見るタイムテーブルと違いますよね。
例えば私「Matsusaka Daisuke」は何時からスタートでしょう?
うん、よくわかりませんね。
実はこれ、お客さんにCAMP Off-Toneの空間を時間も含めてゆっくりとした気持ちで楽しんでもらうためのちょっとしたいたずらです。
実際は、例えば私なら8時半から10時半という風に全て細かく決まっているのですが、それが予期せぬトラブルなどによってちょっとズレただけで、「あれ?何かあった?」とか「終わり押してない?これ大丈夫?」とか、よくあることにも関わらず自らそういう小さなストレスの元を発生させてしまうことって日常でもありますよね。
その原因のひとつは、細かい予定を事前に立てることにもあると思うのです。
それに、あらかじめ「〇〇をこの時間は見て~そしてここでご飯食べて~」とか分刻みの予定を組むことがフェスの楽しみのように定着していますが、Off-Toneはその名の通り「OFF」を提案していきたいと思っておりますので、あくまでもゆっくりしたもらいたい。ですのでタイムテーブルの機能も「なんとなくこの辺の時間でこの人が演奏する」という風に把握してもらえればOKだと考えなおし、このような、ある意味チャレンジングなデザインとなりました。(タイムテーブル要らないという案はみんなに一蹴されました。)
かつてジョン・ケージが「Organ²/ASLSP」(“可能な限りゆっくりと”という演奏指示で、事実上無限の時間を必要とする)という自分の曲について、「変化の早い現代社会における平静と緩慢な時の流れの再発見」というコンセプトを掲げたように、Off-Toneも、非日常よりも日常に近い、まるで寝室を持ち出してきたかのように自由自在な楽しみ方を可能とする空間と時間を目指して、こうした様々な工夫を試していきたいと思っています。
さて次は欄外を見ていただきますと、注意書きに「*=インスタレーション」とあります。
これは転換時間を使って、私からのささやかな提案として、Outer SpaceとInner Spaceでそれぞれ違った音の世界をお見せします。
Outer Spaceのこれは2019年にも実施した、”環境音から音楽を生成する仕掛けである「WAVE」”を作動させるものです。
全行程の最初がこの仕組みから始まることには、その土地にある、目に見えない「音」から新たな「音」を授かり、祝祭会場の中へ迎え入れるという、大切な意味があります。
このインスタレーションの時間、Outer Spaceという『外に立つ世界』に響き渡る音の一部は、もしかしたらあなたが出した音から生まれた音かもしれないということを意識してみてください。
一方、Inner Spaceの「インスタレーション」は、「環境音」です。
屋内へと入ると様々な場所と時間に録音された環境音が流れています。
そしてそれは、アンビソニックス(Ambisonics)という特殊な録音から生成された立体音響仕様の環境音です。
そう、今回のInner Spaceは8つのスピーカーを用いた上下前後左右で包まれるサラウンドシステムを導入しています。
そのシステムをフル活用するのがこのインスタレーションである環境音なのです。
そしてここには、屋内であるInner Spaceという、目の役割を減らすことのできる場所で、逆に耳の世界における「外」を渡す、それも上下左右前後を包み込むリアルさで渡すことで生まれる『きみの中にある広い世界』を意識してもらう意味があるのです。
そして、この対比にもまた『二つの世界の呼応と調和』が生まれるといいなと思っています。
それではいよいよ、出演アーティストのご紹介をしていきます。
Atoris(Outer Space)
H.Takahashiのソロライブを2019年にお願いし、その時サポートで入っていたYudai Osawaと、その後Kohei Oyamadaが加入し、Atoris結成。その後パンデミックによる自粛期間に渋谷Cantactでの配信ライブに参加してもらい、そしていまkengoshimizがさらに加入、という増殖の一途をたどり続けている彼らは、その優しく華やかな音が特徴。
なによりも、新たな探求心を忘れないその姿勢は、まさに「迎える」日の始まりにふさわしいのではないでしょうか。
インスタレーションで授かった音を引き継ぎ、夕刻に光が移り変わる中で、明るく楽しい音へと一変し、3日間の祝祭がスタートします。
今西紅雪(Inner Space)
伝統の上に立ちつつも、独自奏法による豊かで静謐な響きを追求し、多種多様なジャンルへの参加、奉納、国際文化交流公演など、幅広い活動を展開している箏奏者であり、Off-Toneとは切っても切れない関係があります。と言うのも、そもそもがOff-Toneの第1回を開催するときに、彼女の演奏をゆっくりと聴きたい、という目的があったのです。
2011年1月の事ですから、もう12年も前になりますか。
ですからOff-Toneの全てを知ると言っても過言ではない。
2019年にはステージから飛び出し、広場の真ん中で演奏し、秋風をも味方に従えたような、得も言われぬ美しい時間を演出して見せたことは記憶に新しいかと思います。
そんな彼女ですが、今回は、Inner Spaceの音初めとして、いよいよ暗くなった内省的な空間に音を降ろしてくる役目を担います。
moshimoss(Outer Space)
二つの世界へ音を降ろしたあとは、まずはゆるりとOff-Toneの世界観を見てもらう意味も込めて、久しぶりにアルバムも発表し、Off-Toneにとってのキーマンでもあるmoshimossにご登場をお願いしました。
Off-Toneが山梨で開催するようになったのは、彼が繋いでくれたご縁であり、初期の方向性を決定したのも彼の音でした。
9年ぶりのアルバム「Stones of Paradise」は、新たに獲得したであろうゆったりとした余裕を感じる音の間が、アーティストとして変わらない芯の部分と、重ねた時間を感じさせてくれます。
新しい会場に、新たな彼の音を響かせることで、これまでの10年間と未来を繋いだ音風景を見せてくれると思います。
AYAMI SUZUKI(Inner Space)
Outer Spaceで、過去と未来を感じる景色をお見せした後は、女性ヴォーカルアンビエントアーティストがInner Spaceに初登場します。
即興でサイトスペシフィック(その土地からの発想)なサウンドを、幽玄な声と共に作り上げるスタイルで、没入感や広がりを作り出す彼女のパフォーマンスは、まるでその場の空気から取り出したかのように、Inner Spaceへ降りてきた音に命を吹き込む時間を作ってくれるでしょう。
MINGUSS(Outer Space)
そして続くOuter Spaceでは、クラシックピアノをベースに、ミニマルミュージックからクラブサウンドまでを柔軟な発想で一体化させるピアニストのMINGUSSが登場します。
HIROSHI WATANABEをプロデュースに迎えた「Night of the Vision」、アンビエント、ニューエイジとクラブカルチャーのつながりを語るうえで最重要アーティストであるマニュエル・ゲッチングが客演として参加した「The Farthest Desert」をリリースという、異色の経歴を持ったピアニスト・音楽家なのですが、その端正で深く、清らかで力強い楽曲は、初日の夜、「音」の姿を借りたなにかをそっと迎えてくれる道しるべとなり、いよいよ実体化してきたイメージに、一気に集中力を与えてくれるでしょう。
Tomo Takashima(Inner Space)
その流れで、次のInner Spaceには、古典派〜ポストクラシックからテクノ、ノイズ等を自由に越境するDJであるTomo Takashimaが登場します。
演劇やコース料理など多分野の芸術が音楽を軸に交錯するパーティー”feat. MATAWA”を主催するそのセンスは、「迎える」初日のInner Spaceを締めくくるにあたり、いよいよ会場に降りてきた音たちを祝福し、幽玄で華やかに分け合う空間へと演出してくれるはずです。
Miki Yui(Outer Space)
一方そのころOuter Spaceでは、これまた大注目のアーティストが登場します。
東京出身で、ドイツ・デュッセルドルフ在住の音楽家、美術家であり、フィールドレコーディングや微かなノイズ音、電子音響等を操り、繊細で有機的な音楽世界を紡ぎ出してきた彼女の音は、普段のコンサートにおける音と間を入り口として提示してくれます。
その、深く音楽に入り込む場を聴衆と共有する手法に加えて、今回は、土地性からの発想を意識した音作りを実施してくれます。
これは「その場所のその時」という、音楽の持つ特性に対して、さらに踏み込んだ興味深いアプローチとなるでしょう。
そしてこの、意味深く繊細な音によって、「迎える」というタームが完結します。
そうして集中した後の心地よい高揚と緊張を感じながら、夜の森の音と共にゆっくりお休みください。
Tomoyoshi Date(Outer Space)
2日目のテーマは「遊ぶ」ということで、これは、初日に迎えた様々なものを、もてなし、深く知り、自らへ反映するために、一緒に遊ぼうじゃないか、という主旨です。
そのために、まずは、水平線・地平線の見えない森の中では想像するしかない日の出を、音楽によって告げることで、宇宙の動きを感じてみる遊びです。
その役割を担うのは、多様な名義で世界各国から23枚のフルアルバムをリリースし、東洋医学と西洋医学を併用する「つゆくさ医院」の院長でもある、医師・音楽家のTomoyoshi Date、その人です。
この日は5時52分。この時刻に始まるささやかなピアノの音色と共に、どこかの日の出を感じ、森の中へ差し込んでくる光を心待ちにする。そんな神聖な時間を演出してくれるでしょう。
Matsusaka Daisuke(Outer Space)
続いては、わたくしでございます。
DJ/サウンド・アーティスト/サウンド・エンジニアなど、音と音楽にまつわるさまざまな活動に従事し、近年は、北茨城市の桃源郷芸術祭での作品展示、2021年のアルバム『つねひごと/WAVE〜あなたが世界を鳴らしている〜』リリース、今年に入り、渋谷区ふれあい植物センターの館内音楽を制作するなど、環境と音楽の関係を問い続けております。
今回のCAMP Off-Toneでは、夜明けのあと、二度寝タイムを挟み、本格的に「音との遊び」の始まりを告げるべく象徴的な音を、そして2日目特有の自由な空気を音に変えながら、このあと続く、今回の最も重要な流れへと繋がるOff-Toneでしか味わえないナラティブを紡いでみたいと思っています。
Ambient Collective"Tone Matrix"
そして、いよいよその”今回の最も重要な流れ”と考えている、パートのはじまりである特別企画へと進みます。
これは、昨年10月、Off-Toneレギュラー陣で八ヶ岳に集まり、アンビエントについて語り合ったミーティングで湧き上がったイメージとアイデアをもとに結成されたアンビエントコレクティブです。
これまで培ったOff-Toneという土壌を、練り上げて、どこにもない空気を生みだすひとつの型となりたい、という想いを、Tone(雰囲気・空気)のMatrix(生まれるところ・原型)というネーミングに込めました。
今回はDJ蟻、KAITO aka HIROSHI WATNABE、Matsusaka Daisuke、今西紅雪のメンバーで、Made in Environmentな即興アンビエントセッションを行います。
演奏場所はステージではなく、新会場を歩く中で見つけた、ステージとは別の森の中です。
広く散らばる演奏者にひとつずつのスピーカーが配置され、観客はその中を歩くことで、ひとりひとり違ったその人だけの楽曲体験が作られるのです。
距離を置いた穏やかな営みが、絡み合い、生まれる空気。
そんな事を考えて森の中を歩いてみませんか。
あなたにはどんな音楽が聴こえてくるか、もしよかったら動きながら録音しても構いませんよ。
そんなことも含めてどうぞ「自分の体験」を楽しんでください。
DJ蟻(Outer Space)
Tone Matrixのセッションが終わると同時にOuter Spaceのステージへと移動し、その流れのままプレイを開始してもらうのはOff-Toneに無くてはならない存在のDJ蟻です。
Tone Matrixの体験で重要なポイントが「自発性」だとすると、彼のDJは「多様性」と言えるでしょう。
90年代中頃より大阪でDJ活動を開始し、Electronicaを中心にBeats、Ambient、Experimentalまで、ありとあらゆる音を自在に操るその独特の世界観を持つ世界的にみても珍しいDJです。
そのため、雑食性が原動力のOff-Toneにとって、もはや欠かせない存在となっており、2014年からはレギュラーで出演してもらっています。
この最も自由でとても大切な時間に、きっと音との信頼関係を感じられる真の多様性のある音空間を出現させてくれると思います。
KAITO aka HIROSHI WATNABE(Outer Space)
さて、今回のOff-Toneで重要な流れである2日目の午前中から続くセクションを一区切りさせてくれるのは、Off-Toneにとっても最初期から関わり続け、今やレジデントとして欠かせないアーティストのKAITOです。
「自発性」~「多様性」ときて、最後は、彼が最近力を入れて取り組んでいるハードウェアを中心としたライブセットで彩ってくれます。
確かな理論と技術にとどまらず、下地にはっきりとしたメッセージや哲学まで持たせたマシンライブは、ひとつのカタルシスを届けてくれるはずで、それは「自律性」とでも言えるものを見せながら、最も大切な時間を色濃く印象付けてくれるでしょう。
Miki Yui(Inner Space)
自由な時間をたっぷりと「遊ぶ」ことで生まれた自律的な空気は、ここでいよいよInner Spaceへも広がっていきます。
初日に続き、2度目の登場となる彼女は、薄明りとなる屋内で、その幽玄な光と共に繊細な世界との遊びを作ってくれます。
演奏場所が変わることで、空間と時間が音とその認識に与える影響をはっきりと体感できると思いますので、これは両方体験しないわけにはいきません。
数年越しにご本人の多大な協力のもと実現した今回の来日で、不思議で優しい音の世界が、きっと子供も大人もみんなを魅了してくれるに違いないと思います。
STONE MUSIC(Outer Space)
そして続くのは、間違いなく今年度CAMP Off-Tone最大の「遊ぶ」体験となる「STONE MUSIC」の登場です。
ご説明しますと、まず70年代を中心に活動していた「タージマハル旅行団」という、当時一世を風靡したグループがあったのですが、中心メンバーとして活躍されていた長谷川時夫さんが、そのコンセプトを延長しながら、現在取り組んでいる即興演奏集団です。
「タージマハル旅行団」というのは、現代音楽家の小杉武久を中心に結成され、ジャズ、ロック、現代音楽などあらゆるジャンルの要素を融合させながら、即興演奏を軸に、パフォーマンスやハプニングなども飲み込んだ前衛アートを展開していたわけですけれども、その活動の中で、そして移住した新潟は十日町の深い自然の中で掴んだ宇宙的感覚(本人の言葉をお借りすると「コスモロジー」)を表現するために、長谷川さんは「STONE MUSIC」として日々研鑽されているわけです。
今回のCAMP Off-Toneでは、12人編成という大所帯で、水と石に育まれた森の中、長谷川さんのルバーブ(アフガニスタンの弦楽器)と声をはじめ、サンプラー、ギター、エレクトリックドラム、竹などなど、様々な音による演奏が自由に絡み合い、さらに形態模写や超現実的な所作など、まさに「タージマハル旅行団」から引き継がれたようなパフォーマンスも加わり、子供も大人も混じって心で響きあう、特別な時間を作り上げます。
そして、この演奏者やパフォーマーたち、実は現在のアンビエントシーンで活躍中のアーティストばかりなのです。これは、80年代の日本産環境音楽というものが世界的に注目されている現象が、いま生まれつつある日本のアンビエントシーンとして、この2020年代にまで影響が及んでいる証しです。そして長谷川さんの「タージマハル旅行団」には、その環境音楽再評価の中心的存在のひとりでもある吉村弘も参加していたのです。つまり「STONE MUSIC」を体験することには、70年代から2020年代という、音楽史上の「現代」と「現在」が繋がっている様を体感できるという意味もあるのです。
極めつけは、このような特別な時間と意味深い体感を、リアルタイムでレコードカッティングを行い、パフォーマンス後に会場で販売するという、前代未聞の試みです。
当然、そのレコードは1枚だけ(演奏が長いので複数枚にはなるものの)なわけで、時間と体感をその場で溝として掘り込んだ彫刻作品とも言えるでしょう。
これはファンならずとも大注目です。
2日目の夕方から夜にかけて、時間の変化を強く感じながら、長谷川さんによるワークショップでの導入部と、そこから始まる、めくるめく「STONE MUSIC」のコスモロジーの世界に身も心も浸かりながら、深く高く響きあってください。
Kaoru Inoue(Inner Space)
すっかり宇宙感覚へと連れて行かれたそのあとは、Inner Spaceで、我らがKaoru Inoueが登場し、これまた強烈な体験が待っています。
90年頃よりDJをスタートし、オルタナティブなダンス・ミュージックの可能性を追求してきたその活動は、現在、アンビエントやニュー・エイジ、オブスキュア・サウンドまでを視野に入れた全方位型の音響体感パーティー”Euphony”を主宰するところにまでおよび、DJ/音楽プロデューサーという肩書きだけでは語れない、思想家の側面をも持つ稀有な音楽家です。
このセットでは、きっと、深淵なる心象のような、他では味わえない世界を見せてくれると思います。
ヤマジカズヒデ+NARASAKI(Outer Space)
夕刻からここまでの、内と外が混在してしまうかのような「遊ぶ」時間を経て、物語はさらに様々な側面を見せ始めます。
古参の音楽ファンにとって「dipとCOALTAR OF THE DEEPERSのフロントマンがタッグを組む!」と言うと、なかなかセンセーショナルに聞こえるかもしれません。
しかしそのサウンドはなんとアンビエントなのです。
ヤマジカズヒデ、NARASAKI両者ともに、80年代より自身のバンドで活動し続け、映画やドラマなどのサントラ、楽曲提供、著名アーティストのサポートメンバーなど多岐にわたる活躍をしているのは、いまさら言わずもがなですよね。
しかし、ヤマジカズヒデがコンスタントに続けているソロライブで、ここ数年、顕著にミニマルミュージックやジャーマンロック的なアンビエントサウンドでのアプローチを披露し、孤高な世界観の構築に成功していることはご存じでしょうか。そしてNARASAKIも2022年に『HINODE TRACKS (SOUND FOR RELAXATION)』というオーセンティックで美しいアンビエントアルバムをリリースしていたことも、みなさんどうでしょう、ご存じでしたでしょうか。
一部の好事家で盛り上がり続けている環境音楽ブームとは全く別な流れで、ひっそりとたどり着いたこの動きをキャッチしてしまった自分は、これを現在のアンビエントシーンへ紹介する必要があるのではないかと考えました。
そこで、さっそくライブ会場で相談し、数年を経てラブコールに応えてくれた形で、今回のブッキングが実現したのです。
その音は、2日目の夜という最も深く音と遊ぶ時間を、オルタナティブでサイケデリックな空気に塗り替えてくれるでしょう。
この奇跡の瞬間を絶対に見逃さないでくださいね!
SUGAI KEN(Inner Space)
さあ、そしてこの流れをさらに面白くしてくれる、誰あろうSUGAI KENの登場です。
日本の夜を彷彿とさせる独特なスタイルの音作りとパフォーマンスで、世界中の暗闇を一気に異界へと誘っている、時空デザイナー的からくりトラックメーカーです。
これまでCAMP Off-Toneには何度も出演してもらい、そのたびに強烈な印象を残し続けて来た彼ですが、ライブ以外でも〈EM Records〉からリリースされた「如の夜庭 Garden in the Night (An Electronic Re-creation)」という、夜の虫音を電子音で完コピした狂気の作品を、CAMP Off-Toneで本人公認の元に会場内のお風呂BGMとして使用したこともあったのを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回はInner Spaceでのライブです。
闇夜に繰り広げられる音の奇祭に、あなたの想像力は完全に解放されるでしょう!
KOSS(Outer Space)
解放された想像力が少し拠り所を求めるころ、そこにピッタリのアーティストとしてKOSSにお願いしました。
KOSSとは、札幌を拠点に活動する音楽家、Kuniyuki Takahashiのelectroやtehcno、ambientなどの要素を実験的に取り入れたユニットで、もはやCAMP Off-Toneでもすっかりおなじみとなりましたよね。
あらゆる音楽に対する造詣と深い愛情から紡ぎ出される音は、全て即興で打ち込まれ、その場で構築されているとは思えない強固な世界観で、辺りの空気を一変させます。
いままでそんな光景を、CAMP Off-Toneのお客さんは何度も目撃したはずだと思います。
今回も会場にある「なにか」を使ってサウンドソースにすることで、「土地からの発想」を、より強く感じさせてくれるでしょう。
「遊ぶ」をテーマにした2日目のOuter Spaceの締めくくりとして、心に広がる宇宙に大地の安定感を与えてくれる、そんな時間になるのではないでしょうか。
Chee Shimizu(Inner Space)
見事締めくくられたOuter Spaceを引き継ぐ形で、今度は違った形の音と「遊ぶ」表現を見せてくれるDJとして、Chee Shimizuの登場です。
日本におけるクラブ・カルチャー黎明期の90年代初頭より活動を開始し、現在は、幅広いジャンルを網羅するフリースタイルを展開するDJであり、リミックス/リエディット・ワーク、文筆家、プロデューサー、レコード・ショップ/レコード・レーベル主宰など、音楽旅先案内人としても多彩な仕事に従事しています。
夜の最も気持ちが華やぐ時間帯に、Off-Toneにふさわしいセットを披露してくれます。
膨大な知識と信念に裏打ちされながら、難しさを微塵も感じないその選曲センスを堪能してほしいのです。
今回表現に用いられるその知識領域は、オーディオにまで及び、サラウンドシステムのポテンシャルを存分に生かした実験を実施してくれます。
これは、アンビエントの誕生にまつわる手法や理論を、DJセットを使ってアップデートする試みで、これはOff-Toneが元々DJカルチャーの中から派生した事を考えると、エンターテインメントとしても文脈的な考察を可能とする面からしても完璧だと思うのです。
しっかりと体(Physical)で感じることができ、後からも反芻して考えることができる。
なんてすばらしいのでしょうか。
これは見逃せません。
そして疲れたら外に出てマーケットのPhysical Storeで一杯の暖かいハーブティーなんか素敵じゃないでしょうか。
塩尻寄生(Inner Space)
いよいよ「遊ぶ」日も終わりに向けてラストスパートです。
ここで登場するのが、現在大躍進中の塩尻寄生です。
「現地の暮らしと電子音の巡り会い」、「異界感漂う不思議なムード」、「心を青に染める哀愁」などを、80年代のNew Wave的実験精神に乗せてサイケデリックに紡ぐDJです。
一筋縄ではいかない雰囲気が伝わりますよね。
少し夜更かしのInner Spaceで、音と遊ぶ時間をきっちりと仕上げてくれるはずです。
そうして心ゆくまで楽しんだあとは、「遊ぶ」日を振り返りながらゆっくりとお休みください。
Tomoyoshi Date(Outer Space)
さて、最終日のテーマは「送る」です。
そんな日の始まりもまたTomoyoshi Dateの夜明けを告げる音から始まります。
谷川俊太郎の「朝のリレー」という詩に、
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
というフレーズがあります。
演奏の始まる5時53分は、まさに誰かから朝を受け取った時間です。
「送る」と「送られる」にある、全く同じ意味を感じられる瞬間となるでしょう。
Kaoru Inoue(Outer Space)
またもや夜明けからの二度寝タイムを挟み、Kaoru Inoueが2度目の登場をしてくれます。
以前、あるフェスで、朝一でのニューエイジ的なセットが忘れられなかった自分は、Inner Spaceの夜とOuter Spaceの朝という2セットでの出演をお願いしたのですが、快く承諾してもらえた時がどれだけ嬉しかったか。
前日のInner Spaceで見せてくれた深淵なる心象といえる世界に続き、3日目の朝は、例えるなら神聖なる光というような世界を見せてくれるのではないかと思っています。
そして、3日間体験した人にとっては、それらのふたつの世界が共存する様が浮かび上がってくるはずです。また、ひとりのアーティストの両面を、最高の環境で続けて体感できること自体とても貴重で、その相互補完的な体験は、非日常を超えた日常を見出すような、「音楽のある未来」を確信させる体験につながるのではないかと思います。
Sound Furniture(Outer Space)
音楽家 / サックス・フルート奏者、藤枝伸介による、空間の時間と質を高める "上質な家具のような" オト・音楽というコンセプトから、その名を付けたプロジェクトです。
藤枝さんにはCAMP Off-Toneでは最初期から関わってもらっておりまして、2016年には「Sound Furniture feat. 今西玲子 and 山本コヲジ〜 和ambient Set〜」と題して、箏とクリスタルボウルを入れたコラボ編成なんかもありましたね。
そんな藤枝さんにSound Furniture名義で初めてCAMP Off-Toneに出演してもらったのは2014年だったのですが、まだ寒い時期、録音したばかりの音源を三軒茶屋で聴かせてもらったことがありました。
その音源こそがファースト・フル・アルバム「Rituals」で、感動した私はその場で出演依頼したのでした。さらに発売時には、HMVのサイトに掲載するインタビューでインタビュアーを私が担当し、今読むとかなり熱量の高い濃ゆく踏み込んだやり取りをしていることに、我ながら驚いたような次第です。
そんなリスナーとしても思い入れの強かったアルバム「Rituals」なわけですが、今年のテーマを「Ritual -聴いて考えて眠る3日間-」に決めた時、やはりまず思い浮かんだのがSound Furnitureに「Rituals」を再現したセットをお願いできないか、というものでした。
すぐに相談したところ、なんとバンド編成での演奏を提案していただいたのです。
これは本当にすごいことで、当時はインタビューでも「芸術には合議制は存在しない」とまで語っていたほどに非常にパーソナルな世界観を繊細に突き詰めて作り上げられたものが、9年の時を経て他者の介在を受容したということですから、そのあたりの変化含めて注目しないわけにはいきません。
編成は、フルート、サックスなどの藤枝さんを中心に、バイオリン、ビブラフォン、ピアノという4人です。しかも今回のCAMP Off-ToneのOuter Spaceにはアコースティックピアノが設置されます。
いまサラッと言いましたけど、そう!生のピアノが森の中にあるんですよ~!
日曜の朝、目覚めたあとの、最も気持ちが開いた時間に「Rituals」という、日本のアンビエント、ニューエイジ、環境音楽、そしてOff-Toneにとって重要なアルバムが、目の前で生まれ変わります。
どうぞお楽しみに!
小久保隆+楯 直己
大切な大切なメインテーマの提示に続き、ここからは日本の環境音楽ブームのレジェンドたちが続きます。
これは、初日に「迎え」、2日目に「遊び」、そしてその様々なものと親密になったこのタイミングで、自然へと「送る」ために、長年にわたり自然や環境との調和を考え、作り続けてこられた、その蓄積を敬いながら、会場の空気づくりをお任せすることが、何よりの「送る」になるのではないかと考えたからです。
そのためInner Spaceもこの日は終了し、Outer Spaceのみで、音を「送る」ことに集中したいと思います。
というわけで、その最初として、2019年にはお昼の時間帯に出演していただき、その年のベストアクトの声が高かった小久保隆さんが、ゲストプレーヤーに楯直己さんを迎えて登場です。
実は小久保さんは会場のある北杜市を長年の拠点とされており、まさにこの土地の自然を知り尽くした上での参加なわけです。
そしてそこに声や様々な楽器を駆使して宇宙的なアンビエントサウンドを紡ぎ出す楯直己さんが加わることで、土地に根差しながら、自然と宇宙を同時に感じられる時間になるのではないでしょうか。
INOYAMALAND(Outer Space)
続いては、こちらももうおなじみと言って良いほど、大活躍のおふたり、INOYAMALANDが登場です。
念のためご説明しますと、40年以上にわたり活動を続ける、井上誠と山下康によるシンセサイザーユニットです。
あのヒカシューのオリジナルメンバーとしても知られる二人ですが、83年に細野晴臣のプロデュースでデビューアルバム「Danzindan-Pojidon」をリリース以降、コンスタントに音楽制作、ライブ活動を続けて現在に至る大ベテランデュオなのです。
CAMP Off-Toneでは2018年に初めてお呼びしたのですが、これは実はCAMP Off-Toneを始めたころからずっとスタッフ内での目標でもありました。
個人的にもずっと「Music for Myxomycetes」が大好きで、いつかCAMP Off-Toneで見たい!と思いつつ、当時は目立った活動の情報もなかなか目にすることがなく、目標とは言いながら、どちらかと言うと夢のようなニュアンスで思い描いておりました。
ところが、ちょっとしたご縁で連絡が付きそうということになり、意を決してお願いしてみたところ、奇跡が起きました。
なんと「Danzindan-Pojidon」や「Music for Myxomycetes」の再発企画が進んでいることを逆に教えていただいたのです。
ですので、Off-Toneはこのタイミングでいち早く野外にお呼びできた、という2018年になりました。
それ以降のご活躍や新譜リリースなどの活発な動きはみなさんご存じの事と思われます。
今回はそれに続いて、二度目のご出演。
ミニマムな機材と阿吽の呼吸で無限のストーリーを作り出すおふたりですが、尾白の森ではどんなストーリーとなるのでしょうか。
森の樹々を背景に楽しそうに演奏されるおふたりを想像するともう期待感の高まりが止まりませんね。
尾島由郎&柴野さつき(Outer Space)
そして最後に登場となるのが、2019年に出演していただき、大好評だったベテランのおふたり。
最初にオファーをするまでに、実は私の個人的なストーリーがありまして。あれは2018年の六本木SuperDeluxeでのこと。あの時はMiki Yuiさん(今回出演されます!)と大ベテランのCarl StoneさんがRealistic Monk名義で出演されるイベントで、Mikiさんとわたしの共通の友人におススメされて、観に行ったのでした。
そこでご共演されていたのが尾島由郎さんと柴野さつきさん。
素晴らしい演奏に感嘆していると、柴野さんのリーディングが始まりました。
「いま、月がのぼりました」
わたしはこれを聴いた瞬間、その既視感(既聴感?)にドキッとしまして、曲のすばらしさ以外に不思議な感触を持ったまま、終演後の会場を後にしました。
そして帰りの道すがら、いきなり思い出し、六本木の道端で思わず叫びました。
「あー!セント・ギカだー!!」
隣にいた妻は驚いたかと思いますが、そう、あのリーディングの曲は、91年にわたしが聴いていたセント・ギカという衛星放送ラジオで流れていた不思議なジングルだったのです。(WOWWOWを契約していた家の友人に録音してもらっていた。)
急に中3の自分とおっさんの自分という30年スパンの点と点がつながり、クラクラとめまいを覚えました。
しかもこの曲、アルバムで持っていたのにも関わらず、あの時すぐに思い出せなかった自分のズボラな記憶に呆れ、これは絶対に来年お願いして、Off-Toneのお客さんにきちんと紹介しようと決意し、その経緯もご説明差し上げた結果、出演していただいたというわけなのです。
尾島さんと柴野さんのライブで演奏される楽曲たちには、月の動きや潮位で番組構成を決めていたセント・ギガ(St.GIGA)という、未だに類を見ない革新的なコンセプトの影響が根底に感じられ、「月」とは切っても切れない親和性があるのです。
今回のCAMP Off-Toneは、ちょうど新月ということで、暗くなった時間に「見えない月を感じる」という意図を込めて、おふたりの音を森に響かせたい。
こう思ったのです。
というわけで今回は、おふたりの音でCAMP Off-Toneを締めくくります。
いつもは昼前の時間にDJで終わるということが多かったのですが、せっかく日が沈んでからの終演という設定を初めて採用したのですから、最後に「見えない月を想う」ことで3日間ずっと感じ続けていた「音」を明日へ送り出す、ということをやりたいと思っています。
そのあとはそのまま延泊して翌朝を迎えるも良し。
ゆっくりと帰路に就くもよし。
深い余韻はみなさんの心の中で、素晴らしい日常への架け橋となってくれるでしょう。
これが、CAMP Off-Tone 2023のタイムテーブルに込めたメッセージです。
どうぞみなさま、楽しみながら、聴いて考えて眠る3日間をすごし、心によいものを残してあげてくださいね。
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