特になんでもない by春野

窓に雪がつくような寒い日の授業中、瞬きの瞬間、そこは夏だった。

蝉の鳴き声と羽音がやけにうっすらと聞こえて、突然夏の記憶が蘇った。

木から溢れ出した空と葉っぱの影の色が混ざって、目を焼き尽くしてしまいそうなあの夏の色。

暑さにやられたコンクリートがアイスと一緒に溶けたあの匂い。

東京に単身赴任した父親に会いに行ったついでに美術館へ行くために歩き回った、慣れない道の景色。

その全てが教室の中に充満した。

いや、私の周りだけだったかもしれない。

とにかく、それは夏だった。

そのとき私が感じたのは、冬は案外、夏と同じなのかもしれないという、なんとも言えない懐かしさだった。

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