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貴方の「ただいま」が聞きたい

6月初めの金曜日、お昼を食べ、午後の仕事が始まるか…と思っていた刹那、その電話はかかってきた。

スマホには、だんなからの着信を告げる表示。仕事中に電話なんて珍しいなと思い、電話に出ると、簡単に説明されたのち、職場の人に電話が変わられ、「救急車を呼ぶ。連絡つくようにしておいてほしい。」と告げられた。心拍数が一気に上がる。はやる気持ちを抑え、自席に戻るが、仕事は上の空。

少しして、また着信。すると今度は救急隊員からで、「意識がなく、脳出血の可能性あり、救急車で搬送する病院が決まったので、すぐ向かってください」との連絡。私はすぐに上司に報告し、慌てて職場を出た。電車だと急な連絡も受けられないし、家族への連絡もままならない。私は迷わず、タクシーに飛び乗った。

道すがら、だんなの実家へ連絡。しかし義母のスマホにかけるがつながらない。そういえば、スマホを変えたとか言ってたっけ。あいにく、義実家の電話番号も登録していなかった。焦って自分の母親に電話し「義実家の連絡先がわかるか」と聞くも、当然わからない。仕方なく義母と義姉にメールを送り、電話を待つ。すると義姉が連絡係を引き受けてくれ、状況を説明。まずはしかるべき相手に連絡でき、ほっと胸をなでおろした。

タクシーが病院につき、病院に入る。救急入口を教えられ、入るが受付に人がいない。しばらく待つとスタッフが通りがかり、事情を説明。「ご主人の会社の方が一緒に来ている」といわれ、一緒に救急車に乗り、荷物なども持ってきてくれていただんなの会社の方2名と挨拶を交わした。

会話もままならぬうち、「先生から説明がある」と呼ばれ、まずは救命の先生から説明を受けた。脳幹出血…一ヶ月は入院…その後はリハビリステーションへ…情報量が多すぎて頭がパンクしそうだった。「詳しくは、脳外の先生から説明する」と言われ、一旦待合室へ戻った。

すると、看護師さんから必要な書類を渡され、「まずは入院手続きをしてきてください」と別棟を案内され、だんなと対面していないうちに、促されるまま、入院窓口へ向かう。すると入口で検温を求められ(コロナ対策)、測るとまさかの37.4度。マスクをしてエアコンなしのタクシー(これもコロナ対策)に小一時間乗っていたし、いろいろ焦ってるからそら熱も上がるわ。普段は36度台だと伝えて、なんとかクリアした。

入院窓口で説明を受け、また救急病棟へ移動。すると今度は脳外の先生に呼ばれ、詳しい説明を受ける。とりあえず緊急で手術の必要はないと聞き、ひと安心。この後ようやくだんなと対面した。

意識があり、会話ができた。顔を見ると、涙がこみ上げてきた。病室に向かう前に、だんなの会社の人と少し話し、会社の人にお礼を言って、大量の荷物を抱えて入院病棟へ移動することに。だんなが病室に運ばれている間、しばし廊下の椅子で待機することに。

その間に義姉に連絡、身元保証人連絡先をお願いし、書類を記入。そうしてる間に義母から着信あり、状況を説明。その後、談話室に移動し、看護師さんに入院の説明を受けた。書類を書きながら、説明を受ける。

荷物の受け渡しは看護師を通してできるが、コロナ対策で基本面会はNG。これはなかなか厳しい、が仕方がない。帰る前にだんなと短い面会ができると言う。念のため、入室前に再度検温すると36度台になっており、安堵。手指消毒をして病室に入室した。

運ばれた部屋は、ハイケアユニットという看護師常駐の重病患者専用の病室だった。目が合うと、仕切りに謝るだんな。手を握ったり、顔を触ったりしたかったけど、簡単に動けない相手に、むやみに触るのは躊躇われ、ぐっと我慢して、ブランケット越しに腕を掴んだり、足をさすったりした。

貴重品含め荷物は持ち帰るよういわれ、スマホと充電器だけを置いて、だんなのリュックと洋服を全て持ち帰った。次に会えるのは退院のとき。…病室を離れがたかった。それでも、長居は禁物。ぐっと涙をこらえて、笑顔で手を振って、病室を後にした。

帰り道、2人分の荷物を抱えて家路につく。なんとか帰宅して、義姉と義母に電話。その後、実母からも電話があり、状況を説明。まただんなの会社の方にも連絡し、今日のお礼を伝えた。そのあと、一人で声を上げて泣いた。

それから、3週間。

その間、入院手続きに行ったり、だんなの自転車を取りに行ったり、荷物を何度か病院まで届けたり、いろいろあって大変だったけど、私は私で1人の生活、気をつけねばと食事や飲み物、運動など、新しい習慣を作るべく努力し、3キロ痩せるなどの思わぬ副産物もあり、あっというまに過ぎ去った。

そして、リハビリが順調に進み、明日、予定より早く退院できることになった。今日、病院に呼ばれ、栄養指導と主治医からの診察をだんなと一緒に聞いた。「脳出血した量が少なく、あと一回り二回り出血が広がっていたら死んでいたかもしれない、本当に運がよかった」と先生に言われ、改めて、助かってよかったと心から思った。幸い、麻痺もなく、普通にひとりで杖なしで歩いたり、階段を上り下りしたりすることができるようになっている。右半身の感覚障害は残り、長い付き合いになると言う話だが、それで済んで本当に良かった。

退院後はまだしばらく自宅静養。その後、外来受診で職場復帰の判断をするとのことで、まずは普通の生活に慣れるよう、頑張ってほしい。

明日、ようやくちゃんと会える。病院を出て、一番最初にしたいことは、思い切り貴方を抱きしめること。そして手を繋いで家に帰るんだ。

感覚障害だけでなく、また同じことが起こらないよう、高血圧、悪玉コレステロール、中性脂肪など、生活を変えて改善していかないといけないことはたくさんある。それでも、また、貴方と一緒に生きていける未来が来てくれて、心から嬉しい。生きていてくれて、ありがとう。

早く、貴方の「ただいま」が聞きたい。

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