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コレクタブル投資の普及に必要なこと

現物資産にも押し寄せるデジタル化の波

 インターネットの登場により株式投資はもちろん、様々な投資に関する情報が格段に入手しやすくなりました。アンティークコインなどのコレクタブル資産においても、インターネットの登場をきっかけに大衆に普及し始めたという経緯があります。海外のオークションやディーラーとの取引であっても、オンライン送金のサービスを活用すれば、自宅から一歩も外に出なくても現物を自宅で受け取れるようになっています。
 近年においては、現物資産についてもデジタル化の波が押し寄せ、新しい投資商品が次々と登場しています。アンティークコイン業界でも、数年前から部分所有権やNFTなどモノそのものではなく、デジタル化された権利を売買する投資が登場しています。権利を購入したコインはオンラインで画像を見ることができ、これらの商品はデジタルコレクタブルとも呼ばれています。
 NFTはアートを中心に数年前に大きなブームになりましたが、今は沈静化しているように見受けられます。技術的にもビジネスモデル的にもまだまだ改良の余地があったのだと思いますので、今後、どのような形で現物資産のデジタル化が浸透していくかに注目しています。ただ、NFTや部分所有権と聞くと、胡散臭いと感じる人はまだまだ多いでしょう。権利がデジタル化されて現物が手元にないなら、証券などの金融資産と同じではないか、と反発する人もいるかもしれません。
 これらのデジタルコレクタブルは、コレクタブル投資が普及するきっかけにもなるので、私個人的には歓迎したいと思っています。高級腕時計は、コレクタブル資産としてそこそこ知られるようになりましたが、投資対象と認知されているコレクタブル資産はまだ少ない印象です。よく取り上げられているクラシックカーやウィスキー、アンティークコインなどは平均単価が高く、金持ちの道楽と見られがちなことが影響しているのだと思います。資産価値があるのはわかるが、私たち小市民が気軽に買えるようなものではないし、まして投資対象にするなんてイメージがまったく湧かない、ということでしょう。
 コレクタブル資産を販売するディーラーにとっては、富裕層をメインターゲットにして単価が高い商品を扱う方がビジネスとしては優秀かもしれません。しかし、今のままでは、コレクタブル投資=富裕層だけが実践できる投資という先入観が定着してしまい、コレクタブル投資の裾野が広がらないのではないでしょうか。もちろん、「富裕層がこっそり実践している投資手法」というキャッチコピーは、むしろ小市民に刺さるのかもしれませんが。
 メジャーなコレクタブル資産の単価が高いのは、すでに資産価値が広く認められており、コレクターや投資家からの需要が大きいからです。メジャーなコレクタブル資産は、急激に価格が上昇するというより、コレクターの実需が下支えするので価格が下がりにくいという特徴があります。リスクを分散して資産を保全したいという富裕層のニーズにも合っています。単価が高くてもすでに市場が成熟したコレクタブル資産を好む富裕層が多いことは理解できます。
 私としては、もっとコレクタブル資産が広く普及して欲しいと願っているのですが、そのためには私のような小市民でも気軽に取り組める価格帯のコレクタブル資産も少なくないことを周知させる必要があるのではないでしょうか。もちろん、価格帯が低いということは、資産価値がまだ確立されていないということなのでリスクが当然高くなります。しかし、リスクは利益の源泉ですので、リスクを避けていては望むリターンを得られません。少ない資金でコレクタブル投資を実践するなら、自らの意思でハイリスクハイリターンの低価格帯コレクタブル資産を選択することもできる、投資にはそういう自由があるべきだと思っています。
 1枚数千万円するレアコインの所有権をデジタル化して、1口数万円の部分所有権として売り出すのは、富裕層しか手を出せなかったレアコイン投資を小市民にも解放するということですので、その意義は素晴らしいことだと思います。日本政府も「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて投資を推奨していますので、今後はこういった投資がやりやすいような法整備が進むことも期待できるかもしれません。直近では、政府はNISA口座による株式投資を推奨していますので、コレクタブル資産のようなマイナーな投資商品を支援する気はないとは思いますが。

投資の特徴をわかりやすく説明する用語とは

 今後、コレクタブル投資が広く普及していくためには、何が必要でしょうか?現物資産に関する法整備、優良ディーラーや情報提供メディアの参入、投資家への啓蒙活動など、いろいろな項目が思いつきますが、私はまず用語の統一と定義をして欲しいと思っています。コレクタブル資産は複数の業界にまたがりますので、全体を統括できるような団体や組合を作るのは難しいでしょうが、公的機関が何らかの指針を定めてもらえると助かります。
 私は、「収集する楽しみのある現物資産」という意味でコレクタブルという言葉を使っています。英語では収集品を意味する単語として、コレクタブルとコレクティブルがあり、基本的には同じように使われますが、コレクティブルが趣味で集めるモノ全般を指すのに対して、コレクタブルには歴史的な価値や希少性があるものというニュアンスが含まれるそうです。ヴィンテージと同じような意味でコレクタブルが使われている業界もあるようです。
 コレクタブルとほぼ同義の日本語としては、コレクション、収集品、骨董品(アンティーク)、嗜好品、コレクターズアイテムなどがあります。実際にネット上のコンテンツを検索しても、「コレクション投資」や「収集品投資」などが使われている例も少なくありません。表記にバリエーションが豊富なことも、コレクタブル投資の認知度が今一つ高まらない要因の一つかもしれません。
 日本では毎年「流行語大賞」が大きな話題になるように、言葉として広く認知された商品やサービスがヒット商品になるという傾向があります。マーケティング的にもバズワードと呼ばれる言葉が流行することで、その関連商品やサービスが売れるようになる事例をよく目にします。コレクタブルという言葉をごり押しする気はありませんが、初見の人にもイメージしやすい用語に統一できれば、コレクタブル投資に興味を持つ人が増えるのではないでしょうか。
 私が集めているアニメ原画に関して、昨年、嬉しいニュースが飛び込んできました。2023年6月に政府がまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の中で、メディア芸術ナショナルセンター構想の推進を図ることが盛り込まれており、これを受けた動きと思われます。「メディア芸術」については、文化庁が公表した資料では、「メディアアート、アニメーション、マンガ、ゲーム、映画等、複製技術や先端技術等を用いた総合的な芸術」と説明されています。
 このメディア芸術ナショナルセンターが実現すれば、マンガやアニメ、ゲームなどに関連するコレクタブル資産に対する国民の注目度が高まると期待しています。ただ、この活動が盛り上がるかどうかは、「メディア芸術」という言葉が浸透するかどうかにかかっているような気がします。
 実は文化庁は「メディア芸術」という言葉を古くから使用しており、1997年以降、文化庁メディア芸術祭を毎年開催しています。残念ながら、今のところはメディア芸術という言葉の認知度はそれほど高くないように感じます。せっかく骨太の方針に盛り込まれた構想なのですから、政府としてもメディア芸術という言葉の普及や啓蒙にもう少し力を入れてくれたらいいのに、と思ってしまいます。
 コレクタブルに関しては、NFTを使ってコレクタブルをデジタル化したサービス名に使われている例もありますので、コレクタブルにはデジタル化されたイメージがあるのかもしれません。やはり言葉や用語から直感的に浮かぶイメージはとても重要ですね。いずれにしても、コレクタブル投資とは、対象とするモノには様々なバリエーションがあり、各人の予算に応じて自由に選択できる投資である、ということをできるだけ多くの人に知ってもらいたいと思っています。

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