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移住、軽トラ、チーム結成。野楽プロジェクト『あさまごと』に至るまで

松本市で、野楽プロジェクトというものを、2020年から始動した。
その第一弾の企画『あさまごと』が、10月9日・10日に控えているので、
紆余曲折を経たこれまでの経緯を簡単に記しておきたい。

⓪松本に移住
2020年初夏。
コロナで色んな予定が吹っ飛び、外に出るのも憚れる(なぜだか今よりも)日々を過ごしていた東京。ひょんなご縁で松本に1ヵ月滞在制作してみることになり、mizhen佐藤蕗子と一緒に、松本のとあるアパートにやってきた。
滞在10日目。「あ、東京のアパート解約してもええかも」と思い立ち、不動産屋に電話をして、世田谷区の家を解約した。ので、必然的に松本に移住したことになった。


①軽トラを買ってしまう
コロナ禍で、色々動き方も変わり、劇場に行きづらい日が続くならこっちから行っちゃえばいいのでは? と、蕗子と「モバイルシアター」構想が生まれる。mizhen裏参道フェスのときにお世話になったSAMPOの塩浦一慧さんや、スナックニューショーインをとりまとめているR65不動産の山本遼さんをはじめ、トラックに家を積んだモバイルなハウスを持っている人が周りに何人かいたのだけど、それの劇場バージョンがあればいいのにな。と、ずっと羨ましく思っていた。
そうして、いっちょ自分らで「モバイルシアター」を創ってみよう!と、蕗子はまず「モバイルハウス」の作り方をYouTubeで研究。私はとりあえず一番近くで一番安く手に入るATの軽トラを電話で問い合わせ、その流れで、軽トラを買った。ちなみに、免許はこの時持っていなかった。


②柳沢大地さんが参加
その後、鬼の免許合宿(辛かった)で無事AT普通免許を取得し、晴れて軽トラを運転できる身分となる。モバイルシアターを早速作ろう!となったが、作るにしても、DIYもやったことない非力な2人では無理じゃん、と、なぜ今気づいた、というタイミングで気づき、松本在住の助っ人を集うことに。

野楽プロジェクト はじまり

松本市出身、京都工業繊維大学M1の柳沢大地さんが、即、リプライをくれた。即、返信をして、即、蕗子・藤原・柳沢3人のオンラインミーティングが開かれ、即、ちょっと手伝ってもらうことになった。
そこから、だんだんミーティングの頻度が増え、
毎回夜中まで建築視点と演劇視点が交差する意見の交換が行われた。

第一フェーズ

※これは、モバイルシアター(仮)の柳沢さんが初期に書いていたラフ。


③モバイルシアター(仮)を作る。
最初は、モバイルハウスに近い形状を想定し、劇場として活用するならどんな開口部がいいか、あれこれ話していたのだが、だんだん議論していくうちに、私達は、モバイルハウスじゃない形を求めている!ということに気づく。
できるだけ融通がよく、上に乗っても耐性があるぐらい強度が強く、シンプルなモバイルシアターを作ろう、という方向性に決まる。
うちの住民や、手伝いに駆けつけてくれた方、近所に住む大家さん等に助けられながら、頑丈な構造の形が出来上がっていった。

yagaku写真

色塗りをしているところ。


④モバイルシアターちゃうんちゃう?問題
色々話していくうちに、今度は「モバイルシアター」という言葉がひっかかり始めた。
2020年にとよはし芸術劇場の高校生と創る演劇で『Yに浮かぶ』のテキスト・演出を担当したとき、コロナ禍初期の執筆ということもあり、フィクションが書きづらかった。そして、「目の前に“ある”ものが過去も未来も含むすべて。“ある”を書くだけで十分」という気持ちで、リサーチした民話をもとに、高校生キャストに当て書きをして創作をした。
そのとき、“創る”という行為を、これまでよりも少し、世界との間においた体感があり、このときの感覚が新鮮で、ずっと気になっていた。
自分が関わったけど、これまでよりももっと自分のことじゃない感じ。なんか、花育てた、みたいな。この感じで、これまでより、外の条件や環境に影響される中で、つくる、ということをやってみたい。と思った。

「モバイルシアター」だと、価値が定まったものを持って移動するみたいなイメージだからなんか違う……その地域でしか起きえないことが生成されるような……なんかこう……こちらが関わることで劇場になっちゃうみたいな……

この頃から、3人の話し合いは、具体的に何を創るかというよりも、「そもそも、何をやろうとしているのか」ということに立ち返ることが多くなった。建築の観点から、柳沢さんから素朴な問いを貰って、それについて言葉を選ぶことで発見することも多かった。


⑤「野楽」誕生
知らず知らずのうちに、手伝ってもらう、というはずで声をかけたやなちゃん(だんだん呼び方が柳沢さん→やなちゃんへ移行)は、なんだか重要なメンバーの一人になっていた。
3人で初めて松本で外食をした日、今私達がやろうとしていることについて、「演劇」以外の言い方をしてみたい。という話になった。
もともと、「演」にも「劇」にも、何かを見せる側がいて→それを見る側がいる、というイメージ、何かドラマティックなものが目の前にあるものを前提にしている言葉に感じて、それが少し、何かやりたいこととズレているような、言い当てられていないような、もごもごする感覚があった。
「演劇」という言葉が使われ始めるより前の、「能」や「文楽」のような、なんだか音楽的なニュアンスがあるような……しっくりくる言葉があれば一度それを使ってみたい、と、ずっと思っていた。
……演じる側も観る側も区別なくなって、一緒に共振するような………
その土地でしかできないっていう意味合いも含めて……でも祭りとも違って……とあれこれ3人で日本酒を飲みながら真面目に検討した結果、

“野楽(やがく)”という言葉が生まれた。

「だってほら、折坂悠太の『夜学』も好きやし。」
という酔いのテンション混じりの発案だったので、酒を抜いた朝にもう一度全員で確認したが、満場一致で、“野楽”に決まった。

“野楽”
ーその土地(野)で、集った人と共振して(楽)、遠くへ。


そして、軽トラと舞台達にも名前をつけようと、蕗子と藤原がやっているオンラインスナック「みずとひ」で、お客さんに相談(企画に行き詰まると、すぐお客さんに相談する)。
Kさんの案で「野楽(やがく)」に使う軽トラ&舞台は「楽舟(がくしゅう)」、と呼ぶことにした。

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白く塗り上げた楽舟ちゃんの前にて。

⑥FESTA松本に参加が決定
インドをコンセプトにした集団が祈りに来てくれたり、杮落しで落語家さんが一席やってくれたり、軽トラが入院したりイオンモールで物損事故したり、話し出せばいろいろあるが、まだ本題に入れてない。先に進めよう。
串田さんから、10月に開催されるFESTA松本で何かやりませんか。と連絡が来て、“野楽”をやるチームで参加することにした。
FESTA松本は中心部での企画が多そうだったので、せっかくだったら松本に初めて来た人にも、色んな松本の場所を巡ってもらえるといいんじゃないか、という想いもあり、場所は浅間温泉に決めた。
これにより、野楽を初めて試す場所が決まった。ここで、改めて自分たちが“野楽”でやろうとしていることを整理した。

〇作品を「つくる」という態度から、関係性の中で作品が「なる」ための、創作態度について考えてみたい
見せる人見る人を、これまでと違う関係で結んでみたい
〇創作において、土地や地域の人との関わり方について考えてみたい

つまり、これはまだ見ぬ創作態度についての実験だった。
創作態度そのものについて、手を動かしながら検討することが重要なのだと気づいた。
そうして、このまだ見ぬ野楽的な態度を検討するプロジェクト、として、
「野楽プロジェクト」と名乗ることにした。(最初は便宜的に決めたものが、何度も名乗るとそろそろしっくりしてきた)
浅間温泉をリサーチして実施する今回の企画のタイトルは、『あさまごと』。当初『浅間de野楽』(アサマデヤガク)になりかけたが、辞めて良かったと思う。

そして、せっかくだったら、松本の学生で一緒に関わってくれる人を集おう。
と、これまたTwitterで呼びかけてみたら、信州大学1年の太田さくらさんと森下なみさんのお2人が、参加してくれることになった。
これで、今回の野楽プロジェクト『あさまごと』主要メンバーの5人チームができあがる。

⑦『あさまごと』のリサーチが始まる
浅間温泉について、地域に詳しい方や、昔からずっと浅間に住んでいる方、元芸者さんなど、色んな方にお話を聞かせてもらった。

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浅間温泉が団体客で賑わっていた時代のこと、戦後の話、戦時中には、学童疎開で旅館が疎開先だったこと、昔は松本駅から浅間温泉終点でチンチン電車が走っていたことなど、これまで休日温泉に浸かりにいくだけでは知らなかった浅間のエピソードを沢山教えてもらった。

そして、『あさまごと』を、街のどの場所でやるのがいいか、検討した結果、元芸者さんの稽古場だったという田辺薬品さんの二階をメイン会場とすることにした。

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田辺薬品の二階会場で、あれこれ打ち合わせする様子。

(余談だが、個人的に、住んでしまうとリサーチが難しかった。色んな地域で滞在制作してみて、旅人モードでいる方が良さそうだ、と思ったので、歩いていける距離の宿に旅人のつもりで泊まったりしながら、態度を調整した。)


⑧『あさまごと』を、練り上げていく
「野楽」とは何か
「あさまごと」は、何か
今の出会いの中で何を生んでいくのがあるべき姿か、
リサーチや企画を進めながら何度も議論し問い直し、そのたびに言語化され、言語化されることでまた発見をし、やりたいことが見えてくる、というプロセスを延々と繰り返している。当日まで一週間を切った今もなお、問い直し続ける渦中にある。

浅間温泉をよく知る人も、初めて来た人も、
この土地の過去・現在・未来について想像して、遊ぶ時間。
というのが、今回一番やりたいことだ。

これまでの創作だったら、もうゴリゴリ磨き上げにかかっている段階だが、ギリギリまで形自体を疑って、いつでも壊して本質に立ち戻りたいと思っている。そして、その態度が許されるプロジェクトでもある。
例えば、楽舟ちゃんをメインに始まるはずだった野楽プロジェクトだが、今回『あさまごと』においてはそんなに重心を担うことはなさそうだ。

「ゴールを決めない」「関係性を固定しない」「偶発性の余白を残す」
普段通らない道を模索しながら、使い慣れていない筋肉を稼働させるのは、不安も大きいけれど、それを上回る刺激がある。

⑧『あさまごと』は、もうすぐ開催
色々端折って駆け足になりましたが、野楽プロジェクト『あさまごと』は、こんな感じで紆余曲折、生まれました。

今回、感染対策により各回限定10名となりますが、
参加者には、“架空の宴”に参加していただき、遊びや、演劇、街歩きなど様々な角度から、浅間温泉を想像して遊ぶ時間を実践したいと思っています。
また、後日10月14日、ゲストを招いてアーカイブを交えながらのオンライントークも予定しております。こんなご時世なので色々ご事情あるかと思います。興味があるけれど都合がつかないよ、という方、是非トークもチェックしてみてください。

野楽プロジェクト『あさまごと』
10月9日(土)・10日(日) 各回13時~(2時間程)
会場:田辺薬品2階(〒390-0303 長野県松本市浅間温泉3丁目3−9)
企画:野楽プロジェクト
メンバー:佐藤蕗子 藤原佳奈 柳沢大地 太田さくら 森下なみ

チケット:投げ銭制
定員:感染対策のため、各回10名
予約:yagaku.info@gmail.com まで
①お名前 ②ご連絡先の電話番号ご記入の上ご予約ください。先着順でのご案内となります。

FESTA松本『あさまごと』企画詳細▶https://festamatsumoto.com/event/asamagoto/

野楽プロジェクト『あさまごと』フィードバックトーク
10月14日(木) 19時半~21時半
youtubeLIVEにて配信
出演:野楽プロジェクト(佐藤蕗子、藤原佳奈、柳沢大地)
ゲスト:分藤大翼(信州大学准教授、人類学)

【配信アーカイブ】
YouTubeとして開いていただくと、概要欄に前半のタイムライン書いてありますので、ご参考ください。



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