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建築家が見てきた”メタバース”の輪郭

こんにちは。Fujitoです。

建築家・XR空間デザイナーとして、フィジカルな空間とバーチャルの空間を設計・デザインしながら、”メタバース”を観測しています。
(”メタバース”としているのは、まだまだ実現していない概念であると考えているためです。)


そんな中で”メタバース”が単なる建築3DCGのすごいやつとして捉えられていたり、グラフィックの綺麗さのみを指標にしているようなことがあったりしました。


なんとなく外から見た状況とのズレを感じることがたびたびあったので、その違和感に触れておこう
と思い、記事にしました。

”メタバース”をどう捉えるか

”メタバース”については、参考になる書籍や情報をたくさん出してくれているのでそういった書籍を読んで理解を深めることも重要と言えます。

しかし本の知識だけを得て、体験や実践を省いて「自分の考えるメタバース」を語っている事例や講演やwebサイトを見たりすることが稀にあります。

一時的な利益のためか、本当にこの分野を開拓していきたいのか、その辺りは不明ですが、

表面的に理解をするのではなく、まずはその世界の周辺領域で起きていることを観測してみることが、ズレを埋める方法であるのかなと思います。


◇XR領域には上質な空間をつくるクリエイターたちが多くいる事実

XR領域はその周辺領域の1つだと思っているのですが、

そこには上質な空間を作れる方がすでに数多く存在していて、そういったクリエイター達が作る空間をよく訪れてさせていただいています。

本当にリスペクトするものばかりで、それは新しい表現だったり、新しい体験だったりと毎回発見に満ち溢れています。
こういったことに遭遇すると少しずつ輪郭が見えてきたりもします。


またプラットフォームとしても今後気になる事例は数多くあり、どのような思想を持ってそれらを作っているかを理解するのも必要です。


◇物凄いスピードで環境が変化している

上記のようなXR領域の技術や仕組みは日々物凄いスピードで進化しており、それを若いうちから学ぶ環境も整ってきています。

小学生からでもゲームエンジンを学べますし、すでに頭角を表している10代のクリエイターもいます。

経験や慣習以外にも、そのクリエイターのいる環境や世代によって作られる世界は様々で、彼ら彼女らから学ぶことも非常に多いです。


またバーチャルの空間制作の大衆化が一気に進んでおり、clusterのワールドクラフトのようにスマホでバーチャルに空間を作れる時代にもなってます。


ゲームエンジンを利用したものと比べると自由度は低くなりますが、アセットの種類や数が増えてきたり、制約を逆に利用したりと、面白い空間は着実に増えてきています


”メタバース”とは何か?という定義の話をするつもりはありませんが、

周辺領域も含めて新しい技術と新たな知見が多く出てくる中、クリエイター(エンジニアも含む)たちが頭を捻りながら取り組んでいる分野だと思っています。

こういったことを観測しているだけでも、現時点では『メタバース空間を作る ≠ 建築の3DCGを作る』という図式もなんとなく見えてきますし、

個人的には”メタバース”はもっと複合的で新しいデザイン分野だと捉えています。

空間のデザインができ、現実の建築の特性についてよく知っているだけでは、この分野を取り扱うにはまだまだ十分ではないなと感じることもあります。


『メタバース空間を作る ≠ 建築の3DCGを作る』とは?

建築業界でも建築3DCGのレンダリングが綺麗になってきていたり、Twinmotionのようなツールの存在で一定の品質のものであれば、以前よりも簡単に制作できるようになってきて技術は進化しています。

しかし現時点では『メタバース空間を作る ≠ 建築の3DCGを作る』の図式のように、イコールにならないと感じております。その理由を2つほど記載したいと思います。

1:グラフィック以外にも考慮されている要素がある

普段建築CGなども業務の中で作るのでパースや3DCG動画のグラフィックは非常に大事な要素だと理解していますが、

それらは設計者によって見せ方が決められているものであり、ユーザーがいる”メタバース”とは性質が全然異なるものです。

”メタバース”ではグラフィックは確かに大事なのですが、それよりもどういう体験がそこではできるのか(UX)が重要視されている気がします。そのため目的設定とそれに合わせた秀逸なデザインが必要なのではないでしょうか。

ユーザー体験(UX)については、物理的な空間でも非常に大事なことだと考え、建築設計に取り込んでいますが、比較するとバーチャル空間のUXと物理的な空間のUXも性質が違うことをよく感じます。

そもそも距離や時間の概念を超越し、ワープができたり、重力を無視でき、空間ごと入れ替えることができるような世界で、

物理的な世界の知見や常識、価値観を持ち込んだところで、100%は活かせません。

またそれがHMDなのかPCなのかモバイルなのかによっても変わってきます。

ゲームデザインからも学んでいることは多く、いかにユーザにストレスなく使ってもらえるのか工夫がたくさんしてあったりします。

直感で使える、驚きや感動がある、気持ちよく使える、ストーリー性、空間認知、コミュニケーションを取るのが気持ち良い・・・など考えられている項目は多数あります。

2: 3Dデータの性質が異なる

立場的に建築業界にも詳しいので、「今の建築業界の3Dデータの性質」をみてもズレがあります。

建築業界内の3Dデータとしては、BIMモデルとして活用したり、ある視点から見た魅力的なシーンを切り出しているパースや、動画(一部VR)などで使用するのが主流です。

しかし、実際の設計業務で使っている3Dデータに関しては、現状は”メタバース”で使うにはデータが重すぎる状況です。

データが重たいと当然アプリが落ちたり、思うように動いてくれません。UXについても影響が出てきます。そのため”メタバース”で使う際は、適切な軽量化が必要になっています。

デバイスの種類、容量制限、プラットフォーム、空間にどんな演出やオブジェクトが追加されるか、全体を想像してデータと向き合い制作するのですが、

ポリゴン数の調整やテクスチャやライトベイクをうまく工夫したりしながら、表現したい世界観に必要なディテールを意識し、同時に軽量化についても考えて作っていくスキルが必要と感じます。

※ただ『現時点では』としているのは、AutodeskとEpic Gamesが提携をしたりと確実に状況は変化しているので、将来的にはある程度のハードルは下がるのかもしれません。(その場合はRevitを使うという別のハードルがありますが。)


結局、建築設計は”メタバース”で役に立つのか

XR領域の現状と、単なる3DCGでない理由をこれまで書いてきましたが、

StudioとVitualLabの2部門で取り組む中で、
現状は建築設計スキルについては、役に立つこともあれば、全く役に立たないこともあるという印象です。

なぜなら制約条件や設計デザインの対象も全然異なり、必要となる知見や技術も数多くあり、
重なる部分とそうでない部分があります。

建築学についても、そのまま持ち込むのではなくどう応用していくかが結局のところ大事になってくるのではないかと思っています。

余談ですが、実務的なスキルの部分では、私が建築業界でやってきたことで活かせているなと感じることはいくつかあるので、メモ程度記載しておきます。

・3Dで自由に空間デザインができる
・プロジェクトの全体を把握し空間のディレクションをする(経験による)
・後の工程について配慮して制作する
・クライアントの意向を踏まえてビジュアライズする
・利用者や使い勝手について考えて空間設計する
・多くの技術者や各分野のプロと調整し、
一緒に空間設計する
・スケール感覚や構成を理解している
                                など

物理的な建築でも言えることなのですが、やはりバーチャルでも、技術を正しく理解することも重要だと思います。

例えば、ギミックについても自分で実装しなくても知見はあったほうがいいです。
(当然私自身も日々勉強の身です!)

全体像を理解し、共通言語で会話をすることが大事で、それによって空間デザインの方法が変わってきますし、どんな価値を与えられるのか解像度高く考えることができるのではないかと考えています。

最後に

Virtual Labで取り扱っているXR領域から”メタバース”について感じていたことをつらつらと書きました。

今年は”メタバース”という別のナニカから”メタバース”として期待が持てるものまで、様々なものがリリースされていました。


実際、定義や正解がまだまだ曖昧な分野なので、作りながらでないと見えてこないこともあるなとは思います。

来年もXRについて取組みながら、"メタバース"について観測をしていきたいと思います。この記事内で深掘りできていない所も少しずつnoteにできればと思います。

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(自身の総括的な記事はまだ別で書こうと思います。)


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