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『ILLUME』とはなんだったのか:第2回:副題に込められた意味

第1回では誌名から、その意図を考えてみました。そして、誌名に込められた意図とコンセプトを集約し磨き上げた珠玉の言葉が「ILLUMEの言葉」となったことを解きました。

刊行にあたって

「ILLUMEの言葉」が、編集顧問によってもたらされた、ある意味、理想とする姿であるとすると、もう少し現実的な、発行元が表した言葉があります。

それは、「ILLUMEの刊行にあたって」というものです。

 私たちの今日は、人類による創造の所産のもとにあり、未来の建設もまた私たちの創造と英知と努力にかかっています。
 この理念のもとに、私たちは、科学・技術の視点から多彩に創造活動をとらえるILLUMEの刊行を企画いたしました。
 本誌が社会の進歩と創造の風土づくりに、いささかでもお役に立てば幸いです。
                          東京電力株式会社

編集側がILLUMEという名前に込めた「光を照らす」試みを受けて、発行者側は「創造活動」を「多彩に」捉えたいという意図と、「科学・技術」の視点からという制限を提起しています。

実は、ここに、この本が生まれる事になった「きっかけ」と「幸運」があったと考えます。

副題があったILLUME

実は、ILLUMEには創刊時には記載されていませんが、副題がありました。

創造する人のための科学情報誌

というものです。

これは、前回でもちょっとだけ触れた本誌が刊行される事になったプレゼンテーションにおいて、元々東京電力から提示されたオリエンテーションを読み替えて、今、東京電力が社会に向けて発行する企業情報誌を作るならば、本当に必要なものは「創造する人のための科学情報誌」であると提案した事に端を発しています。

このオリエンテーションを読み替えた話はまた別の会で詳しくやりたいと思いますが、その、いわばオリエンを無視したプレゼンに対して、発行側の責任者である東京電力のK氏が感銘し、この「創造する人のための科学情報誌」を発行するためにコンペをやり直し、急遽第2回目のコンペが行われたことが、「きっかけ」であり「幸運」だったのです。

ではなぜ、K氏はこの提案に感銘されたのでしょう。

それは、この本を発行した部署名に関係があります。

営業部が発行する情報誌の意味

その前にコンペの背景を説明する必要があります。

このコンペは、東京電力営業部内に新しくできた部署の目玉事業となる「企業情報誌」の発行委託業者の決定のために主要広告代理店7社が集められて行われました。

この新設部署の名前が「エネルギー未来開発センター」というものでした。

エネルギーの未来を開発する部署と聞くと、当時、新エネルギーと呼ばれていた再生エネルギーなどの既存の発電方法以外の発電システムや、脱石油というような視点を考えるかもしれません。

しかし、コンペが行われたのが1988年とはいえ、そうしたことはすでに、研究所や経営企画部などで行われていたはずです。今更、新たに部署を作ってまで行う必要があったでしょうか。

実は、この部署が「営業部」に新設された意味がありました。

エネルギーの未来を「営業部」が開発するというのは、作り方ではなく、使い方を考えることであり、さらに営業部が直接相対する「電気代を支払ってくださる方」にエネルギーの未来をお伝えする、ことを開発する必要があるということを示していました。

そこで立案されたのが「情報誌」の発行です。

そして、「幸運」という言葉にしましたが、初代のセンター長だったK氏が素晴らしい方だったことが、この部署のスタートを決めていました。

K氏は、こうした「開発」を広告代理店などの外注先に丸投げするのではなく、自らが関わることを部下にも課しました。その意図は、K氏が自ら提案し新設した部署である「エネルギー未来開発センター」では、お客様だけではなく、社員の意識も開発する必要があるという点にありました。

自社の未来は、若手社員の存在なくしてはあり得ず、彼らこそが会社にとっての未来の新しいエネルギーであり、この部署が起爆剤となって、「自社のエネルギーの未来を開発する=若手社員の意識も変えていく」ということに至る必要があると考えていたのでした。

しかし、K氏はそれを部下に公言はせず、一人心の中に秘めて、コンペに望んでいたのだけど、類型的な各社のプレゼンの中に、オリエンを無視したものだけども、自分の思いに呼応するような熱く・強い提案に出会った。そう感じたので、この企画に賭けたのだと、後年、K氏から編集プロデューサーのA氏は聞いたそうです。

ILLUME刊行にあたって

熱い思いを持った武士のような人だったと、A氏がK氏を評した事がありました。

東京電力側の担当者がK氏でなければ、本誌は生まれなかったでしょう。

「ILLUMEの刊行にあたって」についても、エネルギー未来開発センターと言う部署名だからこそ「未来の建設もまた私たちの創造と英知と努力」と言う言葉があり、「本誌が社会の進歩と創造の風土づくり」に貢献したいと言う言葉になったのだと思います。

創刊時の「ILLUMEの刊行にあたって」は東京電力株式会社名で掲出していますが、後日「ILLUMEのことば」ができ、毎号掲載するうちに、もう少し簡潔に本誌を説明する言葉が欲しいという要望が、共に編集に臨む東京電力担当者から出てきました。

そこで作られたのが、「On ILLUME=ILLUME刊行にあたって」でした。

ILLUME(イリューム)刊行にあたって
ILLUMEは、科学・技術とヒューマニズムの交叉がもたらす人間の多彩な創造活動をとらえ、科学教育の発展と科学ジャーナリズムの振興に僅かでも寄与することを願い、社会貢献活動の一環として刊行いたしました。

On ILLUME
ILLUME
is published as part of our philanthropic program in order to further an understanding of the various creative activities which emerge from the intersection of science & technology, and the humanism. With this publication, We wish to make a major contribution to the development of scientific education and the promotion of scientific journalism.

日英両方を載せたのは、日本語だとわかりにくいところが英語だと明確になるからです。

ちなみに、ILLUMEは重要なところは全て日英併記でした。各記事のタイトルと要約、筆者紹介=Profileなども英語で掲載しています。その英文はネイティブチェックされたものを翻訳会社で制作していました。本来は全文を英語で掲載できれば良いのですが、時間も予算も追いつかないのでタイトルと要約だけになったのですが、その要約を作るのも大変でした。英語で意味が伝わるように日本語を考える必要があるためです。単純に要約を作ると日本語は曖昧な表現になりがちで、英語にするとき単語の選び方を間違いがちなのです。単語が異なれば意味が変わってしまうのは当然ですが、それだけではなく、英語で同じような意味の表現にしたときにも、日本人が受け取る意図と、ネイティブの人が受け取る意味がずれることもあることを、この時に学びました。

なので、日本語では多様に取れる文章が、英語にすることで意味が絞られることもあります。

この日本語と英語で言うと、社会貢献活動をphilanthropic programとしているところが重要なのですが、その説明は次回に。

創刊号をスキャンしてみました。だいぶ色が変わってしまった。

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サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。