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💗Short:料亭離れの接待に駆り出され

少し昔の話。爽子の勤めている銀行では、定期的に本社から内部監査が行われている。いつもは粛々と行われていたが、爽子の担当になった時、男性事務の勘違いによる処理が行われ、軽微な案件だったが、特別監査の対象となった。

「本店から特別監査が来る。接待を組んでおけ」
上司からの命だった。
「滞りなくな」
爽子は念を押されていた。

早速、日程に合わせて料亭・彩香(さいか)を予約した。その地区では、料亭・彩香は知る人ぞ知る料亭だった。母屋と離れがあり、要請すれば、どちらか一方だけ営業し、持て成すことができる。監査人は一人だったので、離れの方を選んだ。離れは`よく内密に行われる接待に使われていた。

爽子は大学を出て、この支店に配属された。当時、その銀行では、学部卒の女性の採用を始めたしばらく経過した頃だった。控えめながら着実な仕事ぶりに管理職からは高い評価を得ており、重宝されていた。

爽子は大学時代男友達はいたが、男友達は爽子と付き合おうとはしなかった。手を出せば、結婚を迫られる、爽子はそんな古風さをまとっていた。

しかし、合宿に参加した時、思わぬ先輩に寝込みを襲われた。大広間に寝た深夜、静まり返っている大広間に衣擦れの音が続いた。爽子は高まっていく疼きを堪えていた。誰かが、トイレに起きて行った。先輩は発覚を恐れ、静かに立ち去り、爽子に火種だけを残`してしまった。

特別監査人がやってきた。温厚だが、どこかシャープな雰囲気を醸し出していた。どうもキャリアーか。応接室に通された特別監査人は爽子を見ると、瞬間ハッとするような表情を見せたが、ビジネスライクな身のこなしで仕事に着手した。

現場から終了の知らせが入った。爽子は直属の上司とともに、料亭・彩香に案内した。到着すると、手筈通り、3人は離れに案内された。女将が直接案内したのを見ると、直属の上司はよく説明していたようだ。

「今夜はお一組だけです」

女将は直属の上司に説明する。離れは秘密めいた雰囲気がある。料理が運ばれていく。上司はあくまでも慎重で、丁寧だ。接待をよくしていることから、料亭料理の謂れを監査人に丁寧に説明する。監査人もよく承知していたようだ。

監査人は話しながら、上司から爽子に視線を移す。爽子は白いシャツブラウスを着ており、シャツの前身ごろにはボタンだけが並んでいる。その時は、まだ監査人が爽子の胸のふくらみを確認しているとは思っていなかった。

(古風そうだが、・・・)

爽子は姿勢を正して応対している。姿勢を正すと、シャツが張り、胸あたりもしっかりと盛り上がっている。

上司は爽子の様子を見て、日頃の爽子とは違う雰囲気を感じていた。

(今夜はやけに丁寧だし、艶やかだな)

地元料理の品が一品出てきていた。爽子の好きな料理だ。爽子の説明もなぜか、「舌で絡めると・・・」想像があらぬ方向に行きそうな表現を使う。

料理を食べ終えたとき、上司が監査人に伝える。
「頭取に呼ばれていますので」
監査結果の報告が要るらしい。
「地元の銘酒があるので、手配しておきました。私はこれで」
監査人を見ながら、
「彼女は、明日午後の出勤になりますので」
爽子を見ながら、
「後はよろしく」

上役は料亭を出るとき、女将に目配せをしていた。女将も心得ているのか、かすかに頷くだけだった。

仲居が銘酒を持ってきた。ウニ料理が添えられていた。爽子は何度か酌をしたことがある。丁寧に酌をする。監査人は手慣れたように酌を受け、銘酒を褒める。

爽子は知っている限りの知識で、銘酒を説明する。爽子も薦められるままに酌を受ける。上役が言っていた言葉を思い出していた。「丁重にな」

翌日の昼には、監査人による報告がある。「いい報告になるといいがな」上司の言葉が耳奥で繰り返す。爽子は仕事で失敗したくはなかった。結婚もしないつもりだ。

結婚をしないと決めてから、困ったことが起きていた。勤めが安定してからは、毎夜疼きを感じるようになっていた。時には、自分で慰めるが、どうしても余韻が物足りない。

「まぶしいな、部屋の明かりを絞ってくれないか」「雰囲気の良い中で飲みたいね」「差し向かいもいいが・・・」そういいながら、監査人は爽子を誘う。「隣に座らないか」

爽子は誘われるまま、隣に座ると、監査人は爽子の身体に触れんばかりの位置にずれた。「さぁ、君も飲みなさい」お猪口を渡される。

爽子のスートは短いわけではないが、座ると、膝上がかなり出る。爽子の膝からスカートへ続く太ももはしなやかそうで艶がある。監査人は愛でるように見ているようだ。やがて、爽子の膝上に手をおいた。

爽子は少し驚いたが、監査人の手の感触はどこかしっくりと感じる。しかし、爽子は監査人の手から逃れるために、酒を所望した。監査人は徳利をかざしながら勧める。2杯、3杯と飲むと、ほろ酔い加減の爽子の警戒心がほどけていく。
「足を崩しなさい。楽にして」
すすめられるまま、爽子は足を崩した。爽子の両足の間に隙間ができ、監査人が誘われるように見ている。爽子の膝上はさらに艶を帯びていく。

監査人は物知りだった。爽子の関心を高める話に比重を移していく。声が爽子の身体に染み込んでいくようだ。いつの間にか、爽子の身体が監査人の身体に接っしては離れ、離れては接する。爽子の体温が監査人の身体に伝わり、監査人の体温が爽子の体温と交じり合う。

厨房では、最後の人が片づけを終えた。厨房の電気が落とされ、離れの片づけを残している。静けさが押し寄せるとともに、秘密の出来事を、秘密のこととして、離れの出来事がおぼろに霞んでいく。料亭の庭の中で、離れの光が薄暗い。

もうすっかり爽子の警戒心はなくなり、男に馴染んでいる。男が箸でゆっくりウニを爽子の口に運ぶ。

「さぁ・・」

爽子は勧められるままウニを口にする。ウニを口に含んだ時、男は爽子の右から手を回し、唇で爽子の唇に重ねるように触れる。爽子はウニを飲み込むのをやめ、舌で受けている。男はウニを舐めるようにゆっくりと吸う。

爽子は男とウニをやり取りするように舌を絡める。もう爽子は男の左腕の中に納まっている。男の右腕は爽子の膝を撫で始めた。とろけたウニが爽子と男の舌の絡まりに溶け合ってしまう。

男はウニが蕩け消えると、右手を爽子の膝から撫で上げるようにスカートの中で這い上がっていく。やがて男は爽子の上半身をゆっくりと押し倒し、覆いかぶさっていく。


待機していた女将に爽子は挨拶する。

「お送りしてきます。」

見送る女将に、二人は軽い会釈をする。監査人と爽子は到着したハイヤーに乗り込み、料亭を後にした。














秘密めいた環境に置かれ、爽子は合宿の出来事を思い出していた。










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