💗Short：熟れ始めた桃の味＊山芋がお好き

「ヤマイモが好きな女性って多いわ」

作家の料理本を読みながら、得意げに、ページを示して

「でしょう」

反応を窺っているようなまなざしだ。仕事中に割り込んでくる。いつものはおしとやかな部類に属するが、何かの拍子で興奮してくると、構ってもらいたいのか、仕事に割り込んでくる。

ご機嫌を損ないたくない。おいしい食事にはあり付きたい。食材を持ち込んで来ていた。見ると、長芋の先端が買い物バッグからはみ出ている。

「どんな料理を作るの？」
「そうね、自然薯よ、長芋よりもトロリとしているわ」
「へぇ」
とぼけて見せる。長芋と思ったのに、なぜ自然薯、粘りが濃いのが好きなのか。

買い物バッグから食材を取り出し、せっせと料理をしだしたかと思った。気が付いてみると、後ろから視線を感じる。

背中に温かい感触が伝わる。肩から手を回して、背中に身体を密着させてくる。ムニュとする感触が背中全体に広がっていく。

耳元で「ねぇ・・・」と小さい声が粘るようだ。自然薯を擦って口に含み、舌で転がして、飲み込んだらしい。「じ・ね・ん・じょ・・・」意味ありげに区切りながら発音する。どこか艶めかしい響きだ。

立ち上がり、向きを変え、彼女の正面に向き、肩に手をやる。見ると、自然薯をわざと唇に残している。いたずらっぽく、「おいしいと思うよ」

誘いに応じるように彼女の身体を抱き寄せ、首を傾げながら、彼女の唇に付着している自然薯を舐めていく。僅かに甘く、粘る感触が唇の感触と一緒に伝わる。彼女の唇が軽く開き、生温かく、粘り気の残る舌が絡みついてくる。もうかなり、誘い込むような動きを心得ている。

彼女のうなじに唇を這わそうとするとき、彼女は目で合図した。彼女の目の先には、いつの間にか、布団が敷かれていた。

「お願い・・・」

彼女の目がお姫様抱っこと言っている。彼女の体温は生温かい。触れれば、蠢きが止まらなくなりそうだ。

＊

＊

彼女は夜食の続きを始め、自然薯も擦って、焼いているようだ。大き目の皿に、擦って焼いた自然薯を盛り付けている。二人で顔を見合わせながら平らげた。

「美味しい・・・」

いたずらっぽいまなざしだ。

食事を終わり、仕事に戻った。彼女は手際よく洗いものをしている。

洗い物の音がしなくなった。帰り支度を始めたのか、衣擦れの音がする。着替え終わり、机のそばにやってきた。見ると、浴衣に着替えていた。浴衣姿がどこか色っぽい、単純にそう思った。

「先ほどよりも粘るかも」

いたずらっぽい目だ。そんな目をすることに驚いていると、立ち上がる様に促された。手が熱を帯びている。手の感触も潤みを帯びている。

引きっぱなしの布団に連れていかれた。

「今度は私の自然薯を味わって・・・」

語尾が潤んでいる。