💗Short：熟れ始めた桃の味＊しばらくぶり２・料亭に出かけて

原稿提出が終わり、仕事の切れ目ができた。早速、彼女に連絡しなければ。

彼女の仕事終わりの夜、電話した。自分の部屋でスマホを受信したらしい。待っていた声の響きがある。

「いつですか？」

言葉少なめだ。泊まりだと分かると、声が弾んできた。

＊

約束の日の昼過ぎ、待ち合わせて車で「幸亭」に向かった。「幸亭」は瀟洒な料亭として知られている。海の見える高台に構えており、眺望もひそやかだ。

車の中の彼女には、いつもの冷静さと控えめさが戻っていたが、どこか恥じらいがある。

「親に話したの」

彼女は言葉をはっきりと発することもせず、首を軽くわずかに振る。

「いぇ・・・」

親には、女友達と行くことにしているという。

「そう」

彼女はどこかに後ろめたさがあるのだろう。少し沈んでいる。しかし、だんだん目的地が近づくにつれ、想像するのか、桃白の頬が紅みを帯びてきている。

到着し、駐車場に車を止めると、海が見える。西に落ちる陽が夕焼けに染まりだしている。

高級料亭らしく、もてなしの品が高い。仲居は（親娘にしては）表情を隠しているようだ。

部屋に通され、瀟洒なガラス戸を開けると、目の前の先に海が広がっている。彼女は海を見るのが好きだ。

後ろから近づき、背後から右肩に手を回す。彼女の身体がﾋﾟｸﾝと小さく揺れた。「綺麗な海だ」彼女は肩に男の体温を感じながら、「そうですね」か細い声で応える。

懐石が運ばれ、美しい盛り付けと　深い味わいに感激する。食事が終わり、寝具が隣の部屋に用意された。

彼女は海を見るのが好きだ。お茶をたしなんだ後、再び、瀟洒なガラス戸を開け、縁側に並んで立つ。夜の海が月を映すように照らしている。

背後から彼女の腰に手を回す。彼女の身体がしなだれかかる様だ。「きれいだ」彼女の身体に寄せ、引き寄る。二人の体温が混ざり合う。

「この間のお詫びをするよ」「深い味わいがあるといいね」

彼女はうつむき加減に頬を染めそうだ。彼女をお姫様抱っこすると、寝巻が弛み、足元の寝巻の裾が膝上までハラリと滑り落ちる。桃白の肌色が艶を帯びてきている。布団に降ろされた彼女の姿態がかすかに蠢き始めている。

丁寧な愛撫が始まった。

＊

彼女は夢心地の中に漂った。
＊

朝、彼女が起きても、彼は眠ったままだ。新聞を読んでいると、朝食が運ばれてきた。しばらく待っていたが、彼が起き上がる気配がない。

彼の寝姿をみると、寝たままの形で寝続けているようだ。僅かに彼の身体が動き、寝言を言った。

「そう・・こ・・」（爽子）

はっきり聞き取れなかったが、女性の名前のように思えた。彼が女性の名前を口にするなんて。わずかな嫉妬心からか、彼女は寝ている彼の腹下に跨った。彼は驚き飛び上がる様に起きた。目の前に彼女のやや緊張した顔が見える。

彼は両手を合わせて、「ごめん、ごめん」と繰り返す。彼女は大胆なことも少し平気なっている。

少し遅れた朝食も、彼女には美味しく、彼にはどこか遅れてくる味を確かめるように味わうしかなかった。タガが外れそうな彼女を恐れている。

－－－終わり