見出し画像

[コント] 靴屋は靴を履かない(当て書き:おせつときょうた)

#オチの直前まで無料

#オチを予想してお楽しみください (4文字)

おせつ [靴屋]:革靴をお探しですか?
きょうた[客]:あっはい
お:もしかして,就活じゃないですか?
き:え?分かります?
お:分かりますよ〜その初々しい姿で「革靴」と言えばもうねぇ
き:そうですか?
お:そういうことでしたらね,ぴったりの革靴ありますよ
き:ぴったりの革靴?
お:「これを履いていけば面接が受かる」と噂になった革靴
き:えっ!?そんなすごい革靴あるんですか!?
お:しかも,軽くて,履きやすくて,歩きやすくて,雨にも強くて,靴底が減りにくくて,それでいてリーズナブルですからね
き:それほしいです!
お:まぁまぁそう焦らないで。「面接に受かると言われている革靴」にもいろいろ種類がありますから
き:その中で僕にぴったりなやつを!
お:うちはね,世界中の革という革を試してね,いろんな革靴を作ってる店ですからね
き:めちゃめちゃすごい店やないか
お:お客さんにぴったりの革靴が例えばね [レジカウンターから出てくる]
き:えっ?
お:これは定番の牛革なんですけどね
き:いやあの〜
お:はい?どうされました?
き:ご主人あの〜,なんで裸足なんですか?
お:え?
き:靴履いてないですよねぇ
お:履いてないですよ
き:なんでなんですか?
お:「なんで」って,私は靴を売る側の人間ですからね
き:靴って,「売る側の人間」と「履く側の人間」って分かれてましたっけ?
お:分かれてますよ
き:分かれてないでしょ
お:寿司を握る側の人間がね
き:寿司?
お:寿司を食べながら寿司握ってたら嫌でしょ?
き:嫌ですよそれは
お:同じことじゃないですか
き:何が同じなんですか
お:だから,寿司を握る側の人間が寿司を食べながら寿司を握っていたら嫌がられるのと同じように,靴を売る側の人間が靴を履きながら靴を売っていたらお客さんが嫌がるだろうと思って,私は裸足で靴を売ってるんですよ
き:・・・・・・。じゃあご主人は,靴を売る時だけ裸足なんですね?
お:普段も裸足です
き:普段も?
お:裸足のほうが気持ちいいですからね。靴なんて履いてたら蒸れたりなんかしてねぇ。気持ち悪いでしょ
き:だったらなんで靴屋になったんですか
お:ネットで調べたらね,「みんなは靴を履いている」って載ってたんでね
き:ネットで調べなくても分かるでしょそんなん。っていうか,そんな情報載ってます?
お:「それやったら大儲けできるやないか」と思いまして,靴屋になりました
き:めちゃめちゃやばい店やった
お:で,お客さんにぴったりの靴がね
き:[急いで帰ろうとする]
お:[腕を引っ張りながら] お客さんどうしました〜
き:ちょっと急に急用思い出したんで
お:「急用」は急に思い出すもんちゃうやろ。忘れるような用事なんて大したことないんですよ。就活のほうが大事でしょ〜
き:だからこそ帰りたい気持ちでいっぱいです
お:「面接受かる革靴ほしい!」言うてたやないか
き:そんなんないんですよ。「靴の力で受かる面接なんてない」ってほんまはみーんな分かってんねん
お:それ言うたらあかんやん。靴屋のモチベーション下がるやん
き:モチベーションなんで自分で保ってくれ
お:お客さんだって革靴ないと困るでしょ〜
き:今日買わなくてもいいんですよ。就活までまだ1ヶ月もあんねん
お:そういうことでしたか
[腕を離す] まぁ確かにね,お客さんの言うとおり,急いで買う必要はないですよ。靴は逃げたりしませんからね。靴というのは意外にも,そこに足を入れない限り,自分で歩いてどっかに行ったりはしないですからね
き:・・・・・・ [帰ろうとする]
お:[腕を引っ張りながら] でもね,でもね,特別な革でできた私特製の「面接受かる革靴」は限定品ですからね。売り切れますよこれは。今なら全種類揃ってますから
き:分かりましたよ。とりあえず見るだけ見ますから
お:[腕を離す] 見たらほしくなりますよ。絶対
き:なんでそんなに自信あるんですか
お:ちなみに,何革にするのかはもう決めてますか?

き:何革?何の革にするのかっていうのは前もって決めておくもんなんですか?
お:大抵,家で何革にするか決めてから店に来ますよ
き:そうなんですか?
お:もしかしてお客さん・・・,初めてですか?
き:初めて?
お:意外と靴のこと知らないみたいなんでね,「靴を買うの初めてなのかなぁ」と思いまして
き:そんなわけないやろ!靴履いて来てるじゃないですか
お:あ〜確かに。初めてだったら裸足で買いに来ますもんね
き:・・・・・・
お:二足目ってことですよね?
き:何足目かは知らんけど。「二足目」ってことはないやろ
お:まぁまぁ言うても四足目か五足目でしょうけどね
き:なんでやんねん!就活のタイミングで靴四足目か五足目って,足の成長どうなってんねん
お:それでしたら,こちらの革靴なんてどうですか?
き:これ?珍しい靴やなこれ
お:私特製ですからね
き:「私特製」って言い方なんか嫌やけど。これなんの革なんですか?
お:みかんの皮です
き:え?
お:みかんの皮でできた革靴です
き:これ,面接落ちますよねぇ?
お:面接で一番大切なことって知ってますか?
き:みかんの皮は履いていかないことじゃないですか?
お:健康ですよ
き:健康?
お:いかにも不健康そうだとね,会社側も採用しづらいじゃないですか
き:なんで急にまともなこと言い始めたんですか
お:この革靴を履いていればね,忙しい就活スケジュールをこなしながらも,みかんの皮のビタミンCが足に染み込んで健康を保てるという画期的な革靴なんですよ
き:百歩譲ってそうだとしても,みかん色の革靴履いて行ったら絶対面接落ちますよねぇ
お:あ〜違う色のほうが良かったですか?
き:あたりまえじゃないですか。就活ですからね
お:このシリーズはカラーバリエーションが豊富ですからね。お客さんの好みの色が必ず見つかりますよ
き:「就活」言うてるやん。「カラーバリエーション」なんていらなんですよ
お:こちらから,オレンジ,だいだい,レモン,ゆず,すだち,かぼす,グレープフルーツ。みかんの皮と合わせると,8種類のカラーバリエーションがありますからね
き:カラーバリエーションの幅どうなってんねん!
お:どれにします?
き:・・・・・・ [急いで帰ろうとする]
お:[腕を引っ張りながら] お客さんどうしました〜こんだけ靴出させといて,無言で帰るのはひどいでしょ〜
き:こんな色の靴履いて行ったら絶対面接落ちるやろ〜
お:だったら何色がいいんですか〜
き:黒や!面接は黒一択や!
お:柑橘系の革靴で黒は無理ですね〜
き:だから「帰る」言うてんねん
お:白ならあるんですけどね
き:面接に白の革靴って,「頭おかしい」思われるやろ〜
お:大丈夫ですよ〜これ〜みかんの皮の革靴にカビ生えて白いだけですから〜
き:余計あかんやろ!カビ生えた靴履いて面接行ったら〜
お:ほんならもう出血大サービス!このカビの生えた白いみかんの皮の革靴に,餃子の皮でできた白い革靴つけますから〜
き:勘弁してくれほんま〜
お:一旦落ち着こう。ねっ [腕を離す] 「餃子の皮の革靴は,無料でプレゼントさせていただく」って言ってるんですよ
き:だからいらないんですよそれも
お:なんでなんですか?
き:「なんでなんですか?」じゃないんですよ。餃子の皮でできた革靴ですよ。雨の日とか困るじゃないですか
お:あ〜雨の日ね。あの〜それなら大丈夫です
き:何が大丈夫なんですか
お:いやあの〜・・・雨の日に履けばね・・・,水餃子になりますから
き:どこが大丈夫なんですか
お:いやあの〜水餃子になればね・・・,それはそれで役立つこともあるじゃないですか
き:どう役立つんですか
お:雨の日に歩いているとね・・・,小腹がすくこともあるじゃないですか
き:・・・・・・。「食べろ」って言ってるんですか!?
お:「食べろ」とは言うてないよ
き:足に履いてる水餃子ですよ
お:足に履いてる水餃子は衛生面での問題もありますから,私のほうから食べることはお勧めはできません。でもまぁ,飢え死にするよりはね,足に履いている水餃子だってなんだって,食べたほうがいいですからね
き:小腹がすいたくらいで飢え死にする人なんていないんですよ
お:え?小腹がすいたら,あとは飢え死にするのみですよねぇ
き:そんな恐ろしいシステムないわ!
お:「いざとなったらなんだって食べたほうがいい」って言ってるんですよ
き:だいたいねぇ,餃子の皮で作った革靴?雨の日に履いたら水餃子になるんですか?
お:え?それはあの〜・・・ごく稀にねぇ・・・
き:ならないでしょ
お:なりませんよそりゃあ。なるわけでしょ
き:なんで嘘ついたんですか
お:お客さんが逃げようとするんでね。つい
き:「つい」じゃないんですよ。なんなんですかこの店は。変な靴ばっかり作って
お:別に変な靴を作ってるわけじゃないんですよ
き:作ってるじゃないですか。みかんの皮の革靴とか。餃子の皮の革靴とか。ふざけてるんですか?
お:結果的に変な靴になってしまったことは認めますけどね,ふざけてはないんですよ。「お客様に喜ばれる靴を作りたい」という一心で世界中の革という革を試してみたんですけどね,あるとき行き詰まって頭がおかしくなりまして,みかんの皮とか餃子の皮にまで手を出してしまったんですよ
き:「頭おかしい」という自覚あるんですね?
お:ありますよそりゃ。「皮違い」ですからね
き:ほんまに「皮違い」なんですよ。みかんの皮とか餃子の皮で革靴なんてできるはずないんですよ
お:私が目指してるのは,軽くて,履きやすくて,歩きやすくて,雨にも強くて,靴底が減りにくくて,リーズナブルで,健康的で,履けば履くほど革が丈夫になって,一生履ける革靴。そういう靴なんですよ
き:そんなすごい革靴あったら,僕だって喜んで買いますよ
お:あるんですけどねもう
き:あるんですか!? だったらそれを売ってくださいよ
お:これは売れないんですよ
き:なんで?
お:特殊な革でできた革靴なんでね
き:特殊な革?なんの革でできた革靴なんですか?
お:◯◯の皮でできた革靴です
き:あ〜◯◯ね

#オチを予想してお楽しみください

ここから先は

4字
この記事のみ ¥ 300

あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】