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[小説漫才] 多忙な株式仲買人のロマンス(当て書き:サンドウィッチマン)

#オチの直前まで無料

#オチを予想してお楽しみください (9文字)

題材:
多忙な株式仲買人のロマンス/O.ヘンリー
The Romance of a Busy Broker/O.Henry

伊達みきお:世の中で一番興奮するのは,証券会社に行く時だよね

富澤たけし:間違いないね

伊:ここか,富澤証券。なんか緊張するなこういうとこ入るの

富:証券会社の人がなんであんなに忙しいのかというと…,株の取引っていうのは時間との戦いですからね,どうしても…

伊:ちょっと待てって

富:なんだよ,今俺漫才中だぞ

伊:俺もだよ。俺今ちょうど富澤証券に入ろうとしてたろ

富:「富澤証券」ってなんだよ

伊:証券会社の名前だよ

富:お前漫才の最中に証券会社に行こうとしてたの?

伊:そういうコントだろ

富:漫才だろこれ

伊:分かってるよ。漫才だけどコントなんだよ

富:漫才だけどコント?何その哲学的な発言

伊:全然哲学的じゃないわ。俺らの漫才だいたいそうだろ。「世の中で一番興奮するのは〜だよね」って俺が言って,「間違いないね」ってお前が言って,コントに入るっていう

富:ちょっと何言ってるか分からない

伊:なんでだよ。これまでずっとこのスタイルでやってきただろ

富:昔はもう少し痩せてましたけどね

伊:そっちの「スタイル」じゃねぇよ。「漫才始まったらすぐコントに入ってただろ」って言ってんの

富:ちょっと思い出せない…

伊:こういうのに「思い出せない」とかある?

富:そもそも漫才の王道はしゃべくりですからね

伊:分かってるよ。俺らそういうのできないから「漫才コント」から始めて,最近は「しゃべくり」もできるようになってきたんだよ

富:漫才コントなんてやめた方がいいですよ。ちゃんとしゃべくりやんないと。しかも証券会社の漫才コントなんて絶対おもしろくないでしょ

伊:お前が言うなよ。俺らこれまで散々漫才コントやってきただろ。それに,お前が証券会社の漫才コントの台本書いてきたんだからな。俺だって「証券会社の漫才コントってなんだよ。全然おもしろくねぇな」って思ったけど,お前が「どうしてもやりたい」って言うから今日やることになったんだぞ。それも忘れたの?

富:ちょっと思い出せない…

伊:本気で言ってんの?じゃあ今日これからどうすんの?

富:これから?仕事終わったら今日はまっすぐ帰るよ

伊:予定聞いてんじゃないんだよ。お前今やろうとしている証券会社の漫才コントも忘れちゃったんだろ?

富:証券会社の漫才コントなんて書いた記憶すらない

伊:だから「この後漫才どうすんだよ」って聞いてんの

富:(笑)「この後漫才どうすんだよ」って(笑)漫才の最中に聞いちゃダメだろ

伊:お前のせいだよ

富:俺のせいなの?

伊:あたりまえだろ。お前がネタ忘れたからだろ

富:そういうことなら…,俺が責任を取りますよ

伊:どうやって責任取るんだよ

富:証券会社の漫才コントは思い出せないけど,「めちゃくちゃ忙しい証券会社の人が普段どういう生活をしているのか」っていう話ならできるから,その話しますよ

伊:お前証券会社の人の話なんて知ってんの?

富:俺の友人で証券会社に勤めてるやつがいますから

伊:お前の友人で?同級生の中にたまたま優秀なやつがいて証券会社に就職したのかな

富:ハーヴェイ・マクスウェルっていうやつなんですけどね

伊:外国人!? 絶対お前の同級生じゃないだろ

富:マクスウェルは株の取引でそれはもう忙しい生活を送ってましてね,仕事の時は「人間」っていうよりもう「機械」みたいなんですよ。うなりをあげて回転する歯車と勢いよく弾けるぜんまいで動く多忙きわまりない「証券マン」という名の機械

伊:だいぶ言い回しがかっこいいけど,そんなにすごいの?そのマクスウェルさんって人は

富:とにかく仕事はものすごくよくできるやつなんですけどね,欠点があるんですよ

伊:まぁまぁ人は誰しも欠点の一つや二つありますからね

富:仕事に熱中しすぎて,それ以外のことをすぐ忘れちゃうっていうっていうね

伊:お前だろそれ

富:俺そこまで仕事に熱中しすぎてないだろ

伊:だからだろ。だからネタ忘れるんだよ

富:マクスウェルの物忘れ具合は俺よりももっとひどいから

伊:お前の物忘れよりもひどいの?

富:マクスウェルにはレズリーという女性のアシスタントがいて,一年くらい一緒に働いてたんだですけどね,事情があって仕事をやめることになったんですよ

伊:アシスタントのレズリーさんが?

富:それで,「次のアシスタントをよこしてほしい」って紹介所に頼んだら,早速次の日に来たんですよ

伊:「働かせてほしい」っていう人がね

富:その時マクスウェルは秘書にこう言ったの

伊:なんて言ったんですか?

富:「僕がなぜそんなことを頼まなくちゃならないんだ?ミス・レズリーが来てくれてからこの一年,仕事ぶりに不満を持ったことなど一度もない。彼女が辞めると言い出さない限り,仕事は彼女に任せる。紹介所に連絡して募集を取り消しておくように。これ以上こういう人に押しかけて来られてはかなわない」

伊:レズリーさんが辞めるということをすっかり忘れてたの!?

富:しかも,「紹介所に頼んでおいてくれ」って自分で指示したことも忘れてますからね

伊:重症だなそれは。お前の物忘れと同じくらいひどいわ

富:まだ続きがあるから。絶対マクスウェルの物忘れの方がひどいから

伊:これよりさらにひどい物忘れがあるの?

富:その日の昼休みですよ

伊:株式市場の昼休憩ね

富:ふわぁ〜といい香りがしてきてね

伊:うなぎの蒲焼か何かの匂いかな

富:アメリカの話だから

伊:じゃあ何の蒲焼?

富:「いい匂い=蒲焼」っていう短絡的な発想やめろよ

伊:じゃあなんの匂いなんだよ

富:ほのかに甘いライラックの香り

伊:ライラックって…おしゃれだな。競走馬でしょ

富:花だよ。キタサンブラックと間違えてるだろ

伊:間違えてねぇよ。いそうだろ,ライラックっていう名前の馬も

富:だとしてもお昼に競走馬の匂いがしてくる証券会社なんてないから

伊:「ライラック」っていう花ね。花の匂いがしてきたの?

富:実はそれは,隣の部屋にいるアシスタントのレズリーさんの香りでね…

伊:急に恋の話の匂いがしてきたな

富:仕事人間のマクスウェルでも,いや,仕事の人間のマクスウェルだからこそ,これまで気持ちよく一緒に仕事をしてきたレズリーさんのことをいつの間にか好きになってたんだろうけど,何しろ仕事が忙しくて忙しくて…

伊:恋愛のことを考える余裕もないくらいの状態だったわけね

富:ところがこの日,ほのかに甘いライラックの香りをかいだ瞬間マクスウェルはこう思ったんですよ

伊:なんて思ったの?

富:「この機を逃してどうする?今言おう。今まで何をぐずぐずしてたんだ…」。そして,カバーに入るショートストッパーのような素早さで隣の部屋に飛び込んだマクスウェルはまっすぐにレズリーさんのデスクまで突き進みこう言ったんだよ

伊:なんて?

富:「あまり時間がないんだが,そのあまりない時間の間に話したいことがある。僕の妻になってもらえないだろうか」

伊:いきなり?単刀直入するぎるけどね

富:「世間一般の手続きを踏んで求婚する時間がなかった。でも,僕の気持ちに嘘はない。心から君を愛してる。黙ってないでなんとか言ってくれ,今すぐ。頼む。こうしてる間にも,ユニオン・パシフィックの株価が大暴落しかけてるんだから」

伊:株の取引をしてる人はそういう感覚なのかな?で?レズリーさんの反応は?

富:最初はあっけに取られ,それから,驚きに大きく見開いた目から涙がこぼれ落ち,やがて涙の間から晴れやかな笑みが浮かびあがった

伊:ちょっと複雑な反応のようにも見えるけど,うれし涙を流したってこと?

富:それから彼女はこう言ったんだよ。「わかったわ,やっと。いつものようにお仕事に夢中になりすぎたのね。それで,しばらくの間,ほかのことをすっかり忘れちゃったのね。最初はびっくりしたわ。もう,びっくりしたなんてもんじゃないぐらい。ハーヴェイ,覚えてらっしゃらない?わたしたち,昨夜の8時にあの角の小さな教会で結婚したのよ」

伊:えっ…ちょっと待って。結婚したことも忘れてたの!?

富:俺よりひどい物忘れでしょ

伊:それはお前よりひどいわ。じゃあレズリーさんは「結婚したことも忘れちゃったの!?」っていう驚きと悲しみとやるせなさの涙ってこと!?

富:まぁ最初はね。でも最後は「晴れやかな笑み」 を浮かべてたからね

伊:マクスウェルさんの「本気で好きだ」という気持ちが改めて伝わったのかもしれないね

富:マクスウェルの話してたら思い出した

伊:証券会社の漫才コント?

富:いや…,もうあまりネタの持ち時間がないんだが,そのあまりない時間の間に話したいことだ

伊:え?なんだよ急に

富:僕の相方になってもらえないだろうか?

伊:はっ!?

富:僕の気持ちに嘘はない。心から君に相方になってほしいと思ってる。黙ってないでなんとか言ってくれ,今すぐ。頼む。こうしてる間にも,ネタの持ち時間は終わりを迎えようとしてるんだから

伊:お前…,俺が相方だってことも忘れちゃったの!?

富:分からないかな。僕の相方になってほしいと言ってるんだよ。君じゃなきゃダメなんだ。それを君に知ってほしくて,ネタの持ち時間がちょっとだけ余った隙にこうして僕の思い伝えているんじゃないか。で?返事は?

伊:返事も何もないだろ

富:そうか。分かったよ。それなら終わりにしよう

伊:終わりってなんだよ

富:もういいぜ

伊:ネタを終わらせようとするな。「もういいぜ」は俺のだからな…あっ!? お前,俺の決めゼリフ知ってるってことは,俺が相方だってこと忘れてないだろ

富:ちょっと何言ってるか分からない

伊:もしかしてあれか?俺への気持ちを伝えるために忘れたふりしたたんだろ?

富:まぁ〜……普段こういうこと言うの恥ずかしいから,ネタの中でお前に感謝の気持ちを伝えようかなと思ってね

伊:富澤〜…ありがとう!俺もお前が相方じゃないとダメだと思ってる。死ぬまで一緒に漫才したいと思ってる。これからもよろしく!

富:伊達〜…ありがとう!これからも一緒にやろうな◯◯◯◯の◯◯◯◯◯

伊:それはもういいぜ

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