ゴルトベルク変奏曲への挽歌
作曲家になりたかったグレン・グールドはなんでバッハのゴルドベルク変奏曲を1955年に録音したのだろう。きらきらした音楽は何度聴いても宇宙の世界へといざなってくれる。そこにはたくさんの賜物がつまっている神様がくれた御言葉のように。もだえ苦しむ鬱病世界のなかに光をあたえてくれる音楽は数あれどゴルドベルク変奏曲より多彩で激しいものはないだろう。理解しがたい困難に出会ったときカフカ的世界にわれわれは遭遇する。それは必然なのだろうか。はたまた偶然なのだろうか。肉薄する世界になすすべもなく「待つ」しかない。モンテーニュの『エセー』は何と教えてくれるだろうか。われわれをどういざなってくれるのであろう。
鍵盤を叩くグレン・グールドは私にとってスーパー・スターだ。王子様は人間と同じく悩みをもつ。ヒポコンデリー(心気症)はひどいものだった。彼が自ら選んだグランドピアノの横にはミネラルウオーター、ビスケットそして鎮静剤が欠かせなかった。
秘密の七つ道具のように綺麗事ではなく、彼にとっては芸術的創造神話のための必需品だったのだ。世間の狭さにあらがうように彼はピアノを弾きつづけた。
モーツァルトのキラキラ星変奏曲ほどではないにしてももっとしられてもいい作品だと思う。
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