カミュ、本との出会い

 ぼくがまだ中学生だった頃、お決まりのように「読書感想文」という制作があった。制作というとたいそうなことだったが、現代の学生の頭を悩まし、あるいはインターネットのコピペですます学生もいるかもしれない。しかし、ぼくは国語の先生から名前を呼ばれ、「君の読書感想文、よく書けているよ。県で5本の指に入ったから」と言われたときは、うきうきしたものである。その時に書いた読書感想文はカミュの『異邦人』であった。内容は今ではほとんど忘れてしまったが、主人公が殺人を犯し、裁判で「太陽の光のせい」と証言することは覚えている。世間の不条理さをクローズアップした内容だったと記憶している。そのとき、初めてカミュの存在を知った。「薄い本だからたいそう書きやすいに違いない」と思ったが、中学生にしては哲学書みたいな内容で、正直ちんぷんかんぷんだった。しかし、そのころの国語の先生が鬼のように厳しかったせいで、作文は苦ではなかった。ぼく自身の体験を「読書感想文」に書くとなぜか、国語の先生に呼ばれた。

 現在、コロナ禍のなかで大変な世の中になっている。そのなかでもカミュの『ペスト』がブームになっている。ぼくの読書体験のなかで深くつきささったのはカミュの『ペスト』ではなく、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』だが、カミュの『ペスト』を読み終えた今日、ロックダウンされたアルジェリアのオラン市が日本列島と錯覚されてならない。

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