結城カフカくんとの対話の物語その2

 みゆきさんはドストエフスキーも好きだったが、ラテン・アメリカの作家ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が大好きで、オペラを聴きながら読みすすめ、いくつかのレポートを書いていた。そして、クリスチャンであったので毎日、聖書をちびりちびりとよんでいた。みゆきさんが聖書のなかでも好きなのは『箴言』、『詩篇』、『ヨブ記』と『イザヤ書』であった。この4つの書物は特にじっくり読み、身体にしみ込ませるようにしていた。

 ぼくはみゆきさんの影響でレッド・ツェッペリンの『聖なる館』をWalkmanでよく聴くようになった。神秘的なサウンドがここちよかった。また、みゆきさんがよんでいるガルシア=マルケスの『百年の孤独』をはじめて読んでみた。さっぱりわからなかったが、魂に残るものがあった。

 ぼくはカフカを研究しているあいだグスタフ・ヤーノホが書いた『カフカとの対話』を読み進めていった。フランツ・カフカはお父さんが皮なめし職人でかなり儲けていたらしい。しかし、フランツ・カフカはお父さんのことをよく思っておらず、『父への手紙』のなかで痛烈に批判していた。フランツ・カフカは役人で立派に仕事をこなしながら、夜になると小説を執筆していた。マックス・ブロートとゆう友人がフランツ・カフカの死後、ノートを出版したり、小説を編集したりした。これらのことは結城カフカくんから詳しく教えてもらったことだ。

 みゆきさんはロシア正教を信じていた。日本ではベラボーに多い教会ではないが、みゆきさんのおばあちゃんが熱心な信者であった。みゆきさんはギリシア語の新約聖書をよむことができた。そして、ロシア語の聖歌を歌うこともできた。

 ある日、帝国ホテルのバーで結城カフカくんとぼくとみゆきさん、で3人で談話することになった。みゆきさんはサイコキネシスをあつかうことができる霊能者でもあった。スコッチをダブルで飲みながら、亡き人と交信することができた。フランツ・カフカを霊能力で呼び出したら、「私は作品を公開したくはなかった」とぼそりと言った。

 結城カフカくんは大学院で数学の研究もしていた。ぼくにはさっぱりわからなかった。バーの帰り、数学の参考書を買い求めて理解しようとこころみたがまったく、歯が立たなかった。スコッチのせいで酔っ払っていたが、隅田川が見えるアパートでコーヒーやお水で酔いをさましてフランツ・リストの『巡礼の年』を聴いて寝た。

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