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続 薬との賢いつきあい方


しんぶん赤旗|日本共産党 くらし・家庭面「健康豆知識」に、
2023年11月1日から毎週水曜日、5回 掲載したもの。
参考資料をつけて、まとめました。

  注:参考資料の表記を改善しました。(2023-12-02 16:55)


1. せき止め・たん切り薬ない

 冬がせまるのに、せきを止め、たんを切る、のどの薬が不足しています[1]。8月から9月にかけてピークとなった新型コロナウイルス感染症でも、のどの不調を訴える方が増えました。

 処方せんをもって薬局に行っても在庫薬品がなく、医師に問い合わせて銘柄を変更したり、足りない分を後から届けたりすることで混乱を招いています。季節外れの風邪症状多発という理由だけでなく、ここ3年余り続く医薬品供給不足が背景にあります。

 日本医師会は10月6日の記者会見で、「日本のように大規模かつ長期間にわたって供給不足が続いている先進国はない」と訴えました[2]。厚生労働省は同18日、製薬企業に対し1割の増産を要請しましたが、まだ安心できません[3]。誰かが買い占めているわけではないため、供給改善には今しばらく時間が必要です。

 せきは気管に入ってきた異物を排出しようとする防御反応であり、強く抑えるのは問題があります。せきが長く続きつらいときだけ、薬で緩和しています。

 医療用薬がないと心配でしょうが、のどをいたわる方法はいろいろあります。ハーブ・生薬を原料とした市販薬でも、せきを改善できます[4]。キキョウの入った漢方薬も効果的です。

 調子を整えるのに、のどを潤すハチミツ飲料も利用されてきました。人前で、せきをこらえないといけない時は、のどあめも役立ちます。

 うがいをすると、のどの機能が鍛えられ、たんを排出する能力が高められます。この時、うがい薬はなくてもけっこうです[5]。

[1]: 医薬品 供給不足の原因は せき止め薬 たん切りの薬… 対策どうする | NHK(https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20231019b.html)
[2]: 「医療用医薬品不足の現状と問題点について~緊急アンケート集計結果(速報)~」を公表 | 日医on-line(https://www.med.or.jp/nichiionline/article/011364.html)
[3]: 武見大臣会見概要 |令和5年10月18日|大臣記者会見|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00602.html)
[4]: 家庭薬物語第31回 南天のど飴|ファルマシア(https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/53/7/53_708/_pdf/-char/ja)
[5]: 水うがいで風邪発症が4割減少|京都大学(https://www.hoken.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2015/03/gargle2007.pdf)

2. 医薬品不足のわけは

 医療現場ではのどの薬だけでなく、いろいろな汎用医薬品が入手困難となっています。ジェネリック医薬品(後発薬)企業の不祥事による品不足と理解されていることでしょうが、その根っこには医療保険の制度問題があります。

 2020年12月、小林化工の水虫内服薬に睡眠導入剤が混入し、死亡者が出る事件がありました6。それを受け、後発薬メーカー各社の査察をおこなったところ、法令に違反する企業が続出。違反内容は、複数人でしなければいけない業務を1人でした小林化工、品質試験で不適合となった錠剤を砕いて再加工した日医工など、コストカットの行き過ぎによるものが多数です[7]。

 その後、日医工は販売していた製品の4割、578品目を不採算品目として供給中止としました[8]。他の会社もその受け皿となることはなく、慢性的な供給不足が続いています。他社の下請けで製造受託もしていたため、予想もしてなかった薬も供給不足になりました。

 健康保険で使う薬は、公定価格が決められています[9]。製造コストが上昇しても、医療機関に販売する価格をそれ以上にあげることはできません。しかも保険薬価は医療費抑制のため、市場調査を元に毎年引き下げられます[10]。せき止めのメジコンは1錠5.7円と最低レベルです。

 23年度の医療費は約48兆円、その2割が薬剤費[11]。22年度の薬価の引き下げは6千億円ほど。医療費の抑制をはかるなら、市場規模1兆3千億円程度の後発薬の価格ではなく、後発薬が出ていない高薬価の新薬にメスを入れるべきです。

[7]: 【詳しく】製薬会社の行政処分相次ぐ メーカーに何が?(更新) | NHK | News Up | 医療(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220515/k10013610881000.html)
[8]: 日医工、258品販売中止 品質不正契機の削減一区切り - 日本経済新聞(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC128KO0S3A710C2000000/)
[9]: 令和5年度薬価改定について|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00042.html)
[10]: 2023年度薬価改定について|武田テバファーマ(https://www.med.takeda-teva.com/di-net/takedateva/pickup/pickup50.pdf)
[11]: 薬剤費等の年次推移について|中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第207回)(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001137627.pdf)

3. 解熱剤の使い方

 風邪を引いたときに使う解熱剤の不足も心配されています。2021年、新型コロナワクチンの副反応を抑えるため、アセトアミノフェン[12]が手に入らなくなったことを覚えているでしょうか。

 強い解熱剤は副作用も多いため慎重に使っていたのに、第一選択の薬がなくなったため代わりに使うことが増えてしまいました[13]。

 熱を下げる薬は消炎鎮痛剤とよばれ、痛み止めにも使われます。ウイルスや細菌に感染すると、侵入した病原体を排除する免疫反応が起きます。病原体を攻撃する白血球を感染した場所へ集めるために血流を増やし、体温を38度以上に上昇させます。炎症と発熱は不快ですが、体を守るための自然な防御反応です。

 解熱剤は、免疫による炎症反応を促進する化学伝達物質の生成を抑え、防御反応を弱めてしまいます。無理に熱を下げても、感染が収まるまでは薬の効果が切れると、再び熱が上がってしまいます。

 発熱が続くと体に有害ではないかと不安になりますが、風邪による40度以下・数日間の発熱は、普段健康な人にとって問題ありません[14]。心臓や肺に病気を抱えている人でなければ、自分の体の快復力にまかせましょう。体温の高い状態が続くと体力が消耗します。脱水症を起こさないよう、水分補給が大切です。

 風邪を重くしないためには、体を休めることが大切です。寒気がする風邪の引き始めに、微熱があるからと、すぐ解熱剤を飲むことはおすすめできません。薬で熱を下げながら仕事を続けるような状況は、変えていかないとダメですね。

[12]: カロナール錠(アセトアミノフェン錠) 添付文書(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063312.pdf)
[13]: 市販の解熱鎮痛薬の選び方|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00404.html)
[14]: 成人の発熱 - 16. 感染症 - MSDマニュアル家庭版(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/16-感染症/感染症の生物学/成人の発熱)

4. 糖尿病治療薬が足りない

 糖尿病治療に使うGLP-1受容体作動薬(GLP1薬)[15]の入手が困難です。2022年2月の「オゼンピック皮下注」[16]出荷停止に始まり、国際的な需要増のため限定出荷が続いています。

 GLP1薬は、インスリンの分泌を促して血糖値を下げます。脳にも作用して食欲を抑えることから、体重を減らしたい人に向く薬です。21年6月、米国で肥満症の治療に承認されたことから、爆発的に使用量が増えています。

 日本では、高カロリー食、運動不足などでインスリンの作用が不足して起こる、2型糖尿病の治療薬として10年以上の使用実績があります。週1回自宅で自己注射する製品が登場し、人気が高まりました。この薬が不足して、患者さんは在庫がある薬局を探し回り、医師が違う薬に処方を変更するなど、混乱を招いています。

 治療薬が不足している一方で、自由診療の「GLP-1ダイエット」は一大ブームとなっています。オンライン診療のクリニックが、”厳しい食事制限をしたくないがスマートな体になりたい人”を対象に「待ち時間ゼロ」「人に会わずに受診」とネットで営業しています。薬剤は自宅へ直接届きます。品不足の薬をどうやって確保できるのか、不思議です。

 GLP1薬は、消化機能を抑えるため、吐き気・下痢・嘔吐といった副作用があります。また、強い腹痛を起こす急性膵炎など重い副作用も知られています[17]。オンライン診療では、副作用への対応が不十分なことが多く、問題になっています[18]。医薬品を使って痩せることは、避けたいですね。

[15]: インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬 一覧表|一般社団法人日本糖尿病学会(http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=25)
[16]: オゼンピック® | 2型糖尿病治療剤 持続性GLP-1受容体作動薬(https://pro.novonordisk.co.jp/products/ozempic.html?profession=pharmacist)
[17]: “GLP-1ダイエット”、低血糖で救急搬送例も:日経メディカル(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/1000research/202307/580460.html)
[18]: 自宅で完結?手軽に痩せられる?痩身をうたうオンライン美容医療にご注意!-糖尿病治療薬を痩身目的で消費者に自己注射させるケースがみられます-(発表情報)_国民生活センター(https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20200903_1.html)

5. 肥満症治療薬が保険適用に

 肥満症治療薬「ウゴービ」[19]が22日、公的健康保険の給付対象となり、来年2月発売が決まりました[20]。

 対象は高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかの持病があり、食事・運動療法で効果が得られず、①肥満度を示すBMIが35以上、あるいは②27以上で健康障害が二つ以上ある人です。体重で見ると、身長158センチの女性の場合①87キロ②67キロの肥満です。

 薬価は1回あたり1876円~1万740円。4週間ごとに増量して使います。ピーク時に10万人が使用し、328億円の市場規模と予測して薬価が決まりました。

 最適使用推進ガイドライン[21]のもとで、専門医が使う薬剤としていますが、使われ方に心配があります[22][23]。

 健康保険組合連合会は、同じ成分の糖尿病薬が「美容目的なのに不適切に糖尿病と診断し、公的保険を適用している」として、改善を求めています[24]。

 健康保険組合連合会のレポートは: [調査研究報告書|研究事業|けんぽれん[健康保険組合連合会](https://www.kenporen.com/study/research/)

 診療報酬明細書(レセプト)を調査し、血糖値の検査をしていなかったり、美容効果があるとされる薬と一緒に処方されたケースがあったりするなど、疑わしい例をあげています。

 病気治療以外の多量処方は以前から問題でした。湿布薬[25]、保湿剤ヒルドイドとその後発薬[26]、美容に使われるビタミンCやトラネキサム酸などに対し、処方制限や保険外しがたびたび検討されました[27]。

 医療保険制度を守るため、診察を受けたときに便利で安いからと薬を求めるのは考えものです。高価な肥満症治療薬が乱用されると、100億円規模で保険財政をむしばみ、治療薬不足も拡大します。

[19]: ウゴービ® | 肥満症治療剤 持続性GLP-1受容体作動薬(https://pro.novonordisk.co.jp/products/wegovy.html?profession=pharmacist)
[20]: [新医薬品一覧表(令和 5年 11月 22日収載予定)(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001167629.pdf)
[21]: 最適使用推進ガイドライン セマグルチド(遺伝子組換え) 肥満症(https://www.pmda.go.jp/files/000265450.pdf)
[22]: 糖尿病治療薬等の適用外使用に関連した注意喚起の取組|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001147575.pdf)
[23]: 糖尿病治療薬等の適応外使用について|日本医師会(https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20231025_4.pdf)
[24]: 政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅵ〈概要版〉|健康保険組合連合会(https://www.kenporen.com/include/outline/pdf/chosa_r05_01-1gaiyo.pdf)
[25]: 医療用保湿剤の適正使用について|中医協(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/291108/sankou1-2.pdf)
[26]: 政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究 Ⅲ〈概要版〉|健康保険組合連合会(https://www.kenporen.com/include/outline/pdf/chosa29_01-2gaiyo.pdf)
[27]: 湿布薬保険外しの撤回に関する請願:請願の要旨:参議院(https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/seigan/189/yousi/yo1894012.htm)

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