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恋愛が美しいものでなくなってしまった時代に(スキップとローファー感想12)

30話31話では再びミカちゃんの恋について焦点が当たります

そしてここでミカちゃんは志摩くんになんと告白をします…!

初読の時は「え…えっ!?えらい唐突!?!?」と思ったけど、今読むとなんでこのタイミングでミカちゃんの告白が描かれたのかがわかる気がする
26話~28話で美しい利他の友愛とほんのりグロテスクな利己の恋愛感情を描いて「恋愛感情とは決して無条件に美しいものではない」を明示した後に、「ではそれらを踏まえてこの作品では恋愛感情をどう取り扱うのか」という命題が残された状態で訪れるのがこの30話31話だから…

やろうと思えばいくらでもスマートに、傷つけあうことを最小限に留める大人な恋愛仕草ができるはずのミカちゃんが、あまりにも若くて泥くさいド直球の告白を試みる姿はなんかちょっとそれだけで泣いちゃう
甲子園球児を見てるかのような気持ちになる

でもどうしてそうしたかってやっぱり、好きな人に見合う、もしくは好きな人に見合うために最大限の努力をする自分でありたかったんだろうなと思って

28話の志摩くんと30~31話のミカちゃんは「利己の選択を取る」という結果は同じだけど、志摩くんの時は利他と利己の二択で利己を取る姿が描かれたのに対してミカちゃんは最大限利他を共存させようとした上で利己を取るという風に描かれたところがちょっと違うのかなと思った
つまり、ミカちゃんは志摩くんとのコミュニケーションやクラスメイトとして一緒に過ごす時間の中で、志摩くんが「傷つかないよう保険をかけて駆け引きをしかけてくるような人間のことはきっと好きではないだろう」ということを知っていたから率直に好意を伝えた方が良いと思ったところもあっただろうし、あとは迎井くんに対して言ったこの言葉

あ 男子って
私からチョコもらうの気持ち悪くないかな……

ここが作中でミカちゃんが初めて他人に弱さを見せた瞬間だってことにもう泣くよ!!!!
切羽詰まってる状態だったとは言え、ここで他人に自分の弱さを素直に見せられたっていうこと自体がもう、ミカちゃんの大きな変化じゃないかな…

(てかこの時の迎井くんも相当大人でイイ奴だ…今年一番読者からチョコもらったのは志摩くんじゃなく迎井くんなんだって~~!!わかり手の読者たちすぎる…)

そして告白を終えた後のミカちゃんのモノローグ

よかった
私恋とかして
いいんだ

これは他の誰がミカちゃんに「恋をしてもいいんだよ」と言っても足りなくて、ミカちゃんがミカちゃん自身に「私恋とかしていいんだ」って思えて初めて完全な解呪ができる
そう、自分にかけられた呪いは自分にしか解けないから

そして「スキップとローファー」の物語全体で見てもミカちゃんがここで自分を許すことには大きな意味がある
「恋愛は必ずしも美しいものではないし、恋愛関係が最上の関係性とは限らない。恋愛感情があるがために自分が好きなはずの相手を嫌な形で傷つけてしまうことも多い」
ということをここまで丁寧にこの29話までで描いてきて、そしてここで

恋愛が利己的な感情の産物に過ぎず、全く美しくはないものだったとしても、それでもあなたは恋をしてもいい

という作品としての姿勢を示したのがこのミカちゃんのエピソードだったように思うから

もう少し俯瞰で「今の時代の日本で生まれる『スキップとローファー』という作品」という視線で見てみた時も、やっぱりこのどんどん漂白されていくほどに肌も心もどんどん荒れて血が滲んで行くような、そして傷つけることにも傷つくことにも臆病になりすぎてしまうナイーブな時代に、迷いながらも「それでも私は(あなたは)恋をしてもいい」という答えにたどり着くのって、すごく意味があることだと思った