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「頑張れないのが悪い」と言わないでほしい

※後半に追記あり(2/11)


「頑張れないのが悪い」のか?

もうはっきり、きっぱり言いたい。「頑張れないのが悪い」という意見には反対だ。かなり多くの人を生きづらくさせている。一つの価値観で他者や自分を値踏みするのは乱暴だと思う。

みんなすでに頑張ってるし、頑張らなくてもいい。頑張ってもいいし頑張らなくてもいい。

あるドラマの撮影現場でのやりとりが忘れられない。出役ではなく関係者の関係者的なおじいさんが楽屋にいて、色紙を片手に役者さん全員にサインをもらおうとそわそわしていた。私はインタビューのため、たまたまその場にいた。

一人ずつ「このサインに価値が出るように、頑張ってね!」と握手してまわるおじいさんに、誰もが苦笑いで応じた。そんな中、ある役者さんが落ち着いた声でこう言った。

「私は役者の仕事で食べていってます。頑張ってないからあなたに知られてないわけではありません。」

本当にそうだよな、とハッとした。私も「頑張ってください」と言われることが多く、応援したいという気持ちは嬉しいけど、「頑張りが足りない人」「頑張るべきな人」と言われているように感じることがあってたまにしんどかった。知名度がひとつの正義になりすぎている。(しまった!好きな人に、頑張ってくださいと言ってしまったことがある!と思った人へ。あなたはやさしい人です。伝わっています。)

おじいさんは「そうか。じゃあ、もっと頑張ってね」と去っていった。その場にいた全員がこの圧倒的伝わってなさに打ちひしがれているかのように、楽屋中がしん、となった。食べていってます、と言った役者さんもしばらくその場に立ち尽くしていた。

そんなこと本当は言いたくなかっただろうし、言ったところで伝わらないし、言うと損する。図星だからムキになった、みたいに思われて余計悲しい。仕事にやりがいを感じていること、経済的に自立していること、周りと信頼関係を築いていること、そういったその人の尊い営みすべてを「自分が知っているかどうか」という基準で無視してしまう「もっと頑張れ」は、暴力だった。

その人が「食べていけてる」から偉い、という話でももちろんない。(例が悪かったかもしれないけど本当に言いたいことはここから)20年仕事してなくても、単純作業が苦手でも、遅刻ぐせがあっても、人の根源的な尊さは変わらない。向き・不向きも想像以上に多様だと思う。生まれ持った素質、環境、運、すべてが奇跡的に揃って「社会的に」「頑張って」「結果を出す」ことができた人だけがそれ以外の人を「あなたも同じように頑張れ」と言うのは傲慢ではないか。そういう人からは「頑張ってない人」が甘えているように見えると思うけど、私は傲慢な強者の想像力のなさのほうが甘えなのかもしれないと感じている。

かく言う私も世の中の価値観に流され、25歳ぐらいまでは"ストイック負けず嫌い結果出るまで頑張りマン"だった。手帳に「死ぬ気でやれ」「妥協しない」と筆ペンで書きなぐっていた。怖い。友だちや家族と過ごす時間を無駄だと思って不義理もたくさんした。

アンタよくやってるよ。と思える今のほうが仕事も勉強も捗ってるし、周りの人を大切にできるようになって毎日が本当に美しくなった。ストイックな頑張り方が向いている人もいれば向いていない人もいて、私は気負わずに淡々と進める方が遠くまで行けるタイプだった。

大切な人には、不健康に命を削って頑張るよりも、まずはなにより日々すこやかでいてほしい。これはもちろん頑張ることを否定するものではありません。すこやかな頑張りを心から応援しています。今日も愉快な1日になりますように。

***追記***

例の出し方が下手だったかなあと反省しているのですが、この文章の本意は「芸能人に"頑張って下さい"と言わないで」ではないです。挨拶みたいなポジティブな気持ちで受け取ってる人がほとんどだと思います(ただ、「早く売れるよう頑張ってね」というのは悪意がなくてもウッてなるかもしれない)。

どちらかというと弱肉強食・自己責任論で弱者が切り捨てられる世の中であってほしくないなあというほうの話をしたかった。人間のことを生産性とか結果を出しているとかで価値がある/ないと判断するような主張にはっきりNOと言いたい。

頑張ってる人を否定すべきではないとも言われたのですがもちろん否定してないです。

伝わってるよ、消さなくていいよというメッセージにも救われました、ありがとうございます。いつもモヤモヤを言語化して発信するともっとモヤモヤしたり自分の未熟さに打ちひしがれたりして、発信しなきゃよかったと思ってしまいます。言葉にしてみて深まる考えもたくさんあるし迷いながら進んでいくしかない。

頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな

茨木のり子さんの『汲む』という詩の一節にいつも励まされます。

今日も心地よい1日になりますよう。

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