見出し画像

息子が何言ってるのかわからんので漢詩を学ぶことにした


8月3日の夕食時、2歳の息子が好物のアボカドを食べる手をとめ、呪文のような言葉をすらすらと唱えだした。

鹅,鹅,鹅,
曲 项 向 天 歌。
白 毛 浮 绿 水,
红 掌 拨 清 波。

中国の漢詩(故事)である。ついにこの日が来たか、と思った。私がずっとちょっぴり恐れていた日。「息子が何言ってるのかわからん記念日」だ。

一緒に暮らしている四川省出身の彼の祖母(私にとっての義理の母)はもともと国語の先生で、遊びながら言葉を教えるのが抜群にうまい。一方わたしの中国語は日常会話レベルにすぎないので、何言ってるのかわからん記念日は思ったより早く来てしまった。

自分の中国語が息子に追い越された時がラストチャンスな気がしていた。いましがみついて一緒に学ばないと差はどんどん開くばかりだ。これまでの人生で漢詩に興味を持ったことは一度もなかったけれど、やってみるしかないかもしれない。

中国では2歳くらいから漢詩の暗唱をはじめるのは一般的なことらしい。彼はこれから毎日どんどん新しい詩を覚えるだろう。それをずっと呪文と思って聞き流すか、詩だと思って味わうか、いま私はその瀬戸際にいる。

鹅,鹅,鹅,é , é , é ,
曲 项 向 天 歌。qū xiàng xiàng tiān gē 
白 毛 浮 绿 水,bái máo fú lǜ shuǐ 
红 掌 拨 清 波。 hóng zhǎng bō qīng bō 

調べたところ、意味はだいたいこう。

ガアガアガア。白鳥が首を曲げて空を見上げて歌う。白い羽が緑の水面に浮かび、赤い水かきで波をかき分けている。

唐の詩人、駱賓王(らくひんおう)という人が7歳のときに作った詩らしい。おだやかな風景と鮮やかなさし色が目に浮かぶ、純真無垢な詩だなあ。それでいて、きっちり韻を踏んでいるのがはっきり末恐ろしい。7歳の詩を2歳がうたう。時空を超えた、子どもたちだけの世界がまぶしい。

大人の出る幕がない感じがするが、そこをなんとかしがみつきたいので、現代からアンサーポエムを綴って終わりにしようと思う。

驚、驚、驚
子 急 呪 文 唱
細 髪 空 調 揺
指 飯 己 拍 手

(訳)ワオワオワオ
子どもが急に呪文をとなえだした
細い髪の毛がクーラーの風に揺れている
ごはんがついた手で自分に拍手している

※ちなみにこの漢字はまったく中国語ではないです。でたらめ漢詩です。

そうこうしている間にもう次の宿題が出ている。私の突然の漢詩生活は始まったばかりだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?