Spinoza Note 31: [定理16] 無限にものが生じる
定理16は神の働きにより、無限にものが生じると述べている。証明はなく、実体、属性、様態の定義をまとめて言い直しているように読める。
Eliot訳:From the necessity of the divine nature must follow an infinity of
modes (that is everything which can fall under be comprehended in an infinite intellect).
Elwes訳:From the necessity of the divine nature must follow an infinite number of things in infinite ways - that is, all things which can fall within the sphere of infinite intellect.
畠中訳:神の本性の必然性から無限に多くのものが無限に多くの仕方で(言い換えれば無限の知性によって把握されうるすべてのものが)生じなければならぬ。
高桑訳:神の本性の必然性から、無限に多くのものが(すなわち、無限知性によってとらえることのできるすべてのものが)、無限に多くの仕方で生じてこなければならない。
「無限知性によってとらえることのできるすべてのもの」という付記がわかりにくい。Jarrettは「すべてが神から生じる」と簡潔に翻訳している:
「無限に多くのものが無限に多くの仕方で」というところを素通りしている。また生じるものが「無限の知性によって把握されうるすべてのもの」と補足説明されることもやり過ごしている。省略せず、どこまで Spinoza の思考に追従できるか。
証明の前口上
Elwes 訳:This proposition will be clear to everyone, who remembers that from the given definition of any thing the intellect infers several properties, which really necessarily follow therefrom (that is, from the actual essence of the thing defined); and it infers more properties in proportion as the definition of the thing expresses more reality, that is, in proportion as the essence of the thing defined involves more reality.
粗訳(前半):この定理の意味は明らかだろう、証明の内容を理解できる人にとっては。物事の定義が現実をより確かに表現するほど、より多くのことを推論できる、つまり、物事の有り様が定義され、より確かに現実を表現するほど、より多くのことが推論できる。
この前口上の意図を掴みかねる。証明の一部を成すものではないと判断する。本題はこの後だろう。
Elwes訳(続き):Now, as the divine nature has absolutely infinite attributes (by Def. vi.), of which each expresses infinite essence after its kind, it follows that from the necessity of its nature an infinite number of things (that is, everything which can fall within the sphere of an infinite intellect) must necessarily follow. Q.E.D.
粗訳(後半):神性が絶対無限の属性を備え(定義6より)(Spinoza Note 09: 神は無限にある諸属性を通じて顕現する、を参照のこと)、各属性が(その類における)無限の活動を表すことから、次のことが成り立つ。神の摂理が必然なので、無限に多くの物事が必ず生じる。それら無限に多くの事物は、無限知性の領域に収まる。
終わりの方は定理を繰り返しているので、証明には含まれない。
神は絶対無限の属性を備える
各属性は無限に活動する
ゆえに無限のもの(様態)が生じる
それらはすべて無限の知性に捕捉される
実体、属性、様態の定義を並べていると思われるが、最後の「無限の知性」は初出だ。しかし括弧に入っていることから判断するに、補足説明だろう。無限に生じてくるもの、様態に焦点が当てられているようだ。