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ガザの虐殺をどう見るか

連日繰り返しガザの惨状を見させられるたびに、極東のお気楽なリタイア老人の胸もざわつき、傷む。あれは「戦争」でもなければ「軍事衝突」でもない、「ガザの虐殺」であるとする世に倦む日日さんの断案は正しい。この国の昼行燈メディアの両論併記(Pro&Con)報道やどっちもどっち論には辟易する。すでにガザの死者は2万を超えた。

これから書くことはつたない、もしかしたら偏った見立てかもしれないが、としてもあえて言語化しないかぎり胸のざわつきにやられそうで、つまりは藁をもつかむ試みである。だれかを説得するつもりもなければ、自説を正解と言い張るつもりもない。

ネタニヤフという男、自他ともに認めるタカ派政治家だが、イスラエルは不幸にも四分五裂の多党分立国で、繰り返し首相の座につくこの男はいつも連立政権の看板にすぎない。じつは傀儡であって、黒幕は狂信的なユダヤ教原理主義者政党である。かれらは決して表に出てこない。ネタニヤフは、少しでも妥協的な発言をしたら引きずりおろすという脅迫のもとで虐殺を指揮する、黒幕からすると都合のいい、権力の亡者にすぎない。

愛国者ぶるネタニヤフは前政権時代に収賄・背任の罪(愛国と私腹を肥やすこととはどう両立するのか!?)で訴追され失脚し、公判中にもかかわらず現内閣の首班に返り咲いたもの! 賢人ハラリはかれのことをずばり最悪のポピュリストと呼ぶ。世論を割るためにわざと踏み絵のような政策を連発し、国内外に緊張を生み出したという。とりわけ耳目を集めたのは、良識派の強い抵抗によりいまのところ実現していないが、最高裁判決を政権がオーバーライドできるよう画策したこと。この一事をもってしてもアメリカをはじめ西側諸国がまともに支持すべき政権でないことは明らかなのである。

今事案の前には参謀総長が「現政権の政策は安全保障上の諸問題を生んでいる」として会談を求めたが、ネタニヤフはこれを拒否。ハマスの暴発はその直後のことだった。

つまり、(ここからが筆者の見立てだが)、ネタニヤフ及び黒幕らはハマスの暴発を誘いかつ待ったのである。なぜか? かれらが意図するパレスチナ民族の「浄化」「最終解決」(いずれもナチがユダヤ人大虐殺に用いた標語)を正当化するために! 虐殺は「ハマスのテロに対する自己防衛である」と。

もちろん証拠はない。ないが、その後の推移、迷いのない虐殺を見れば、十分にありうることである。かれらはパレスチナ人をヒトとも思っていない。さらに、ネタニヤフは表向き「人質全員を救出するまでは」と繰り返すが、これも嘘である。人質さえ、「大義(?)」のためには、犠牲にしてもいいと思っているふしがある。なんとなれば、あれだけ無差別な殺戮をしておいて人質が無事でいられると信ずることには無理がある。あろうことか、先日は人質3名を狙い撃ちしたではないか。

「ハマスの暴発」と書いた。しかし、窮鼠が猫を噛むことだってあるだろう。生活インフラさえ整備できない弱小パレスチナ自治政府に対して、明らかに強い立場にあるイスラエルが度量を示すべきところ、1993年のオスロ合意以降も平和交渉を終始サボタージュし続け、どころか圧迫につぐ圧迫を加えてきたのだった。絶望のあげく暴発もするだろう!


根底にはイスラム教原理主義とユダヤ教原理主義の対立がある。「下部構造が上部構造を規定する」というマルクスの言葉はもはや死語である。交通網の発達やインターネットの普及、経済分野の相互依存関係の深化にもかかわらず、いま世界を揺るがすものは上部構造、すなわち宗教対立であり権力や領土への妄執を隠さない独裁者でありポピュリストである。

下部構造の主役であるテクノロジーの進展は不可逆だが(それには気候変動問題、核問題、生成AI問題等々があるのだがいまはおく)、プーチンのウクライナ侵攻やガザの虐殺、タリバン政権、習近平の「ひとつの中国」論を見ていると、上部構造には優に歴史を退行させる力があると思えてならない。

年が明ければアメリカ大統領選が始まる。アメリカ人3億にとって、老害のバイデン、ポピュリストの巨魁トランプ以外の選択肢=人材は本当にないのだろうか? いずれにせよ帰趨を握るのがユダヤ系ロビーと票田だとすれば、もう救いようがない。


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