LOVERS

#旅する日本語

しばらく誰とも会わない日が続いた。

僕の地元の東大阪にいる親や友人、それから同じく看護師をしている遠距離恋愛中の彼女とも会えなかった。ひとり東京に出て会社員をしている僕はリモートワークになり、外出はコンビニとスーパーへ必要最低限の買い物だけだ。

毎日メディアから流れるいつ明けるとも分からないコロナ禍の状況に、僕は不安になった。もう老いを隠せない母や、医療従事者である彼女の感染リスクについて考えても何もできず、黙って時間が過ぎるのを待つしかなかった。

世の中が少しずつ動き出した現在も元通りになる保証はどこにもない。

お互いの袖が触れ合うほどの距離で他愛のない話をしながら食事するささやかな時間は、簡単になくなることを知ってしまった。「裾摺れ」なんて美しい日本語は初めて聞いたけれど、次の帰省で彼女は知っているか聞いてみよう。もう会えなくなるのは嫌だから、結婚しませんかと併せて。




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