青春は生一本


#旅する日本語

初めて親から遠く離れたのは、13の夏だった。
自分とは別のリズムと音階で流れる日本語の車内放送を聞いて、本当に来たんだと思った。

夢の舞台、岡山シンフォニーホール。

中学に入ってコーラス部に入部してから、勉強意外の全てを捧げたと言ってもいい。とにかく全国大会へ行きたい。それが叶った夏だった。

本番を明日に控えた午後、気晴らしに部員みんなで岡山城へ出た。
黒い天守閣は青空を突き刺し、石垣横の松の緑は目にしみるほど冴えていた。城を囲むように流れる川はおだやかで、地元のそれとは色が違う気さえする。

ふわりと、友達がアルトを口ずさむ。ソプラノの私がそれに重ねると誰かも重ね、色んな音が出たり入ったりした。

私たちの青春で膨らんだ音楽は、城の外を流れる川の音に混ざって流れる。

もう来ない。少なくとも、今の仲間とは。唐突に思う。今年の夏は一度きりだと。

大会を終え食べたきび団子は甘かった。

青春をありがとう、あの時の岡山。


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