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もの書きと せつなさと 月見バーガーと

中秋の名月の数日後。
CMにサブリミナルされるがまま、無性の欲望にまかせて某ファーストフード店へ行かなきゃなりませんとばかりに赴き、「月見バーガー」を食べた。

健康診断の帰りで、まだ10時台。
朝マックの時間帯で(あっ…店名が特定されてしまった)バーガーではなくマフィンだったが、この時間帯にしかお目にかかれないハッシュポテトとも久々に再会できたし、よしとしよう。

ひと口、ふた口…カリカリのポテトと交互にご満悦で食べていると、そのジワリとした衝撃は耳へ向けてやってきた。

明らかに聞いたことのある前奏。
こ、これは…

🎵き〜み〜も 見ている〜だ〜ろう

まさか…

🎵こ〜の〜消え〜〜っそ〜な

やはり…

🎵三っ日〜月〜〜

うわあぁーーー!!

…三日月。 そう、『三日月』である。

ひとりの顧客、月見マフィンを握りしめ、違和感MAX。

いや、いいんだよ。
古来、日本人は色んな形の月を愛でてきた。
十六夜月、宵待月、立待月…
せめて同じ月を見ているのならと、会えない人への想いを。
私は何をしてどこへ行くのだろうと、遣る瀬無い気持ちを。
月を見上げることで、日本人はその心を保ってきた。
せつない気持ちを込めた歌に、その想いを乗せるのもわかる。
月見イコール満月とは限らないのだから。

いやいやちょっと待て。
マクドさんが販促したいのは、月見「バーガー」ですよね?
バンズに合わせた、プルプルのまんまる卵が食欲をそそる、月見バーガーですよね?
満月を模した、まぁるい月見バーガーですよね?

いくら同じ月を歌っているとはいえ、まんまる月見バーガーのBGMに『三日月』とは。
販促対象との乖離に、社内から反対意見は出なかったのだろうか。

こっちは健診の帰りで朝からなにも食べてなくて、ただでさえお腹が減ると不機嫌になる性質なのに、大事な客に対して不意にモヤモヤをぶっ込んでくるとは、捨て置けぬ。

しかも、そもそも、マクドナルドのCMに「せつなさ」って必要か…?

いや、でも、これもね、わからなくもないんですよ。
マックに居て、せつなさを感じることってありますもん。

その種類は主に2種類。

スタッフの質に左右されて形も味も乱れがちなチープな食事と、お世辞にも良いとは言えない客層に囲まれた時の、
「私なにやってるんだろう」感。

そして、
喧騒をBGMに(この時点で脳的にはほとんど聞こえていないが)もの思いに耽る時の、決して嫌ではないセンチメンタル感。

こうやって ものを書いてると、普段は音に敏感な私でも、ある程度物音があったり、周りに動きがあったりするほうが、まとまることもある。
アイデアや言葉がポンポンポンポン湧いてきて、言葉と言葉、センテンスとセンテンスが上手く組み合わさって、文章になっていく。
まるで点と点が繋がって線になり、線と線で面になり、面がいくつも合わさって立体になるように。
頭と心で言葉を紡ぐ作業には、こういうチープで長居できる場所-人気のない店舗や時間帯ならなお良いのだが-がピッタリだったりする。
むしろ、その作業をすると決めて出かけるよりも、フラッと入って、お腹が満たされて、残りのホットティーMサイズを飲み干すまでのポヤーンとした時間のほうが、ムクムクと色んな感情や考えが湧いてきて止まらなくて、うれしい悲鳴に人知れず悶えることもある。

で、その嬉しい悲鳴のきっかけは、BGMだったり、崩れたバーガーだったり、はたまた、そこから想起される月だったりする。

三日月だろうが満月だろうが、見るためには人は上を向く。

マクドさんが提唱なさるとおり、月を見上げて心も上向きにしようではないか。

せつなさの先に生まれるものもあるのは、確かだから。


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