このラノ2022で投票した作品
こんにちは、富士獣です。
突然ですが、皆さんの最初の推しラノベヒロインって誰ですか?僕は朝比奈みくるです。
というわけで、下書きで温まっていた『このライトノベルがすごい 2022』の記事を公開します。
改めて説明すると、『このライトノベルがすごい』はライトノベル最大の年刊ガイドブックです。近年は他のラノベ人気ランキングも多数ありますが、投票者の多さや信頼性の担保の仕方ではやはり『このラノ』が1番。
僕は今年度も協力者として参加させていただきました。個別ページはp120で、他にもいくつかの作品にコメントが載っています。買ってね。
本記事では、雑誌内で語り切れなかった今年の推し作品10作品を語ります。
それではまずは投票した5作品から。
『カノジョの妹とキスをした。』
1位投票しました。このラノ2022総合33位。
『落第騎士の英雄譚』等の海空りく先生が書く本気のラブコメ。
「彼女の生き別れの妹が突然自分の義妹になり内緒の二人暮らし」から始まるドロドロ純愛三角関係。
1巻の頃はまだラノベの枠組みでやっていましたが、3巻はもう……なに???
昨年度は総合10位でしたが、1年間で発売されたのが1巻、それも投票締め切り直前だったため、今年はこの順位。
でも面白さで言えば相変わらずトップレベルですし、これまでラノベにほとんどなかった不純愛ラブコメというジャンルを確立させた功績は非常に大きいです。
4巻で完結とのことで、とても楽しみ。
『とってもカワイイ私と付き合ってよ!』
2位投票しました。このラノ2022総合50位。
糖分過剰すぎ偽装ラブコメ。
「クラスの美少女に頼まれて付き合うフリをすることに!」から始まるのに、2人きりの部室で名前で呼び合って好き好き言い合ってボディタッチもする。偽装ラブコメの枠を超えている……。
加えて、カクヨムで書きおろしSSが65本無料で読めます。販促の枠を超えている……(1巻発売記念SS, 2巻発売記念SS)
昨年は100位圏外(ジャンル別ピックアップ作品)でしたが、今年は50位!
これはやはり3巻が最高だったからですね。
イチャイチャラブコメ好きは絶対好きなはず!
『カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています』
3位投票しました。このラノ2022総合100位。
トリプルヒロインの大学生ラブコメ。この作品の魅力を2点挙げると、「大学生設定の活きたフットワークの軽いプロット」と「リアルに魅力的なヒロインたち」です。
高校生ラブコメの多いラノベ界でも、たまに大学生設定の意欲作は出てきますが、お約束の多い高校生モノと違い、現実的なビリーバビリティを求められる大学生モノは、どうしても納得感のある作品が少ないです。そんな中で『カノうわ』は、「彼女に浮気されて落ち込んでいる時に知り合った後輩がソフレになる」「高校から仲いい女友だちと2人で温泉旅行に行って、お酒も入って本音で話す」みたいな、リアルなあるあるとラブコメラノベらしさの積集合で上手く物語を進めていて、そのテンポもよく、プロットが上手いです。
一方で、ヒロイン描写にもリアルな掘り下げが見られます。本作のヒロインは「後輩」「女友だち」「元カノ」で、2-4巻で1人ずつメインになりましたが、全員がそれぞれ魅力的でこれはイチオシが選べません。キャラ人気がキレイに分かれる作品はたまにありますが、箱推しが多いラノベはかなり珍しい。
高校生ラブコメに食傷気味な人も楽しめる作品だと思います。
『千歳くんはラムネ瓶のなか』
4位投票しました。このラノ2022総合1位。
"リア充側"ラブコメが2連覇。魅力は昨年の自記事から引用します。
チラムネは「主人公がリア充でとにかくかっこいいラブコメ」とよく称される。
確かに主人公がとても魅力的な作品だ。しかし主人公がリア充とか1巻の陽キャ陰キャ論は本作品の魅力を語る上ではあまり重要でないと思う。
主人公(千歳朔)がリア充なのは、ラノベとしての奇抜さのためではなくて、ラブコメや問題解決に奇抜さがいらず王道を描けるからだろう。
また、千歳朔は「作者の(読者の)理想とする完璧リア充」でなく「千歳朔が考えた理想のリア充であろうとしている人間」であり、だからこそ魅力的なキャラクターになっている。
「はいはい、主人公が完璧リア充なハーレム学園モノなんでしょ?苦手そうだなぁ」と敬遠している人がいたら、考え直してほしい。熱くて真っ直ぐなともかく王道の青春モノなので。
以上は4巻までの感想。
今年度発売した5, 6巻は、グループ内の人間模様が描かれました。「カッコイイ主人公」「楽しく仲良しなリア充グループ」というこれまでの枠組みを破壊した、17の夏。
文章力と昨年度に獲得したキャラ人気とが青春群像劇をより面白いものにしていて、2連覇も納得の完成度でした。
2-4巻の型が抜群に面白くて、それで結果も出てたのに、リスクを取って新しい面白さを追求したところも評価したい。
そういうメタな評価としては、5巻で発売したこれまでの店舗SSまとめ冊子付きの特装版も素晴らしいですね。こうやって店舗特典をあとから冊子にしても店舗売上にはほとんど全く悪影響がないはずなので、これがラノベ界の標準になってほしいですねー。
『継母の連れ子が元カノだった』
5位投票しました。このラノ2022総合17位。
元カノ × 義きょうだい × ケンカップルというラノベラブコメのキラーワードが調和した非常に質の高いラブコメです。
この作品は4巻が1度目のピークで、ラノベ史上でも最高クラスの2ページがあります。昨年の協力者座談会配信でもみんな「あの見開きが最高だから4巻まで絶対読め!」と言っていて、昨年度ランキングは総合6位。
今年はサブキャラ巻や日常巻が続いてストーリーは小康状態ですが、その上でなぜ投票したか。それは、この作品が投げかけるテーマとその描写技術がスゴいからです。以下、5巻読んだ感想からセルフ引用ですが、6巻もまさにこれですね。マルチ視点の使い方は1番上手い。
しかし連れカノのマルチ視点は次の3つの点で良い。
1つ目は、繰り返し描かれる「誰かの目から見た自分」と相性がいい点。
この作品では手を替え品を替え、第三者が定義し解釈した人物・関係性がテーマになる。本人から見たそれと他者から見たそれのギャップを描くならマルチ視点は都合がいい。
2つ目は、描かない視点も大事にしている点。
例えばサブヒロインいさなとのラブコメ巻である2巻は主人公水斗とメインヒロイン結女の視点から描かれ、いさなの心情描写を入れなかった。一方改めていさなを掘り下げた5巻ではいさな視点を取り入れ、水斗も結女も少しずつ見誤っていたいさなが見えた。また、第一章が終わる4巻では結女視点および事実としての大きな進展を描いた一方で、水斗視点での明確な心情はあえて隠して進めていた。このように、視点を絞ることで読者への情報量をコントロールしている。
3つ目は、キャラのレイヤーを分厚くしている点。
誰の視点から誰を見たらどういう人物像かというのが整理され強調されている。要するに、主人公視点の主人公像とヒロイン視点の主人公像が同じだったら視点変えても変わり映えないし、逆に違うなら視点変えることで情報量増すよねということ。
連れカノのマルチ視点は物語と人物に奥行きを与えつつ、心情フルオープンにはしないことで面白さを損ねることを避けている。
【余談①】投票基準の話
アニメ化したラノベ、昨年のトップ10、話題の新作、ひっそりと書籍化したWeb作品……。面白いラノベは、沢山あります。
その中で、「『このライトノベルがすごい』で上位になるべき作品」や、「協力者として投票すべき作品」とはなんでしょうか?
協力者の中には、「新作縛りで投票する」や「他の人が投票しなそうな作品を布教する」という自分ルールを設けている人もいます。
確かに、協力者票にはWeb票のみでは埋もれがちな「実力派の良書、これから来る作品」が期待されているらしいので、もっともなルールです。
しかし、僕はそういう制約を自分で設けるつもりはありません。素直に「このライトノベルがすごい!」と思った作品に投票します。その結果に運営が納得していないなら、翌年のpt配分比や殿堂入りで運営自身が調整すべきです。
第二価格オークションや受入保留アルゴリズムのように「個々人が素直に行動した結果、全体が最適になる」状態が理想で、2005年から改善を重ねてきた『このラノ』はそれに近づいているはずです。(実際、このラノの結果はとても精度がいいと僕は思ってる)
つまり、投票基準の調整は個人でなく運営がすべきで、また、理想的な条件下では個人が投票基準を調整すると結果が歪むので、個人は素直に投票すべきということです。
長くなったけど、ここまでは前提。余談②に続きます。
以下、投票候補にしていた作品から5つピックアップ(6-10位とは限らない)
『お嫁さんにしたいコンテスト1位の後輩に弱みを握られた』
クール気取りの主人公と、グイグイ来る後輩。
隠れ声優オタク同士で、推しのライブに行くために泊まりでライブに行ったり、推しが声を充ててるリアル脱出ゲームでデートしたり。
この作品のいいところは、いい意味で都合がいいところです。「推しのマネージャーが実は主人公の姉」という設定が気持ちいい。
また、2巻の方向性もグッドで、「お互いの好きなところを15個ずつ言い合う」シーンが好きです。
全体的にノンストレスでクセのないラブコメで、「こういうラノベを定期的に読みたい」枠の新作。
この作品は仙台が舞台なので、元仙台在住としても贔屓している。
実在地域が舞台のラノベが増えてる昨今、もっとその設定が活きる「地域の高校生カップルあるある」描写が増えるといいなと思っています。
『恋は双子で割り切れない』
新作13位。総合24位。
元カノ&今カノの双子幼馴染ラブコメ。
今風で魅力的な設定がキッチリ作中で掘り下げられていて、「初恋こじらせ系」として仕上がっています。
一方で、近年珍しいサブカル全開の文章も味があって、今っぽさと懐かしさが上手にミックスした力作ですね。
主人公視点は基本的にプロットを前に進める役割、ヒロイン視点はヒロインの心情を掘り下げる役割という風に分かれていたのも良かったです。両方で両方を描こうとすると重複して蛇足になりがちなので、言われてみればこれは上手い解決だなと。
総じて完成度が高かったです。
『となりの彼女と夜ふかしごはん』
お仕事ラノベ × 料理ラノベの意欲作。
タイトルと表紙は「お隣さん料理ラブコメ」っぽいですが、読んでみるとむしろ「お仕事モノ」の側面が強い。
お仕事としての「部下との人間関係を改善しながら一致団結して嫌な上司をギャフンと言わせる」というストーリーに、お隣さん要素がちゃんと面白くなる方向に寄与していたのが良かったです。
1巻はお隣さんJD、2巻は後輩社員がメインで、いい感じのn角関係でしたが2巻で完結。お仕事モノとしても良かったですし、料理モノほのぼのラブコメとの両立もできていたので、もっと読みたかったです。
著者の猿渡かざみ先生は『塩対応の佐藤さん』のベタ甘両片想いが上手いイメージでしたが、こういう方向性もいけるということで、今後に期待。
『西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~』
総合53位。
ハードボイルド×ギャクにして異能バトル×青春ラブコメ。
ハードボイルド気取りのフツメン主人公が送る学園ラブコメファンタジーで、とにかく文章が面白いです。
以下は7巻の背表紙。
学内カーストの中間層、冴えない顔の高校生・西野五郷は界隈随一の能力者である。ブレイクダンス同好会への協力を決めた彼は、ローズやガブリエラ、竹内君を巻き込んでダンス大会に参加。演目を完遂して同好会の窮地を救ってみせた。するとその映像が予期せずネット流出、時の人となった彼らは、国内でも指折りのダンスイベントへ参加することに。
一方で二年A組では、竹内君にフラれたことで学内カーストを転がり落ちる松浦さんや、ブレイクダンス同好会に感化されて自撮りのダンス映像をネット公開してしまう委員長など、西野の存在がクラスメイトの在り方を段々と乱してゆくのだが……? 部活動編、待望の解決巻!
何度見ても面白すぎる。
1, 2巻は「商業でこれ売れるか……??」というぶっ飛び方でしたが、その後も勢い止まらず12巻まで来たからすごい。
非常にテンポが良く一文一文が面白いので一気に読めます。
本作は次の13巻で完結ですが、別作品の『佐々木とピーちゃん』は今年度の単行本・ノベルズ部門1位を獲っていて、時代がぶんころり先生に追いつきつつありますね。
『育ちざかりの教え子がやけにエモい』
中学校教師と、妹みたいな幼なじみ教え子の学校生活。
ラブコメっちゃラブコメだし、ラブコメじゃないっちゃラブコメじゃない。教え子を取り巻く青春ストーリー。
途中も結構面白いんですが、注目すべきは最終巻のラスト50ページほど。ヒットを稼ぐ作品だと思ったら場外ホームランだった。これはさすが鈴木大輔先生と言うべき熟練のプロットですね。
爽やかな読後感で、4巻完結の面白いラブコメがまた1つ増えました。
【余談②】今年の投票傾向
余談①に書いたように、気持ちとしては投票基準は「シンプルにスゴい作品」ですが、実際に投票作品を選ぶと何らかの偏りは出ます。例年の傾向として、やはり意図していなくても新作は過大評価するし、アニメ化作品は過小評価してますし、直前読んだ作品(特に、直前に完結した作品)は過大評価しています。
今年の投票結果を後付けで言語化すると「既に昨年までで面白かったが、今年さらに面白くなった作品」ですね。
正直、僕が投票した5作品って、ラノベをそこそこ(今年度発売を50冊くらい)読んでる人なら「面白いことはもう知ってる」と思うんですよね。
そういう作品をあえて外す気持ちは理解できますし、昨年までと変わらない面白さだったら僕も多分投票していないです。
しかし、この5作品には、今年新たに「スゴい」ところがあったので投票しました。
ということで、投票5作品のうち、新作は0でした(昨年は3)。候補作には新作も結構ありましたが、選考していたら0になっていました……。意図して僕が新作枠を設ける必要もないかなと。
実際、結果を見ると今年も面白い新作がたくさんランクインしていますし。
ところで昨年の投票作品の総合結果は上から「10位, 1位, 9位, 圏外, 7位」です。圏外は新作の『とっカワ』で、今年は総合50位に浮上しているので、我ながら先見の明ある価値の高い1票と言っていいでしょう。新作が3つ、2年目に1つ投票しており、結果的には精度が非常に高い投票でした。
一方で、今年の投票作品の総合結果は上から「33位, 50位, 100位, 1位, 17位」です。(個人的には『カノうわ』を100位に繋ぎ止めた点で値千金ですが)結果からの乖離度という観点で見ると、精度が低いという定量評価が可能そうです。
2020は「自分の需要と市場の供給が合いすぎている年」という実感があって、2021はそれが弱まったのは、こういう形で可視化できそうです。
ただし、「後から見て、投票と結果がどれくらい近かったか」は自分の好みとトレンドの乖離度として意味ありますが、先に「投票を意図して結果に近づける」とその投票者の価値が0になるので、取扱注意な指標ですね。
おわり
以上です。
え?今年のこのラノ全体の雑感とか?賞味期限切れてるでしょ!!そういう記事はもうたくさんあるし。
総合10位までのオススメで言うと、全部1巻は読んでるけど、全部ちゃんと面白いので、全部読むのをオススメします。
全部は読めないという人は『佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~』
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