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「逆プロポ」と、「THINK BIGGER」

■ 図解総研さんに制作いただいた『逆プロポ』の構造

複雑な社会課題やビジネススキームを、わかりやすく図解で説明することに取り組んでおられる「図解総研」さんが、『逆プロポ』の仕組みを、図解にしていただきました。ありがとうございます。

制作:図解総研

『逆プロポ』は、今も多くの企業や自治体からお問い合わせを頂戴するソーシャルXの基幹サービスです。かなり認知度や仕組みは知られてきていると思っています。

基本的な仕組みは、民間企業が取り組みたい社会課題を世の中に問うて、一緒に取り組みたい自治体が公募にエントリーするというシンプルなものです。しかし、実際にこれを運用しようとしても、多分普通に難しいと思います。このサービスをローンチしてから3年ほどが経とうとしてますが、独自のノウハウが運営には必要だと感じています。

ではどんなノウハウが必要なのか?

図解総研さんの図で言えば、右にある「社会課題解決につながる適切な問いを立てる」というところだと思います。アインシュタインは、問いと解決にどれくらい時間を費やすかと聞かれたときに、60分あるとすれば55分を問いの立て方に費やし、残り5分を解決策の検討に費やすみたいなことを述べたそうです。その感覚だと思います。

先日一冊の本を読みました。盲目の学者・アイエンガー氏の「THINK BIGGER」。

今年読んだ本の中では、山口周さんの「クリティカル・ビジネス・パラダイム」と並ぶ良書です。

このアイエンガー氏の著書に、「逆プロポ」で実際にどのようなことをしているのか、そのヒントが多数散りばめられているような気がしました。

以下、書評と重なりますが、抜粋をしながら感想を書いていきたいと思います。


■ 「逆プロポ」に通じるアイエンガー著「THINK BIGGER」!

何かを生み出すときには必ず、すでに知っているものを意識的、無意識的に利用する。つまり、新しいものごとは、それらをつくる要素が新しいのではない。要素を組み合わせる方法が新しいのだ。

(p28)

イノベーションは、古いアイデアの新しい組み合わせ以外の何ものでもない。

(p41)

フランスの科学者で数学者のアンリ・ポアンカレは、1913年の著書『科学と方法』(岩波文庫)の中で、よいアイデアを生み出す方法をこんなふうに説明した。
「発明とは、無益な組み合わせを排除して、ほんのわずかしかない有用な組み合わせをつくることである。発明とは見抜くことであり、選択することなのだ」

(p41-42)

「逆プロポ」で取り組んでいるのは社会課題解決です。行政が持つアセットと、民間企業が持つアセットを組み合わせて、新しいイノベーションを生もうとするものです。ただ、自治体と民間企業が組み合わさっても、実際にはうまくいっていないケースも散見されます。それは両者が噛み合っていないことや、なんの加工も加えずに、単にマッチングさせているからに他なりません。

イノベーションとは、複雑な課題を解決するための、古いアイデアの新規かつ有用な組み合わせである。

(p43)

そうなんですよね。

ことわざで「多くの手は作業を楽にする」というが、肝心な仕事は大勢ではできない。チームは作業には向いているが、思考には適していないのだ。

(p44)

注目してほしいのは、イノベーションを生み出すプロセスの構造である。このプロセスは、課題を明確かつ具体的に定義することから始まる。次に、それを重要な部分に分解する。それから、各部分を解決する既存の方法を探索する。そして、それらの解決策を全体として調和して機能するように、新しい方法で組み合わせるのだ。

(p54-55)

ニュートンはリンゴの木の下で重力の問題を解決したのではない。解決したい、価値ある問題を見つけたのだ。

(p72)

ここで述べられるように、やはり解決したい価値ある課題を発見できるか、それが社会課題解決の最大のキーポイントではないかと思います。

研究では、多様な分野の創造的な人々に共通する人格特性が、たった一つだけ特定されている。それは、好奇心が強いことだ。そして好奇心は、意識して身につけることができる。同じことが、創造的な活動をやり遂げるのに必要な、粘り強さについても言える。粘り強さも、意識的に育むことができる。そしてThink Biggerを始めるには、好奇心と粘り強ささえあればいいのだ。

(p80)

好奇心というのは本当に大切。この後、書かれていることにもつながっていきますが、既存のものと異なるものを組み合わせるのは、いわば好奇心がなせる技ではないかと思います。

集団力学が個人の創造性を大きく妨げることも明らかになっている。

(p85)

本書には何度か書かれているのですが、たくさんの人数で問いを立てても、創造的なことは考えられないということが述べられます。少人数でありかつ、多様な深い経験を積んでいる人が集まる必要性です。

ヘンリー・フォードがエンジニアにブレインストーミングをさせなかったことに注目してほしい。フォードはエンジニアに命じて、使えるアイデアを世界中から探させた。パー・クランはそうやって食肉処理場の動くラインを探し当てた。

(p86)

創造性を最も促すのは、無地の壁だ。心がつながりを探して自由にさまようことができる。脳が邪魔をされずに仕事をするためには、刺激のない場所が必要だ。

(p90)

創造性を刺激する空間について、2つのことが言える。第一に、気が散るものがなく、1人でじっくり考えられる場所があること。第二に、コーヒーメーカーや冷水機の周り、休憩所など、人と気軽にある場があること。それだけで十分だ。

(p91)

論理的思考であれ、創造的思考であれ、どんな思考も記憶によって成り立っている。

(p101)

アイデアの質は、私たちが組み合わせるピースの質によって決まる。課題で行き詰まるのは、おそらくパズルのピースが足りないからだ。必要なピースが脳の本棚に収まっていない。だから、外へ出て探索しよう。

(p101)

官民共創がうまくいかない理由としては、「ピースの質」が悪いというのがあるかもしれません。そもそも「ピース」がない場合もあります。

アインシュタインはかつてこう言った。「問題を解決する時間が1時間あったら、問題を考えるのに55分、解決策を考えるのに5分費やしたい」と。これがThink Biggerの出発点となる。

(p114)

アインシュタインの名言をもう1つ。「最大限の努力でぎりぎり達成できるレベルを見きわめる直感を磨かなくてはならない」

(p121)

課題を紙に書き出すことが大切だ。ノーザン・イリノイ大学の言語・識学学際研究センターによれば、私たちは書くことによって、思考を集中させ、整理し、組み立てることを強いられる。書くことは創造的な行為だ。書き出すことで、実際に思考を生み出すのだ。

(p122)

Think Biggerでは、まるまる1つのステップを使って、「意味があるほどには大きいが、解決できるほどには小さい課題」を特定する。またその課題は、それに関わる全員が理解し、解決したいと思うものでなくてはならない。

(p129)

この辺り、「逆プロポ」で課題設定する際は、重要なポイントな気がします。

スイートスポットが見つかったら、最後の確認をする。次の2つの問いに答えてほしい。
1 自分はこの課題を実際に解決できるだろうか?
2 自分はこの課題を本気で解決したいのか?
答えがイエスなら、先に進む準備ができた。

(p134)

イノベーションの商談会は、新たな気づきや刺激を得る機会になる。意味のある課題を明るみに出し、それを繰り返し定義し直すことによって、解決に値する課題を見つけることができるはずだ。

(p146)

MECEは一見とても理に適った方法に思える。だが複雑な課題の場合、部分は「互いに重複しない」どころか、複雑に絡まり合っている、そしてさっきの単純な根本原因の例で見たように、どんな課題もさらに深掘りできるから、いつまで経っても「全体として漏れがない」リストにはならない。例えウェイターがMECEに国内経済の課題を含めたとしても、それに影響をおよぼす世界経済の課題を含めなければ、十分とは言えない。リストはどんどん長くなり、私たちの能力ではすべての項目をとうてい解決できなくなる。

(p163-164)

デザイン思考には、3つの段階(分析、発想、実行)がある。最初(分析)と最後(実行)の段階については、デザイン思考の方法で問題ない。だが発想に関しては、必ずThink Biggerを行ってほしい。

(p165)

デザイン思考で超えられない壁については最近様々なところで聴くようになりました。逆プロポも顧客中心主義でありながら、この「発想」については、Think Biggerの考え方に沿って進めているように感じます。

私が経験上、適切なサブ課題を選べたかどうかの判断基準にしているのは、「これらのサブ課題を一挙に解決するアイデアがあったら、既存の解決策よりかなりよいと言えるか?」である。最終的な解決策は、一見不可能なことを可能に感じさせるものであってほしい。解決策が製品の場合、あなたの考える新しい製品は、すでに市場に出回っているどの製品よりもかなりよいと感じられるものでなくてはならない。

(p174)

専門家と同様、ユーザーも知識や経験に縛られていることを忘れずに。

(p178)

消費者洞察は課題を理解するうえでたしかに重要だが、解決策を生み出すのには役立たない。

(p179)

専門家とユーザーは、課題の「内側」にいる。それ以外の全て人がいるのは、課題の「外側」だ。その分野や領域で直接経験を積んでいない人は、先入観にとらわれずに考えることができる。経験は深みを与えるが、幅を狭める。外部者は深みが足りないが、幅が広い。知識によって思考を限定されないからだ。

(p180)

そうなんですよね。自治体にとってはその社会課題の課題の「内側」にいて、企業にとってもその社会課題は課題の「内側」にいるのだと思います。だからその課題の捉え方がどうしても限られてくるのだろうと感じます。

望みを比較するときは、まずあなたが望むことを全部書き出そう。なにしろ自分が望みもしないものは書けやしないのだから。「全体像」のかたちを思い出してほしい。三角形の最上にあなたの望みを書き出していこう。

(p212)

望みが一致したり対立したりするのは当たり前のことだ。今の時点では、それらを折り合わせる必要はない。すべての当事者をすべての点で満足させることはできない。だからこそ、解決策を生み出すあなたが、解決策を選択しなくてはならないのだ。

(p220)

ダ・ヴィンチは、新しいアイデアを生み出すために領域外を探索することの大切さを、史上初めて意識的に認識した人だと私は思っている。

(p238)

そうなんです。社会課題を解決しようとするとき、私たちは領域外を探索しようとしているのです。だから「逆プロポ」という仕組みだけコピペしたとしても、絶対にうまくいかないように思います。

彼が数々のイノベーションを生み出せたのは、多くの分野に精通していたからではない。新しい知識分野をじっくり開拓し、ほかの人がやらないような方法でものごとを結びつけたからなのだ。多くの領域にまたがって探索し、先行事例の戦術を収集し、それらを組み合わせて新しいイノベーションを生み出す能力―そして好奇心―が、Think Biggerの柱である。このプロセスこそが、ダ・ヴィンチの真の強みだった。

(p238-239)

Think Biggerは、多様性についても新しい視点を提供する。Think Biggerをチームでやる場合は、多様な背景を持つメンバーが、課題の定義についても、課題を分解する方法についても、多様な意見を持っている。多様性は高ければ高いほどよい。だがその一方で、専門地域も欠かせない。そして現実の世界では、課題の領域で最も経験を積み、最も専門知識が豊富な人が、課題の定義についても分解についても、主導権を握ることが多い。つまり専門性や経験が重視されるあまり、多様性がないがしろにされがちなのだ。それに、差別のせいで十分な経験を積めない人がいることを考えれば、経験豊富な人を優遇することは、差別を助長することになりかねない。 Think Biggerは、条件を公平にすることよって、この問題に対処している。

(p249)

多様な人でディスカッションすることが重要。鳥の目、虫の目に加えて、岡目八目が必要なのだと。そしてその岡目八目には、多様な経験に裏打ちされた本棚が必要。「逆プロポ」は長年、属人的なサービスであったものの、ここにきて、ノウハウや経験のデータベース的なものができたことにより、サービスの品質が高い水準で安定的になってきているように思っています。

心理学者の故キャサリン・フィリップスが画期的な研究で示したように、ただ多様な経歴の人たちを一堂に集めるだけでは、多様性の恩恵は得られない。思考の多様性を成果に繋げるには、進んで情報を分かち合い、対立を解消しようという姿勢を全員が持つことが欠かせない。1人ひとりの意見が聞き入れられ、尊重され、理解されることが大切だ。

(p250-251)

考えてみれば、人は失敗したから成長するのではない。失敗に対処することで成長するのだ。失敗そのものから学べるのは、うまくいかない方法だ。

(p252)

失敗したアイデアを知ることは参考にはなるが、それを選択マップに入れてはいけない。実験が失敗しない確率を高めなくてはならないからだ。アイザック・ニュートンが土台としたのは、失敗した実験ではなく、先人たちの業績だった。

(p255)

この辺りは、確かにそうだなと本書を読んで感じるようになりました。失敗の本質っていう本もありますが(それは素晴らしいと思いつつ)、失敗から学べることは「失敗の仕方」。そうではなく、成功するためには、「成功の体験」を学ぶことが何よりも重要だと思います。本書では、無人島の事例を用いてわかりやすく説明が加えられています。すごく納得。

「大きな」アイデアというものは、人間離れした英雄によって推進されるのだろうと思われがちだ。だが詳しく調べてみれば、どんなに偉大な人物のどんなに偉大なアイデアも、実はほかのイノベーションとまったく同じ方法で生み出されたことがわかる。課題を定義し、分析し、戦術を徹底的に探し、それらを新規かつ有用な方法で組み合わせて、課題の当事者にとって意味のある解決策を生み出し、実行に移したのだ。

(p281-282)

これはここ最近つとに感じることが増えています。発想がすごいな、と思う方はいるのですが、それは自分の記憶の棚にきれいに畳んでしまっている、その仕方が素晴らしいのだろうなと感じることが多いのです。そしてその記憶から引っ張り出してきた知恵を用いて、新規かつ有用な方法で組み合わせる。そこが閃めきなんでしょうけど。それさえも経験で、鍛えられるものなんだろうと思います。

ガンディーは東洋と西洋の両方から、まったく異質な戦術を集め、それらをインドの文化や言語、地理、宗教にとらわれない方法で組み合わせた。そうして、全てのサブ課題を網羅する大きな運動を巻き起こし、最終的にメイン課題を解決したのである。

(p288)

フランスの偉大な博学者アンリ・ポアンカレの名言を思い出してほしい。「発明とは、無益な組み合わせを排除して、ほんのわずかしかない有用な組み合わせをつくることである。発明とは見抜くことであり、選択することなのだ」・・・ポアンカレはさらにこう続けている。「選ばれた組み合わせのうちの最も実り多いものは、いくつかのかけ離れた分野から得た要素の組み合わせであることが多い。と言っても、できる限りかけ離れたものを組み合わせさえすれば、発明になるということではない。そのようにしてつくられた組み合わせの大多数は、まったく無益だろう。だがその中には、ごくまれにだが、最も実り多いものがたしかに存在するのである」

(p288-289)

かけ離れた分野からの組み合わせ!

ブレインストーミングは、経験の範囲内の課題にすばやく解決策を見つけるのにはよいが、創造的な答えを見つけるのには適していない。

(p293)

私自身は、できるだけ目新しい解決策をつくるために、最初は領域外戦術だけを組み合わせることにしている。

(p318)

本書は優れた社会課題解決のためのスキームを紹介した本であり、私たちが提供している「逆プロポ」で実施している思考と実践をわかりやすく解説しているような本でもある。(私自身もこの本を読むことで、「逆プロポ」ではどのようなことをやっているのか、言語化に近い体験をすることができた)

どういうメカニズムで社会課題を解決すべきか非常に示唆に富んだ内容だと思います。


◇筆者プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の45歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXを共同創業。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。吉備国際大学非常勤講師。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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