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「うんこと死体の復権」

 アマゾンの探検家で医師の関野吉晴が監督。
 常識をくつがえし、汚いもの、みたくないものを徹底的につきつけられる。なのに見終わったあとは、ある種のさわやかさをかんじる。
 伊沢正名は40年以上野糞をつづけ、だれもが野糞をできるように山を購入した。写真家だったが、今は「糞土師」を名のる。うんこをすると、棒に日付と名前を記して目印にして、定期的に変化を観察する。だした直後にハエがたかり、卵をうみつける。あっというまにウジがわき、数日でうんこの原型はなくなってしまう。ミミズが出現し、しばらくすると団粒状の土になる。ふつうの土を口にいれたらまずいが、ミミズによってつくられた団粒状の土はナッツのようなさわやかな風味がする、という。
 半世紀野糞をしつづけた山と、新しい山でうんこの分解状況をくらべると野糞山は圧倒的なスピードでうんこが土にかえる。野糞が山を豊かにしているのだ。52歳で結婚し、カメラマンをやめて糞土師専業になって生き方があわず10年で離婚したというエピソードはかなしくもかわいい。たしかに「生き方」は合わないだろう。
 絵本作家の舘野鴻は、観察ケースにいれたマウスの死体を山のあちこちにおいて、1週間ごとに死体を食べる生き物を観察する。
 悪食のコガネムシがすさまじい勢いで増殖し、ウジやシデムシなども食い尽くしてしまう。ところが、コガネムシの少ない季節にはウジやシデムシが死体をむさぼる。スズメバチは死肉を手作業でこねて肉団子にしてもっていき、アリはその肉をうばおうとする。ごちそうをわけあっているかのようだ。
 伊沢も舘野も、うんこを焼却したり、死体を火葬するのは自然の摂理に反しているという。野糞をして、山でのたれ死ねば、ほかの命に生まれかわれるのに……。
 狂言回し役の関野監督は、ナイフ1本で生きることができ、野糞をして、死んだら森にかえるアマゾンの先住民族の姿と、伊沢らをオーバーラップさせる。
 関野の素朴なナレーションによって、汚さのシンボルであるうんこや死体やウジがしだいに美しく大切な命に思えてくる。
 不思議なドキュメンタリーだった。

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