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ヒスタミンが膀胱の炎症を誘発?間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の原因・改善策を探る

間質性膀胱炎や膀胱痛症候群の原因の一つと考えられているのが、免疫反応の異常です。膀胱の炎症を引き起こしているのは、アレルギーとの関連で知られる「ヒスタミン」かもしれません。間質性膀胱炎や膀胱痛症候群になると、4種類のヒスタミン受容体の発現が膀胱で増えることが報告されています。ヒスタミンの作用を抑えることができれば、間質性膀胱炎や膀胱痛症候群は改善するのでしょうか。国内外で、研究が進められています。

膀胱にあるヒスタミン受容体と炎症

学術顧問の望月です。前回は、間質性膀胱炎と膀胱痛症候群の診断の決め手となる「ハンナ病変」に焦点を当てました。記事では、ハンナ病変の評価が医師ごとに異なる場合が少なくないことを示すデータとともに、新たな技術を採用した膀胱内視鏡による画像診断や症例の情報共有など、治療の第一歩である“正確な診断”に向けた専門医の取り組みをご紹介しました。

リンク:間質性膀胱炎の適切な治療を!実態調査で見えてきたハンナ病変確認の重要性

今回は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群とヒスタミンの関係を探っていきましょう。ヒスタミンは、肥満細胞(マスト細胞)由来の生理活性物質です。アレルギーとの関連でも知られるヒスタミンは、細胞の表面にあるヒスタミン受容体を介して作用を発揮します。ヒスタミン受容体には「H1R」「H2R」「H3R」「H4R」の4つの種類があり、働きはそれぞれ異なります。

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ヒスタミンと膀胱の炎症の関係が明らかになりつつある

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の膀胱は、慢性炎症の状態にあります。炎症の引き金はヒスタミンかもしれない──。海外では、マスト細胞から放たれたヒスタミンによって膀胱の炎症や過敏症が生じる可能性を示唆する研究結果がいくつか報告されています。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対するヒスタミンの影響を評価するには、まずは膀胱のヒスタミン受容体の存在を確認しなくてはなりません。モデル動物による検証では、膀胱上皮細胞を中心に4つのヒスタミン受容体の発現が認められています。

さらに、2019年に『BMC Urology』に投稿された論文(※1)では、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療で入院した患者さんの膀胱組織におけるヒスタミン受容体の発現について報告されました。対照群である膀胱痛を伴わない尿路合併症の女性と比較した結果、4つのヒスタミン受容体の発現は間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんで有意に上昇。受容体は主に、膀胱粘膜、間質性血管、排尿筋に発現していることがわかりました。

ヒスタミン受容体と重症度に関連あり

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療では、抗ヒスタミン剤が使用されます。膀胱内におけるヒスタミンの働きをブロックすれば、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の症状はよくなるのでしょうか。論文では、抗ヒスタミン剤によるヒスタミン受容体の発現状況の変化や治療効果についても検証されています。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さん50人のうち、抗ヒスタミン剤(「H1R」「H2R」の阻害剤)によって痛みや尿意切迫感、頻尿が改善した38人(25〜80歳、男性9人・女性29人)と、改善しなかった22人(24〜70歳、男性2人・女性20人)のヒスタミン受容体の発現を調べたところ、有意差は確認できませんでした。一方、ヒスタミン受容体と病状の関連を調べると、「H1R」「H3R」と間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の重症度を示す「OLS」というスコアに相関関係が認められました。「H1R」「H3R」の抑制による病状改善の可能性を示唆する結果です。なお、「H1R」はⅠ型アレルギーの炎症と、「H3R」は炎症誘発性のペプチドの放出と関係しています。

論文投稿者は、治療薬に「H3R」「H4R」の阻害剤を加えた上、より多い対象者、厳格な投薬管理のもと、適切な治療期間で試験を行い、ヒスタミン受容体の発現状況を膀胱鏡検査の結果とも照らし合わせていくことで、新たな結果が得られる可能性を指摘しています。いずれにしても、ヒスタミンはなんらかの形で間質性膀胱炎・膀胱痛症候群と関係していそうです。抗ヒスタミン作用のある食品なども含めて、病状改善の一手が見えてくるかもません。

※1 『BMC Urology』 2019年「Differential expression of histamine receptors in the bladder wall tissues of patients with bladder pain syndrome/interstitial cystitis–significance in the responsiveness to antihistamine treatment and disease symptoms」 Hui Shan, Er-Wei Zhang, Peng Zhang, Xiao-Dong Zhang, Ning Zhang, Peng Du and Yong Yang


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