見出し画像

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の非侵襲の治療法確立へ A型ボツリヌストキシンの新たな投与法

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の一つとして知られているのが、「A型ボツリヌス神経毒素(以下、ボツリヌストキシンA)」の膀胱内注入です。現在、リポソーム封入やヒドロゲル包埋によって患部にボツリヌストキシンAを届ける研究や、エネルギー衝撃波と組み合わせることでボツリヌストキシンAの膀胱内注入の治療効果を高める研究などが進められています。

ボツリヌストキシンAの膀胱注入療法

学術顧問の望月です。前回の記事では、膀胱痛症候群という概念の中における間質性膀胱炎の位置付けを整理。ハンナ病変の有無の確認の重要性と、治療の流れや選択肢をご紹介しました。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の一つには、ボツリヌストキシンAというたんぱく質の膀胱内注入療法が挙げられます。

ボツリヌストキシンAには、神経をまひさせる作用があります。アデノシン三リン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、サブスタンスPなど、さまざまな神経伝達物質の放出をブロックすることによって感覚機能を調節できることも明らかになっています。

ボツリヌストキシンAを膀胱内に注入すると、蓄尿や排尿に使う筋肉である膀胱排尿筋が緩むため、頻尿や切迫性失禁といった症状が緩和されます。間質性膀胱炎においては、膀胱内の炎症が抑制されることが報告されています。肥満細胞の活性化の抑制による抗炎症のメカニズムも関与しているようです。さらに、ボツリヌストキシンAが間質性膀胱炎の痛みを和らげる可能性についても検証が進められています。

ボツリヌストキシンAの膀胱内注入療法の難点は注射です。具体的には、血尿や尿路感染症といった合併症などのリスクがあります。ボツリヌストキシンAの膀胱内注入の合併症は、約5%の頻度で生じるという報告があります。また、全身麻酔が必要な場合もあり、必要な治療とコストが増えてしまいます。ボツリヌストキシンAの効果は注射後6ヵ月で低下するため、治療をくり返す必要もあります。

2021年に『Toxins』という学術誌に掲載された「Novel Applications of Non-Invasive Intravesical Botulinum Toxin a Delivery in the Treatment of Functional Bladder Disorders」という論文では、ボツリヌストキシンAの新たな使用法と可能性が示されています。

リポソームカプセル化ボツリヌストキシンA

ボツリヌストキシンAは、尿路上皮を通過して尿路上皮下組織に作用すると考えられています。ボツリヌストキシンAを尿路上皮に届ける手段として注目されているのが、リポソーム封入です。リポソームとは、脂質二重層を1つ以上持つ自己組織化球状小胞です。ここでは、ボツリヌストキシンAを入れる小さなカプセルと考えてください。

これまでの研究で、ボツリヌストキシンAが入ったリポソームが尿路上皮を通過して、尿路上皮下組織の神経終末に作用することが確認されています。その後、ラットを使った実験が行われると、リポソームカプセル化ボツリヌストキシンAに膀胱の炎症を軽減する効果があることがわかりました。実際に、尿路上皮下組織の神経終末に作用していることも報告されています。過活動膀胱の患者さんを対象とする試験では、頻尿と尿意切迫感の有意な改善が認められました。

TC-3ヒドロゲル包埋ボツリヌストキシンA

カプセル化したボツリヌストキシンAが患部で効果を発揮することがわかると、研究の幅が広がりました。近年では、治療効果を上げるために、ボツリヌストキシンAとヒドロゲルTC-3の組み合わせについても研究が進められています。ヒドロゲルも、薬剤のカプセル化に使用されているものです。ヒドロゲルTC-3は、膀胱ガンの新規治療薬として臨床試験が行われています。

ボツリヌストキシンAを加えた「TC-3ヒドロゲル包埋A型ボツリヌストキシン」は、機能性膀胱障害の患者さんにも使用されています。過活動膀胱膀胱の患者さんを対象とする試験では、生理食塩水、ジメチルスルホキシドを含むヒドロゲルTC-3ヒドロゲル包埋、ジメチルスルホキシドと効果を比較。TC-3ヒドロゲル包埋ボツリヌストキシンAを膀胱内に投与したグループは、尿漏れや膀胱の状態などのスコアで最も高い改善効果が得られました。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんを対象とした試験も行われており、TC-3ヒドロゲル包埋ボツリヌストキシンAによって、膀胱痛と尿の頻度は12週間後に有意に減少したことが報告されています。懸念点としては、尿路感染症のリスクが残ることが指摘されています。

エネルギー衝撃波と組み合わせたボツリヌストキシンA

薬剤の送達強化の一方で、エネルギー衝撃波を活用した治療についても研究が進められています。低レベルのエネルギー衝撃波は、炎症の軽減に役立つとされています。実際に、動物実験では、低レベルのエネルギー衝撃波によってシクロホスファミドという薬剤で誘発した膀胱炎ラットの膀胱痛、尿の頻度、炎症が軽減されたという結果が得られています。

エネルギー衝撃波は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんにも有効なのでしょうか。低レベルのエネルギー衝撃波を単独で使用したときには明確な効果は確認されなかったものの、ボツリヌストキシンAとの併用では今後につながる結果が得られています。

難治性の間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の6人の膀胱内に、ボツリヌストキシンAを投与。続けて低レベルのエネルギー衝撃波による治療を受けてもらいました。週1回の治療を4週間続けた結果、痛み、間質性膀胱炎の症状指数と問題指数の症状スコアに有意な改善は認められなかったものの、エネルギー衝撃波がボツリヌストキシンAの尿路上皮の通過を促進していることがわかったそうです。難治の患者さんが対象でしたが、ボツリヌストキシンAの量の増加などによって改善が見られる可能性があるとされています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?