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間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の最新論文 治療のターゲットや新たな治療薬をご紹介

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の原因は明らかになりつつあるものの、病因のすべては解明されていません。現在は、さまざまな症状を引き起こす原因への対処法に関する研究が進められています。各国から発表される研究情報が参照・統合されることで病気の理解が深まれば、今後、治療のターゲットが明確となり、適切な治療法が確立されるはずです。今回の記事では、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の新たな治療の現状をご紹介します。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法

学術顧問の望月です。今回の記事では、久しぶりに間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の情報を取り上げます。『Therapeutic Advances in Urology』に2021年に投稿された「Current standard of care in treatment of bladder pain syndrome/interstitial cystitis」という論文では、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の標準的な治療法とともに、最近の研究報告をもとに新たな治療法についてレビューしています。

激しい痛みや頻尿などが見られる間質性膀胱炎や膀胱痛症候群には、膀胱の尿路下層における肥満細胞の異常な活性化、膀胱尿路上皮のグリコサミノグリカン層の損傷、神経性炎症、粘膜下層の微小血管の異常、自己免疫の暴走、感染性などが関わっているといわれています。しかし、これまでの記事で解説してきたとおり、原因のすべては明らかになっていません。

以前の記事では、指摘されている病因それぞれへの対処法はあるものの、背景にあるメカニズムが複雑で、間質性膀胱炎や膀胱痛症候群の最適な治療を行うのは簡単ではないことをご紹介しました。また、全身性疼痛症候群や過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症との併発が少なくないため、間質性膀胱炎や膀胱痛症候群の正確な診断が難しいという実情についてもふれています。

現在、間質性膀胱炎や膀胱痛症候群の治療では、行動療法・理学療法・薬物療法・膀胱内治療・外科的治療が検討されます。薬物療法には鎮痛薬や非ステロイド性抗炎症薬、抗うつ薬や抗ヒスタミン薬などが、膀胱内治療にはジメチルスルホキシド(DMSO)のほか、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などが使用されています。詳細については、過去の記事をご参照ください。

治療のターゲットと新たな治療薬

今回のレビューでは「治験中」「新たな治療薬」という項目で、比較的新しい研究情報が取りまとめられていました。駆け足になりますが、それぞれ簡単にご紹介していきましょう。

●一過性受容体電位チャネル
痛みや熱といった感覚機能には、体内のイオン輸送を調節しているTRPチャネルが関わっています。TRPチャネルの働きに影響を与えている一つが、TRPVという受容体です。

これまでに、TRPV1受容体やTRPV4受容体をターゲットとする拮抗薬の有効性が検証されてきました。TRPV1に着目したレジニフェラトキシン膀胱内カプサイシン療法は、神経因性膀胱患者の排尿筋過活動、または排尿筋過活動の抑制に使用されています。また、GRC 6211という新しいTRPV1ブロッカーは、ラットの反射性膀胱収縮の頻度を減らすと報告されています。

●カンナビノイドシステム
カンナビノイドは大麻草に含まれる化学物質であり、抗侵害受容性および抗痛覚過敏性を持つ生理活性物質ですが、排尿の制御にも効果的であると報告されています。人の体内にもカンナビノイド様物質(内因性カンナビノイド)が存在し、同様の活性を示します。内因性カンナビノイドは、体内で脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)によって分解されますが、活性維持のためにFAAH阻害剤の研究が進められています。

軽度あるいは中度の間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の女性を対象とする臨床試験では、ASP3652というFAAH阻害剤の効果が検証されました。残念ながら、いまのところはプラセボ群との差は認められませんでした。一方で、多発性硬化症の患者さんを対象とする試験では、尿意切迫感と尿失禁に対するカンナビノイドの有効性が示唆されています。

●プリン作動性システム
生命活動で利用されるエネルギーの貯蔵・利用に関わるアデノシン三リン酸(ATP)に注目したものです。ATPの働きには、プリン作動性受容体が関与しています。膀胱収縮や膀胱感覚刺激にも影響を与えていることが報告されているプリン作動性システムをターゲットとして、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんを対象とした臨床試験(第 IIa 相試験)では、gefapixantという選択的P2X3含有受容体拮抗薬が痛みと尿意切迫感の改善に効果があったと報告されています。

●膀胱内リポソーム
膀胱内リポソームは、薬物をリン脂質層で包んだカプセルのようなものです。尿路上皮のバリア機能の回復を狙って、薬剤を膀胱内に届けようという研究が進められています。リポソームの主成分が、抗炎症作用を持つスフィンゴミエリンであるのもポイントです。「A型ボツリヌス神経毒素」を充填したリポソームを用いた試験では、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の症状の緩和が認められています。

「治験中」「新たな治療薬」の項目で取り上げられた治療法は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法になりうる可能性が示唆されているものの、現状では“決め手”を得られていません。今回のレビューは、「研究情報を参照するネットワークが整ってきたことで、病因の解明が進むとともに治療のターゲットも明確となり、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群のよりよい研究方法論が今後開発されていくことが期待される」と結ばれています。

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