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糖尿病・糖尿病合併症に対する有効性を検証 鍵はケルセチンの抗酸化作用

そばの新芽を原料とする発芽そば発酵エキスには、ケルセチンというフラボノイドが含まれています。ケルセチンには、抗肥満・抗菌・抗糖尿病・抗炎症・抗ウイルスなどの効果があることがわかっています。これらに関与しているのが、ケルセチンの抗酸化作用です。今回の記事では、海外の論文をもとに、糖尿病や糖尿病合併症に対するケルセチンの効果を整理していきます。

酸化ストレスが引き金で血糖値が上昇

学術顧問の望月です。前回の記事では、発芽そば発酵エキスに含まれる「Lactobacillus plantarum」という乳酸菌の免疫調節作用を整理しました。そばの新芽を原料とする同エキスには、「ケルセチン」も含まれています。今回の記事では、ケルセチンの研究情報をご紹介します。ピックアップしたのは、『Biomedicine & Pharmacotherapy』に2022年に投稿された「Quercetin for managing type 2 diabetes and its complications, an insight into multitarget therapy」という論文です。

機能性成分として知られているケルセチンはフラボノイドの一種で、ソバやタマネギをはじめ、柑橘類などに豊富に含まれています。ケルセチンの研究領域はとても広く、抗肥満・抗菌・抗糖尿病・抗炎症・抗ウイルス(新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス)などに対する効果が国内外から報告されています。これらの健康効果の背景にあるのが、ケルセチンの強力な抗酸化作用です。

今回の論文では、糖尿病(2型)に対するケルセチンの効果が整理されています。糖尿病の病態の特徴は、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンに対する反応が鈍くなるインスリン抵抗性や、分泌されるインスリン量の減少・枯渇などです。骨格筋などへのグルコースの取り込みがうまくいかなくなり、慢性的な高血糖状態が続くと、網膜症・腎症・神経障害などの合併症が起こることもあります。

インスリン抵抗性やインスリンの分泌量の異常には、活性酸素による酸化ストレスが関わっています。酸化ストレスの増加によって、さまざまな代謝経路に狂いが生じてしまうのです。

論文では、酸化ストレスとの関連として、①ポリオール経路を介したグルコースの流れの増加、②プロテインキナーゼCアイソフォーム β、δ、αの活性化、③糖化最終産物(AGE)の形成の増加、④抗酸化防御の低下、⑤ヘキソサミン経路の過剰活性などが挙げられています。専門的になりますので詳細は割愛しますが、「酸化ストレス」「インスリン抵抗性」「糖尿病性合併症の発生率」には強い関連が見られることが報告されています。

糖尿病の治療には、複数の薬を組み合わせることが少なくありません。これらには副作用があります。こうした背景もあり、安全性の高い食品成分の研究が進められてきました。ケルセチンも、糖尿病に対する効果が研究されている機能性成分の一つです。

臨床試験では酸化ストレスや血糖値が改善

ケルセチンは、人間の筋肉、膵臓、肝臓、小腸などに働きかける性質を持っています。この性質は、糖尿病や糖尿病合併症の改善にも役立つと考えられています。論文で紹介されている研究の例をご紹介していきましょう。

通常、グルコースの80%以上はインスリン感受性のある骨格筋に取り込まれています。先述のとおり、骨格筋においてグルコースを上手に取り込めなくなるのが糖尿病です。ケルセチンには、細胞のエネルギーセンサーとも呼ばれる骨格筋のAMPKという酵素を活性化して、AktというメディエーターやGLUT4という受容体を刺激する働きがあります。その結果、グルコースが細胞に取り込まれることで、血糖値は一定に保たれるようになります。これは、メトホルミンという治療薬と同じ作用機序です。

そのほか、ケルセチンには肝臓におけるAMPKの活性を誘導する働きや、抗酸化酵素が少ないために酸化ストレスのダメージを受けやすい膵臓のβ細胞の活性酸素を除去することでインスリンの分泌量を増やす働きなどがあることがわかっています。

抗酸化作用や抗炎症作用によってAGEの蓄積を抑制する効果が期待されるケルセチンは、糖尿病合併症の予防・改善にも有効かもしれません。動物実験では、ケルセチンの投与で、薬剤によるラットの網膜症、高コレステロール血症マウスの糖尿病性腎症、糖尿病ラットの腸管の神経保護効果などが得られたことが報告されているのです。

ケルセチンの有効性は、糖尿病の患者さんを対象とした臨床試験でも示唆されています。400 mgの単回投与では、グルコースの吸収に関わるα-グルコシダーゼという酵素の活性を阻害して、食後高血糖が改善していたのです。また、メタアナリシスという手法による分析では、1日あたり500 mg以上の投与量で血糖値が低下することが明らかになっています。

さらに、1日あたり250 mgの経口投与によって、2 型糖尿病の酸化ストレスが改善することがわかっています。ただし、この試験では、空腹時血糖、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、血清インスリンなどに有意な変化は見られなかったようです。ほかには、1日あたり20.9±2.32 mgの摂取量で糖尿病のリスクが下がるという研究結果も報告されています。

各試験の結果にはばらつきも少なくありませんが、原因には摂取量や介入期間の違いなどが挙げられます。論文では、ビタミンCや葉酸、ほかの種類のフラボノイドをいっしょにケルセチンを摂取するメリットも紹介されていました。こうした組み合わせも、ケルセチンの効果を高めたり安定させたりするために重要な要素になるかもしれません。

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