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高血圧の治療薬とインスリン抵抗性 長期治療中・糖尿病併発グループでインスリン抵抗性数値が改善

慢性的な高血糖には、インスリン抵抗性が関わっています。インスリン抵抗性は、肥満や高血圧が原因で起こります。インスリン抵抗性の改善に役立つとされているのが、高血圧の治療薬です。ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)とARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)は、高血圧の治療を12週間以上受けている人と、糖尿病を伴う高血圧の人のインスリン抵抗性に効果的に作用することがわかってきました。

高血圧の治療薬と糖代謝の関係を分析

学術顧問の望月です。これまでに、ケルセチン、Lactobacillus plantarum、Lactococcus lactisなど、不二バイオファームで製造している発芽そば発酵エキスに含まれる化合物や乳酸菌の薬理作用についてご紹介してきました。さらに、発芽そば発酵エキスは2"ーhydroxynicotianamineを含有し、ACE阻害活性を示すことがわかっています。

今回の記事では、『PLOS ONE』という学術誌に2021年に投稿された「Angiotensin-converting enzyme inhibitors versus angiotensin II receptor blockers on insulin sensitivity in hypertensive patients: A meta-analysis of randomized controlled trials」という論文を見ていきます。この論文では、高血圧の治療薬とインスリン抵抗性の関係が整理されています。

インスリンとは、膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる細胞群の中にあるβ細胞から分泌されるホルモンの一種です。食後に血糖値が上昇すると分泌されるインスリンは、細胞表面にあるインスリン受容体と結合することで血液中のブドウ糖を筋肉などに送り届けています。インスリンによってブドウ糖を処理できない状態がインスリン抵抗性です。インスリン抵抗性は、遺伝的要因のほか肥満や運動不足、ストレスなどが原因で起こります。

インスリン抵抗性は、高血圧とも関係していることがわかっています。血圧の上昇に関わるメカニズムの一つには、「レニン−アンジオテンシン系」という経路が挙げられます。レニン−アンジオテンシン系の過剰な活性化は、インスリンのシグナル伝達経路に悪影響を与えてしまうのです。レニン−アンジオテンシン系の活性化は、体内の酸化と炎症を進め、血流の悪化や交感神経の活性化にもつながることがわかっています。

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レニン−アンジオテンシン系(出典:https://pharma-navi.bayer.jp/adalat/pharmacist/basic/01/t07)

レニン−アンジオテンシン系の過剰な活性化を抑えることは、インスリン抵抗性の改善策の一つといえます。レニン−アンジオテンシン系の鍵は、血圧を上昇させる作用を持つアンジオテンシンIIです。アンジオテンシンIIは、アンジオテンシンI変換酵素の働きによってアンジオテンシンIが変換されて増加します。アンジオテンシンIIの働きを抑えられれば、インスリン抵抗性は改善できると考えられるというわけです。

実際に、高血圧の治療で使用されているACE阻害薬とARBという薬は、血流の促進、酸化ストレスの抑制、膵臓β細胞のアポトーシスの減少につながり、インスリン抵抗性を改善させると報告されています。

糖尿病を伴う高血圧患者のインスリン抵抗性が改善

今回の論文では、高血圧患者を対象とするデータベースから抽出した過去の研究をもとに、作用機序の異なるACE阻害薬とARBのインスリン抵抗性に対するそれぞれの効果が分析されています。簡単にいうと、ACE 阻害薬を服用しているグループと、ARBを服用しているグループの治療データを比較したものです。

分析対象となった論文は11件で、1015人の治療データが整理されました(薬の併用など、一定の条件に該当する人は分析対象から除外されています)。1015人の中には糖尿病を併発している高血圧の患者さんもおり、背景にある疾患を加味したサブグループを設けた分析結果も取り上げられています。

主要なチェック項目は、インスリン抵抗性です。研究では、血中インスリン量、ブドウ糖濃度から算出されるHOMA-IR(インスリン抵抗性のホメオスタシスモデル評価)*、QUICKIスコア(定量的インスリン感受性チェック指数)、ISI(インスリン感受性指数)というインスリン抵抗性の代理指標を用いて、それぞれの治療薬の効果を比較。そのほか、グルコース注入率(GIR)、空腹時血漿グルコース(FPG)、空腹時血漿インスリン(FPI)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)が確認されました。

*空腹時血漿インスリン(FPI)と空腹時血漿グルコース(FPG)から計算:HOMA-IR=FPI × FPG /405。HOMA-IRが大きいということは「血中のインスリン濃度が高いにもかかわらず、血糖値が下がっていない」ことを意味する。

それでは、結果をご紹介していきましょう。対象者全体ではACE 阻害薬とARBとの間でHOMA-IRに有意差はなかったものの、12週間以上と治療期間が長期にわたるグループで比較した分析では有意差が認められました。ACE 阻害薬のほうが効果的であるという結果です。サブグループと位置づけられた糖尿病を伴う高血圧患者でも、同様の結果が得られています。

一方、高血圧患者のQUICKIスコアでは、ACE 阻害薬とARBとの間に有意差は認められませんでした。FPG、FPI、SBPも同様です。一方、GIRとISIの改善に対するACE 阻害薬の有効性は、ARBよりも有意に優れていることがわかりました。

インスリン抵抗性とレニン−アンジオテンシン系は、悪循環で互いに悪化していくことがわかっています。アンジオテンシンII の阻害薬であるACE 阻害薬とARBは、糖尿病を伴う高血圧の第一選択肢です。著者は、「今後、より大規模でより適切に設計された研究によって、治療効果を明確にすることができるだろう」と総括しています。

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