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アスタキサンチンの抗炎症作用をご紹介 海外のレビュー論文を解説

アスタキサンチンの研究は国内外で進められています。アスタキサンチンの機能性として知られているのが、抗炎症作用です。抗炎症作用を切り口として、さまざまな病気に対するアスタキサンチンの効果が検証されています。アスタキサンチンは、どのような疾患に有効なのでしょうか。明らかになりつつある作用機序とともに、アスタキサンチンの研究情報を整理していきます。

炎症反応とアスタキサンチン

学術顧問の望月です。不二バイオファームでは発芽そば発酵エキスのほか、ニンニクスプラウトにアスタキサンチンを加えたサプリメントを製造しています。アスタキサンチンには、強力な抗炎症作用があります。今回の記事では、『Molecules』という学術雑誌に2020年に投稿された「Astaxanthin and its Effects in Inflammatory Responses and Inflammation-Associated Diseases: Recent Advances and Future Directions」というレビュー論文(1)をご紹介します。

アスタキサンチンは、エビやカニなどの甲殻類、サケやタイなどの魚介類に豊富に含まれている天然の色素成分「カロテノイド」の一種です。以前、アスタキサンチン製造のトップシェアを誇る富士化学工業の西田洋社長にご登場いただいておりますので、アスタニンについては以下の記事もご参照ください。

今回のレビュー論文は、簡単にいうとアスタキサンチンのマルチな機能性に注目したものです。炎症反応に与える影響や炎症を伴う病気に対する効果など、海外の研究情報が整理されています。炎症反応は、さまざまなメカニズムを通して生じるものです。アスタキサンチンには、炎症性のバイオマーカーに対する作用をはじめ、複数のシグナル伝達経路および炎症性メディエーターの遺伝子発現を遮断する働きがあります(図参照)。

アスタキサンチンの抗炎症作用をご紹介 海外のレビュー論文を解説

アスタキサンチンの抗炎症メカニズム。多くの急性期タンパク質(APP)、誘導酵素、ケモカイン、サイトカインなどの炎症性バイオマーカーは、アスタキサンチンによって調節される標的遺伝子である。炎症性分子に加えて、アスタキサンチンはPI3K/AkTおよび核因子赤芽球2様2(Nrf2)シグナル伝達経路を促進できるが、NF-κB、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK1/2)、c-JunN末端キナーゼ(JNK)、p38 MAPK、およびJAK-2/STAT-3シグナル伝達経路をブロックし炎症を軽減する。 赤い矢印は抑制作用を示し、黒い矢印は増強作用を示す。(1)より引用

レビュー論文では、紫外線(UV)による炎症の保護効果(ヒトケラチノサイト)、糖尿病によって誘発される肝機能障害の予防効果(ラット)、喘息に伴う気道炎症の軽減(マウス)、ハードなトレーニングによって生じる炎症の抑制効果(若いサッカー選手)など、作用機序とともにアスタキサンチンの抗炎症作用ならびに抗酸化ストレス作用が紹介されています。

炎症を伴う病気に対するアスタキサンチンの働き

章立てで取り上げられているのが、「神経疾患」「糖尿病」「胃腸疾患」「腎・肝疾患」「目と皮膚の障害」に対する働きです。駆け足になってしまいますが、ポイントを抜粋して概要を簡単にご紹介していきましょう。

●神経疾患
・アルツハイマー病
ラットを用いた実験では、アスタキサンチンの投与によって認知機能が有意に改善しています。マウス実験では、酸化ストレスのパラメーターを調節して神経炎症が抑制されることで、認知障害が軽減することが確認されています。
・パーキンソン病
マウス実験では、アスタキサンチンが小胞体ストレスを抑制することによって、パーキンソン病によるニューロンの損傷を防ぐという結果が確認されています。DHAとの組み合わせによって効果が高まる可能性も示唆されています。
・脳血管認知症
マウス実験では、アスタキサンチンによって海馬の損傷が軽減。ニューロンのアポトーシスが抑制された結果、脳の損傷をくり返した後の記憶障害の改善が確認されました。活性酸素の抑制、神経再生の促進など、複数のメカニズムを通じて神経学的欠損を防ぐことが明らかになっています。
・神経因性疼痛
マウスの足の浮腫と痛みに対する効果を検証したところ、アスタキサンチンの投与で抗炎症作用による痛みの軽減が認められました。酸化ストレスの軽減によって行動的および生化学的変化を大幅に軽減する可能性があり、アスタキサンチンの継続的な投与で熱痛覚過敏などの治療効果が得られるとのことです。神経炎症を軽減することもわかっています。

●糖尿病
糖尿病に関連した病状発症には、酸化ストレスと慢性炎症が関わっていると考えられています。糖尿病性網膜症および糖尿病性ニューロパチーに対するアスタキサンチンの効果を検証した過去の臨床研究を調査したところ、炎症、微小血管損傷の改善効果などが確認されました。糖尿病性腎症に対する研究では、炎症のほかにも線維化の抑制効果が示唆されています。さらに、糖尿病性心血管合併症に対するアスタキサンチンの保護効果を検証したところ、酸化ストレスやLDLなどの改善が認められました。

●胃腸疾患
大腸炎モデルマウスを用いた実験では、アスタキサンチンは炎症性サイトカインの発現を部分的に阻害して、結腸粘膜の潰瘍および腺癌の発生を有意に抑えることがわかりました。酸化ストレスが抑制されて慢性炎症が軽減し、結腸粘膜にできる前ガン病変の発生が抑えられることも明らかになっています。

●肝・腎疾患
・巣状分節性糸球体硬化症
アスタキサンチンは、巣状分節性糸球体硬化症のモデルマウスの腎機能を有意に改善させました。抗酸化作用と抗炎症作用の関与によるものです。そのほか、造影剤誘発性急性腎損傷から細胞を保護する効果があるという研究報告についてもふれられています。
・肝損傷と自己免疫性肝炎
虚血・再灌流による肝損傷動物モデルでは、アスタキサンチン活性酸素の産生と炎症性サイトカインの発現の減少に関与している可能性を示唆する結果が得られています。自己免疫性肝炎を予防する効果もあるそうです。

●目と皮膚の障害
・ドライアイ
アスタキサンチンがドライアイから目を保護する効果が動物モデルにおいて確認されています。抗炎症作用のほか、抗酸化作用も関わっているとのことです。
・アトピー性皮膚炎
マウス実験では、アスタキサンチンの投与で皮膚重症度スコアと引っかき傷が軽減するという結果が得られています。

これらのほかにも、細菌やウイルスなどの感染症に対するアスタキサンチンの効果も注目されています。ピロリ菌感染の保護効果を示唆する研究結果は、その一つです。一方、C型肝炎ウイルスの治療にアスタキサンチンを併用しても効果に変化はなかったという報告もあります。しかし、別の研究では、子宮頸ガンとの関わりがあるヒトパピローマウイルスL1から細胞を保護する抗ウイルス効果がある可能性が示唆されています。今後も、アスタキサンチンの新たな機能性やメカニズムが明らかになっていくものと思われます。

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