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ケルセチンの抗ガン研究最前線 膵臓ガン治療におけるケルセチンの役割を検証

ケルセチンには、抗肥満・抗菌・抗糖尿病・抗炎症・抗ウイルスなどの効果があります。国内外では、ケルセチンをはじめとするフラボノイドの抗ガン作用についても研究が進められています。今回は、膵臓ガンを対象とするケルセチンの研究情報を取りまとめたレビュー論文をご紹介します。アポトーシス(細胞死)によって抗ガン効果を発揮するほか、さまざまなシグナル伝達経路を介してケルセチンがガンの進行を抑える可能性が示唆されています。

ガンの予防・改善で注目されるケルセチン

学術顧問の望月です。前回の記事に続いて、今回の記事でもケルセチンの研究情報をご紹介します。2018年に『Oxidative Medicine and Cellular Longevity』に2021年に投稿された「Quercetin Impact in Pancreatic Cancer: An Overview on Its Therapeutic Effects」というレビュー論文では、膵臓ガンに対するケルセチンの効果が整理されています。

膵臓ガンは早期発見が難しく、5年生存率が低いことでも知られているガンの一つです。膵臓ガンは、世界におけるガンによる死亡原因のうち7番目に多いと報告されています。日本においては、罹患者数は7番目、死亡数は4番目に多いのが膵臓ガンであるというデータが出ています。米国では、2030年までにガンの中で2番目に多い死亡原因になるという予測もあるそうです。

膵臓ガンの原因のすべては解明されていませんが、喫煙・肥満・動物性脂肪・嚢胞性線維症・遺伝などが発症のリスクを高める要因であるといわれています。また、膵臓ガンの発生率と死亡率が高いのは、飲酒・喫煙・高血圧・身体的不活動・肥満・高コレステロールの有病率が高い国であるという分析結果も報告されています。

発見の遅れによって治療の選択肢が少なくなることもあり、論文では膵臓ガンの予防の重要性が指摘されています。膵臓ガンの予防のほかにも、化学療法など膵臓ガンの治療効果を高めるための研究が進められています。先に挙げた生活習慣の見直しはもちろんのこと、機能性食品の活用も選択肢として提案されているのです。

フラボノイドは、ガンの予防・改善の効果があるとされる機能性成分の一つです。レビュー論文では、発芽そば発酵エキスにも含まれているケルセチンが主役となっています。本文では、膵臓ガン、結腸直腸ガン、前立腺ガン、肺ガン、卵巣ガン、鼻咽頭ガン、乳ガン、腎臓ガンなどに対するケルセチンの阻害効果を示す研究結果が紹介されています。

抗ガン剤耐性のあるガン細胞への効果も期待

膵臓ガンとの関連では、ケルセチンを併用することで、「ゲムシタビン(GMC)」という抗ガン剤に耐性の見られる膵臓ガン細胞株(GMC耐性細胞)に対する抗ガン効果が得られることが確認されています。また、レスベラトロールとの効果を比較する実験では、膵臓ガン細胞の転移を抑制する働きはケルセチンのほうが強いこともわかっています。さらに、腫瘍形成に関わるシグナル伝達(SHH)に注目した実験では、膵臓ガン細胞の増殖を抑制する結果が得られているのです。

シグナル伝達についてですが、ケルセチンはいくつかの経路を調節してガンに対抗することがわかっています。論文では具体的に、①オートファジーとアポトーシス誘導に対する効果、②細胞増殖への影響、③酸化ストレスへの影響、④上皮間葉転換(EMT)に対する効果、⑤化学療法の感受性に対する効果という項目を立てて、メカニズムが整理されています。この記事では、化学療法との関連を簡単にご紹介しておきましょう。

ケルセチンは、GMC耐性細胞に備わるRAGEという終末糖化産物の受容体を抑制することによってガン細胞の生存率を低下させるほか、GMCとの併用によってより強い抗ガン作用を発揮することがわかっています。PI3K/AKT/mTORというシグナルの関与が特定されています。また、別の研究では、ガン細胞のアポトーシスを誘導するTRAILという抗腫瘍性のサイトカインの働きをケルセチンが増強して、膵臓ガン細胞の生存率を低下させることも明らかになっています。

ケルセチンが化学療法に悪影響を与えることがないのもポイントです。ケルセチンはGMCなどと組み合わせると、ターゲットとなる細胞株に応じて化学療法の有効性にプラスの影響を及ぼし、ガン細胞の増殖を抑制するか、抑制できなくてもガン細胞の増殖には影響を与えないことがわかっています。抗ガン剤耐性の有無にかかわらず、どちらの細胞に対しても化学療法の相乗効果が得られるという研究結果も報告されています。

ざっくりとしたまとめとなりますが、ケルセチンはアポトーシスによって膵臓ガン細胞に対する抗ガン効果を発揮するほか、さまざまなシグナル伝達経路を介してガンの進行を抑える働きを持つと考えられています。海外では実際に、ガン治療にケルセチンが導入される機会も増えているようです。予防によってガンをゼロにはできないかもしれませんが、耐性などの問題のある既存の治療薬との組み合わせの選択肢が広がるのは望ましいことだと思います。

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