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間質性膀胱炎のA型ボツリヌストキシンとヒアルロン酸併用効果を検証 痛みが改善して生活の質も向上

「A型ボツリヌス神経毒素(以下、ボツリヌストキシンA)」の膀胱内注射は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の一つです。ボツリヌストキシンA治療単独での有効性も確認されていますが、ほかの薬剤を併用することで治療効果を高める試みについても研究が進められています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんを対象とした試験では、ボツリヌストキシンAとヒアルロン酸を組み合わせることで、痛みや生活の質が大幅に改善することが確認されました。

薬の効かない患者を対象として効果を検証

学術顧問の望月です。前回に続き、今回の記事でも間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の一つであるボツリヌストキシンAの膀胱内注射に関する研究情報をご紹介します。ピックアップした「Evaluation of pain and quality of life after hyaluronic acid instillation in addition to botulinum toxin-A injection in women with refractory Interstitial Cystitis/Painful Bladder Syndrome: A pilot study」という論文は、2022年に『Arch Ital Urol Androl』に掲載されたものです。

前回の記事では、ボツリヌストキシンAの長期間の継続投与の有効性や、治療効果が得られる人・得られない人といったボツリヌストキシンA治療の有効性の予測に繋がる独立した因子を探る試みなどをご紹介しました。前回の内容については、以下のリンクをご参照ください。

今回の研究では、ボツリヌストキシンAとヒアルロン酸の組み合わせが間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんの生活の質や痛みの改善に、どの程度効果があるかを検証しています。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の原因の一つは、尿路上皮のグリコサミノグリカン層の損傷や機能障害に伴う感覚神経の活性化、マスト細胞の刺激、膀胱の炎症であると考えられています。ヒアルロン酸の膀胱内点滴注入は、グリコサミノグリカン層を修復する働きやマスト細胞の刺激を阻害する効果が期待される治療法です。

試験には、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の女性34人(37〜63歳)が参加。夜間頻尿を含む頻尿、尿意切迫感があり、経口薬を6ヵ月以上飲んでいても骨盤痛が治らなかった人が対象で、11人の膀胱にはマスト細胞の浸潤による炎症が認められています。

34人の参加者は、ボツリヌストキシンA注射に加えてヒアルロン酸の膀胱内点滴注入の治療を受ける17人(併用グループ)、ヒアルロン酸の膀胱内点滴注入の治療のみを受ける17人(単独グループ)の2群に分けられました。ヒアルロン酸の膀胱内点滴注入は、併用・単独グループのいずれも2週間ごとに計12回実施。併用グループについては、ヒアルロン酸の膀胱内点滴注入の2週間前にボツリヌストキシンA治療を終えています。

ヒアルロン酸の併用で治療効果が大幅に上がる

この試験では、主観的な痛みの尺度(VAS)、生活の質の変化をはじめ、4日間の排尿日誌、国際膀胱炎症状指数(ICSI)と問題指数(ICPI)、骨盤痛緊急度・頻度患者症状尺度 (PUF)をアンケート方式で記録。治療前、治療の3ヵ月後と6ヵ月後の数値を分析していきました。

その結果、治療後に両群のすべての項目において有意な改善が認められました。いずれも治療効果があることを示しています。より顕著な治療効果が見られたのは、併用グループでした。著者らが主要項目と位置づけていた痛みと生活の質について見ていきましょう。

痛みの数値は、併用グループは治療前に8.5±1.5でした。それが3ヵ月後には3.9±2.4、6ヵ月後には2.9± 2.1と改善。一方の単独グループでは、8.6±1.9だった数値が3ヵ月後には5.8± 1.4に、6ヵ月後には4.3±2.6に改善していました。3ヵ月後と6ヵ月後の数値を比較したところ、どちらの時点でも併用グループのほうが痛みは軽いことがわかりました。

生活の質については、治療前に9.7±2.3だった併用グループの数値が3ヵ月後には6.9±1.9、6ヵ月後には5.7±1.5と推移。一方、治療前に9.8±2.06だった単独グループの数値は、3ヵ月後には8.2 ±1.8、6ヵ月後には7.9 ± 1.9と推移していました。両群の結果を比べると、併用グループのほうが生活の質が明らかに高くなっていることがわかります。

今回の結果を受けて著者らは、「ヒアルロン酸にボツリヌストキシンAを加えれば、ヒアルロン酸単独の治療よりもはるかに大きな効果が得られる」と結論づけています。一方で、より長い期間の追跡や、より多くの患者さんを対象とした試験も必要となってくるでしょう。いずれにしても、薬剤の組み合わせを含めて、患者さんの選択肢が増えるのは望ましいことです。研究の進展に期待しています。

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