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ケルセチンが認知機能と脳の血流を改善 認知症の原因物質を減らす成長ホルモンも増加

抗酸化作用や抗炎症作用のあるケルセチンは、軽度認知障害や認知症の予防に有効かもしれません。北海道江別市にある北海道情報大学では、60〜75歳の男女の認知機能や脳の血流に対するケルセチンの効果を検証。認知症の発症を予防する成長因子の増加や、認知機能に関する検査値の改善などが確認されました。

吸収率の高いケルセチン配糖体の働き

学術顧問の望月です。今回の記事では、『European Review for Medical and Pharmacological Sciences』に2022年に掲載された「Effect of quercetin glycosides on cognitive functions and cerebral blood flow: a randomized, double-blind, and placebo-controlled study」をご紹介します。北海道江別市にある北海道情報大学で行われた本研究では、認知機能や脳の血流に対するケルセチン配糖体の効果が検証されています。

ケルセチンは、不二バイオファームで製造している発芽そば発酵エキスにも含まれているポリフェノールの一種で、抗酸化作用や抗炎症作用を持っています。血圧を下げる降圧作用も、ケルセチンを代表する機能性の一つです。日本における研究では、ケルセチンの摂取量が多い人はLDL(悪玉)コレステロールの数値が低いことなどもわかっています。

本研究では、ケルセチンと糖が結合したケルセチン配糖体が血管機能や認知機能に与える影響について検証されました。ケルセチン配糖体は経口摂取した後、小腸で加水分解されてケルセチンになるように構造化されているため、ケルセチンよりも吸収効率が高いと考えられています。

試験には、加齢に伴うもの忘れを自覚している60〜75歳の男女80人が参加。ケルセチン配糖体を含む飲料を毎朝500ml飲んでもらう40人(ケルセチン群)と、ケルセチン配糖体を含まない飲料を毎朝500ml飲んでもらう40人(プラセボ群)の2群に分けて、認知機能や脳の血流などを比較しました。

40週間に設定された試験期間を終えて結果の分析対象となったのは、ケルセチン群33人(67.1±3.8歳)、プラセボ群35人(65.3±3.6歳)の計68人でした。試験はコロナ禍に行われたため、重症化リスクの高い人などは医師の指示によって試験を中断しています。そのほか、結果に影響を与える可能性のある薬を飲んでいる人なども分析対象から除外されました。

評価項目についてですが、認知機能にはMMSE(ミニメンタルステート検査)とコグニトラックスというテストを採用。脳の血流は、非侵襲的脳酸素モニターを使用して測定されました。額の左右両側に機器を装着して、総ヘモグロビン濃度、酸素化ヘモグロビン濃度、組織酸素飽和度を評価するというものです。ヘモグロビンは脳の血液量の指標で、酸素化ヘモグロビン濃度は脳の血流と活動の状態を反映しています。

アミロイドβ減少の可能性も示唆

結果を簡単にご紹介していきましょう。MMSEの合計スコアは試験後、両群ともに有意に改善していました。ただし、グループ間で有意差はありませんでした。コグニトラックスによる認知機能全般、認知の柔軟性、実行機能を示すスコアは、グループ間の有意差はなかったものの、ケルセチン群でのみ有意に改善していました。認知機能を判断する基準の一つである反応時間については、プラセボ群と比較してケルセチン群で有意な改善が確認されています。

総ヘモグロビン濃度と酸素化ヘモグロビン濃度は、プラセボ群の左側(左前頭葉)において有意に減少していたのに対し、ケルセチン群では有意な変化はありませんでした。これは、ケルセチンが総ヘモグロビンと酸素化ヘモグロビンの減少を抑制したと換言することができます。

一方、右側(右前頭葉)の総ヘモグロビン濃度は両群で上昇傾向を示しました。グループ間に有意差はありませんでした。また、プラセボ群の右側の酸素化ヘモグロビン濃度は試験後に有意に増加しており、ケルセチン群においては有意差のない上昇傾向が見られました。

右前頭葉の血流量はストレス下で増加することがわかっており、認知機能への影響は左前頭葉の測定値で評価するのが一般的です。「ケルセチン配糖体の摂取による血流の改善によって、左前頭葉における総ヘモグロビンと酸素化ヘモグロビンの減少が抑制され、右前頭葉における酸素化ヘモグロビン濃度の上昇が抑制された可能性がある」と、著者らは試験結果を分析しています。

試験では、ケルセチン群の血中インスリン様成⻑因子-1(IGF-1)が増えたことも確認されています。米国と日本の疫学研究では、IGF-1の血中濃度が高い人は、低濃度の人よりも軽度認知障害と認知症の発症リスクが低いことがわかっています。IGF-1には、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβを減らす働きがあることもわかっています。本研究では、ケルセチン群における左前頭葉の総ヘモグロビン濃度と血中 IGF-1の変化に正の相関がありました。

これらを踏まえると、ケルセチン配糖体の摂取によるIGF-1濃度の上昇が認知機能の改善に関与しているのかもしれません。実際に今回の試験では、アミロイドβはプラセボ群でのみ有意に増加していました。アミロイドβが多い人を対象とする長期的な試験が実現すれば、アミロイドβの蓄積に対するケルセチンの効果が明らかになっていくものと考えられます。

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