【旅日記】空の下&はっぴーの家ろっけん・3　【空の下2日目】

農家の朝は早い。
5時台に起き出して、空の下メンバーがつくってくれた朝食を思い思いにとり、昼食のお弁当ももらって、収穫作業のため、数人で2台の車に分乗する。

るんちゃんは真っ白い息を吐きながら、軽トラにコンテナをいっぱいに積み込み、
私のほうはダイゴくんというイケメンの若者に運転してもらって柚子山に向かう。

この柚子山がまた遠い。
市街地を抜け、8割方はほとんど信号もないような道を車でひた走って、それで片道2時間ほどかかる。
現地の人の感覚でも遠いのは遠いのだが、そもそもこういう山の中は、東京とはスケールが違う。
100kmくらいの移動は、まあ、ある事なのだろう。

途中、おそらく自宅兼作業場で作っていると思われるこんにゃくを売っているお宅に遭遇。
ダイゴくんが「あっ！年に数回やってるかやってないかの幻のこんにゃく屋です」と言うので、どれどれと見に行ってみる。
いわゆる大玉こんにゃくというのだろうか、片手にやっと乗るようなサイズの、手作り感あるこんにゃくが、一つ100円だった。
ビニール袋に入れてもらう。
「こんにゃく寿司」なるものもあり、
これはおいなりさんの皮の部分がこんにゃくになっている。
購入し、昼食時の楽しみとする。　

アンパンマンミュージアムのあたりで一回休憩して、
ぐねぐねと山道を登って着いた柚子山には、
柚子の木が一面に植わっており、当然だが柚子の実がたくさん実っている。
その一角が「空の下」の管理エリアになっているのだと言う。
他の人のエリアの柚子をとらないよう、注意しながら収穫して行くのだ。

しばらくして、昨夜空の下事業所で会った、はっぴーフリースクールのローティーンの男子2人が到着して、
るんちゃんからレクチャーを受け、いよいよ作業開始。

山の急斜面にメンバーはそれぞれ散り、いよいよ柚子の収穫を始める。
実を傷つけないように注意しながら、まず剪定ばさみで柚子のヘタ付近の枝を切ってとる。
そして、貯蔵中に他の柚子を傷つけないよう、プラモのパーツをフレームから外した時のバリとりのように、ヘタぎりぎりまで枝をきれいに切り落として突起をなくす。
作業する者はクッション性のあるカゴを斜め掛けにしていて、
柚子をそっとそのカゴの中に置いてためて行く。放り込んではいけない。
それもこれもデリケートな柚子を傷つけないためだ。

柚子の実をとるため枝と枝の間に手を入れると、ほぼ必ず軍手を貫通してチクチクと長く硬い柚子の木のトゲが手の甲に刺さる。
その点では、軍手はあまり意味がなかった。
(専用の防御用手袋も世の中にはあるのだがこの日はしていなかった)

柚子山は何しろ大部分が急斜面であり、上り下りする時に反射的に何かにつかまろうとすると、だいたい柚子の木だ。
と言うか、柚子山には柚子の木しか生えていない。
そういう訳で、手の平もやはり穴が開く。
そして、もっと危ないのは、トゲだらけの枝が足元に落ちている時だ。
一度私も、急な斜面でよろけて、落ちていた枝を全体重で踏んでしまい、ひときわ立派なトゲが長靴を貫通し「グサッ」という感触とともに足に刺さって、数日トゲが残っていた。
(点滴みたいなもんで、刺さった瞬間以外は大して痛くなかった。
一時はほじくったりして無理に抜こうとしたが、そっちのほうがよほど痛かった上、結局抜けなかった。
基本的にはトゲは、放っておけば、皮膚の自然代謝によりその内抜ける事が多い。
この時は、ゲル絆創膏を貼っておいたら、皮膚がふやけて、数日後にはがした時に自然に抜けた。5mmくらいあった)

そんな目に合いつつも、不思議と柚子をとろうという情熱がどこから来るのか自分でもよくわからないが、
なぜか柚子を見ると収穫してしまうハーベストハイにより、
とれる範囲の柚子がおおむね無くなるまで、黙々と作業を続けた。

そうこうしている内に、　
るんちゃんの声かけで昼食時間になり、　
朝買った幻のこんにゃくをさっそくかじってみる。
なぜか、甘くないキャラメルのような味がする。噛み心地はこんにゃくだ。不思議だった。
私が今までこんにゃくの味だと思っていたものは一切しなかった。
何か気の利いた感想を言いたいが、私の力ではこれが限界だ。
そしてこんにゃくの皮に入ったおいなりさんは、おいしく炊けたご飯が、先ほどの不思議こんにゃくの中に入っていておいしい。
としか言いようがない。

自分の味覚と表現力の無さを噛みしめつつ、
午後からも黙々と柚子をとり続け、手に穴が増え続けたが、傷の見た目の割に痛くはないのがまた不思議だった。

柚子収穫はまだ翌日も続く。

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