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歯みがきで質の良い生活を守ることができるか

前の記事で歯・口の健康は生涯のQOL(生活の質)を守る、パフォーマンスの向上につながると書きましたが、「とはいえ、QOLを我慢すれば歯が悪くても命は落とさないでしょ」「やっぱり、歯の病気なんて不要不急じゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実はあるんです。歯の病気を放置することで命が脅かされることが。。。分かりにくいから余計にタチが悪い。どのようにして歯科でとりあつかう病気が全身に影響を与えるのか、以下に記載します。

歯周炎と全身の健康との関係

最近の研究で、歯周病がさまざまな全身の病気と関係していることがわかってきました。特に糖尿病について研究が進んでいます。これまでも糖尿病が進行すると免疫力が低下し歯周炎が悪化することが知られており、歯周炎は糖尿病の合併症の一つとも言われていました。最近の研究で新たに分かったことは、歯周病が進行することで糖尿病も悪化するということです。歯周炎を放置していると、歯周病菌と体が絶えず小競り合いしている状態となります。この「絶えず」というのがくせものです。体の免疫細胞は細菌と戦うと、ちょうど空襲やミサイル接近時にサイレンを鳴らすように仲間に敵の侵入を知らせます。すると、口とは離れていてもサイレンが聞こえるところは戦闘準備となるわけです。これが「絶えず」繰り返されます。緊急事態宣言時に社会の動き方が変わるように、身体も戦闘体制がつづくと普通とは異なる働きをする器官がでてきます。糖尿病については、この歯周炎サイレン鳴りっぱなし状態で全身の血糖値を下げる機能がじゃまされることが糖尿病悪化の原因であることがわかりました。実は、歯周炎による「サイレン鳴りっぱなし」がひきおこす病気は糖尿病にとどまらないのではないかともいわれています。動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞、早産や低体重児の出産、はてはアルツハイマー型認知症まで、歯周病菌、その残骸そして菌の出す酵素に対する身体の反応が関係していることを示す研究成果が集まっています。さらにお口の中の歯周病菌が胃を通って腸に到達することで腸内細菌叢に影響し鬱病になるのではないかと言う研究者もいます。そう考えると歯周病も侮れないと思いませんか。

オーラルフレイルを回避できるか

その他にも、噛み合わせと脳の血流との関連や口の中の清掃状態と誤嚥性肺炎との関連など、全身とお口の健康がどう影響しあっているかを解明することは、医学・歯学において現在とっても熱い研究トピックになっています。フレイルという言葉をご存じでしょうか。加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する心と体の回復力が低下した状態を指す言葉ですが、この段階で適切な介入をすれば要介護・寝たきりを予防でき、健康寿命を延長できるとされています。そのフレイルを早期発見し寝たきり予防をするのに口のフレイル=オーラルフレールが注目されています。たとえば低下した食べる能力、しゃべる能力を適切なトレーニングや義歯などの治療で回復すれば、低栄養状態が改善され、社会的繋がりも復活でき、口だけでなく全身の健康が取り戻せるというわけです。このように、歯や口の健康は心と体を包括したトータルな健康に密接に関係しているわけですが、寝たきり予防はオーラルフレイルになってからやれば良いというものなのでしょうか。オーラルフレイルはこれまでの歯の使い方、手入れの仕方の結果として生じるものですから、予防するには実は生まれたときからのトータルライフでお口の健康のケアをする必要があります。私が歯のケアは不要不急ではないと考える理由はここにあります。


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