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まずは歯の基本から・・・

・・・きつつきの嘴をさわると歯痛が治る?

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もちろん、そんなはずはありませんね。これは北東アジアに居住する、とある部族の中で信じられていた伝承です。「なんと非科学的な!」と思われるかもしれませんが、笑えないのは現代の日本においても根拠がはっきりしない医療情報が巷にあふれている点です。正しく判断するには正確な情報をおさえておくのが肝心です。まずは基本、歯の本数からまいりましょう。

ヒポクラテスも、アリストテレスも勘違いした?ご自身の歯の本数、わかりますか?

おとなの歯は親知らずをいれなければ28本
こどもの歯は合計20本です。

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おとなになって、一番奥に親知らずが4本ともはえると合計32本になりますが、一部しかはえない人、まったくはえない人もいます。

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親知らずは、上の左側の写真のように傾いてはえて一部分しか歯茎から出ていなかったり、右側の写真のようにはえる方向がまっすぐでも、十分な高さまではえ切らなかったり、中途半端な状態であることが多いです。そのためお手入れしにくくトラブルになることが多いんですね。トラブルになるまえに予防的に親知らずを抜くことがあります。

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古代ギリシアで活躍したヒポクラテスは医学を迷信や呪術から切り離し経験科学へと発展させた西洋医学の父ともいわれる人ですが、歯の本数については女性より男性のほうが本数が多いと誤解していたようです。万学の祖と言われるアリストテレスも同じ勘違いをしていたことが知られています。歯の正確な本数は意外とわかりにくいのかもしれませんね。

前歯と奥歯のコラボレーション

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前歯は先端が刃物のように細くなっていて、食べ物を切断するのに使います。

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上の前歯は上の前歯より大きくなっています。

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おとなではかみ合った歯を横から見たとき、上の前歯が下の前歯を少し覆っているのが正常なかみ合わせです。

前歯の咬合

上の前歯が下の前歯を少し覆っていると、前歯でお蕎麦をかみきるとき(上下の前歯の先をあわせるとき)、自然と奥歯は離れますね。細かいと思われるかもしれませんが、このようなある歯が当たっているときに、別の歯がはなれたりの絶妙なコラボレーションがあって調和のとれたかみ合わせとなり、それが全身の健康へと繋がります。

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奥歯は前歯で切断した食べ物をさらに細かくすり潰し、消化を良くするのに使います。かみ合う面に凸凹が備わっているのが見えるでしょうか。

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この凸凹が上下歯車のようにかみ合い、すり潰す効率を上げています。

マンモス

進化の過程で哺乳類以降に前歯と奥歯が分業しすり潰しができるようなったために、食べ物から栄養を効率よく摂取できるようになりました。その結果哺乳類は体温を維持できるようになり、爬虫類と違って寒いところでも活動できるようになったと言われています。

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ヒトの口では片方の奥歯で食べ物をすり潰すとき、反対側の前歯が横の力を引き受ける構造になっています。

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横の力をたくさん引き受けられるよう、前歯(特に糸切り歯)は歯茎の中にもぐっている根が長くなっています。奥歯は縦の力を十分引き受けられるよう複数の根を持っていることが多いですが、根の長さは前歯より短めです。つまり前歯と奥歯では負担するのに得意な力の方向が異なります。

お口の中は宝石箱や!

というと、盛っていると思われるかもしれませんが、あながち嘘ではありません。歯の頭の部分の最表層「エナメル質」はハイドロキシアパタイトという鉱物の純度96%の結晶です。体の中で一番硬い部分でもあります。

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上はハイドロキシアパタイトの結晶の写真です。色は半透明で6角柱の形をしていますね。

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ハイドロキシアパタイトの近縁であるブルーアパタイトなどは装飾品にも使用されます。

ハイドロキシアパタイトは水晶と同じくらいの硬さです。昔からあるモース硬度でいえば7ぐらい。他の宝石と硬さを比べてみましょう。

モース硬度_宝石

砂は石英(上の表ではクオーツ)を多く含みます。つまり砂と歯はだいたい同じ硬さか、歯の方が少し柔らかいぐらいなんですね。そのため食事に砂の混じりやすい内陸の乾燥した国の駐在員の方には長期滞在で歯の擦り減りがすすむ人もいらっしゃいます。

歯の構造

歯を断面図で見ると、エナメル質の下には象牙質があります。成分はほぼ骨と一緒、コラーゲン線維の網目構造にハイドロキシアパタイトの結晶がくっついた形になっています。ハイドロキシアパタイトの含まれる量は重さで全体のだいたい70%ぐらいしかありません。そのためエナメル質より柔らかく、さきほどのモース硬度だと5から6ぐらいの硬さです。この硬さもほぼ骨と同じです。

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骨と比べた時に象牙質の際立った個性はこの規則正しく並んだ細い管でしょう。上は象牙質を電子顕微鏡で拡大してみたときの写真です。

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管の断面をさらに拡大するとこんな感じです。象牙質は全体にわたって内側の歯の神経から外側のエナメル質との境まで、このような直径1~2マイクロメートルの細い管がたくさん通っています。この管の存在が、むし歯になった時などの歯の独特な痛み方の原因になっています。


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