「ありがとう」

いきものがかりの「ありがとう」について、書くと思った方、すみません。同じ「ありがとう」でも、こちらは今から30年前の小ヒット曲。石坂智子のデビュー曲として発表され「金八」でブレイクしたたのきんトリオが初主演したドラマ「ただいま放課後」の主題歌でもあったことから、売り上げ以上の印象を残すことになる。
たとえば、酒井法子が中学時代に在籍したソフトボール部では、この曲が「部歌」のようにして受け継がれていたとかで、7年遅れでデビューすることになるのりピーは、誰が歌ったのかも知らないまま、この曲のファンになったらしい。
魅力を伝えるために、例によって、伊藤薫による歌詞を引用するけど、とりたててすごいフレーズが出てくるわけではない。同じ伊藤による素朴なメロディや、大村雅朗による高潔なアレンジ、そして、石坂の淡々とした歌唱があいまって、ありふれた青春の普遍性を、奇跡的に描きだせてるところが魅力なのだ。

♪サヨナラだけは 言わないけど
ひとつだけ 伝えたい
かけがえない あなただから
今ひと言 ありがとう
喜びの日も 悲しい日も
共に夢を 追いかけた
見えなくなる 後姿
この時代に ありがとう

卒業ソング的な雰囲気もあって、こういうのに、僕は弱い。いきものがかりの「ありがとう」は、僕にとって、今年の№1ソングだけど、こちらの「ありがとう」は、若い頃の僕、いや、今、そういうランキングを作ったとしても、生涯の№1ソングかもしれないな。


(初出「痩せ姫の光と影」2010年9月)


石坂智子は、いわゆる80年組アイドルのひとり。デビュー三部作の歌謡曲的な渋い味わいは、76年デビューの吉田真梨のそれに匹敵する。石坂は金沢出身で、吉田は富山出身。ともに歌にもルックスにも、日本海側というか、北陸っぽい雰囲気がある。

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