イライラする挨拶代わり〜死人に挨拶なし〜
また来た。
毎日飽きもせずによく来る。
「どうして教えてくれなかったんだ」
目の前に腰を下ろし、伏せ目がちで重々しく口を開いた。掠れる小声は曇り空には届かない。
「教えてくれれば、お前をこんな目には合わせなかったのに……」
俺はちっと小さく舌打ちをした。
教えたところで、結果は同じだっただろう。
目の前で肩を震わせ、奥歯を噛みしめている。
俺は知っている。
それが演技であることを。
それがお前自身に言い聞かせていて、俺のことを少しも思っていないことを。
「ーー教えてくれよ」
息を飲むほどに暗い瞳が見つめてくる。
「どこに隠したんだ? あの金は俺のものだ」
地を這う声音が静かに響いた。
俺は口を開きかけて言葉を飲み込んだ。
お前の金でも、俺の金でもない。
「あの金がないと俺は死ぬ!」
握り潰す勢いで掴みかかってきた。
鬼の形相が墓石に近づく。
汚い手で触れられるのも、同じ話をされるのも、そろそろ腹に据えかねる。
さよならすら言いたくない。
俺は、半透明の姿を現わした。
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