【14】隠された子どもの行方は

12.

「雛乃、そっち行った」
 白い息を吐きながら斜面を登る。山の中に死霊が入り込んでしまった。隠力を混ぜた声を斎が発する。雛乃が受け取ってくれるはずだ。実戦では初めて使う。何度も訓練したので雛乃に届いていると思いたい。十メートルほど先で細い竜巻が起こった。余波が届く。
 斎は体勢を崩し近くの木にしがみついた。空気には雛乃の隠力が濃く混ざっていた。
 風が止んで雛乃の場所まで走る。と言っても斜面なので走っているうちに入らなかった。気持ちだけは急いだ。
「斎、完了だよ」
「声届いた?」
「小さかったけど聞こえたよ」
「加減がわからんな」
 斎は眉間に皺を寄せる。
「終わったし、報告に行こう」
「そうだな。――と、一人でお願いしてもいい?」
 にやりと雛乃が笑う。
「デートですか?」
 堂々と頷く。幸せな笑顔に茶化せないなと雛乃は身を引く。
「そう。行ってらっしゃい」
 元気な声で送り出すが、寂し気な笑みを雛乃は浮かべる。気づかないふりをして斎は一人山を下る。
「さて、私は神社庁に行きますか」
 どっぷりと暮れている。人目につかないように雛乃は風に乗って神社庁を目指した。
 一度帰宅した斎は軽くシャワーを浴びて着替える。この時点ですでに約束の十五分前、遅刻確定だ。電車に乗って待ち合わせ場所へ急ぐ。先についていた清香が見知らぬ男二人に絡まれていた。
「僕の彼女になんか用?」
 後ろから殺気の塊で近づいて声をかける。二人の男よりも小さい斎だが、隠力で圧をかけて脅す。やりすぎるとナギから小言を言われそうなので隠力は最小限に抑える。それでも普段接し慣れていない一般人からすると未知の恐怖と遭遇しているようなものだろう。
 縮こまりながら男たちは足早に立ち去った。
「ごめん! 本当に申し訳ない! すみません! ごめんなさい!」
「いいよ。助けてくれてありがとう、斎くん」
「いや二十分も遅刻してなければこんなことには……」
 そもそも死霊が山の中に姿をくらませたのが悪い。あれは死霊のせいだ。そうだ。僕は悪くない。でもナギに言わせると下手なんだろうなと考えるとだんだんと遠い目になった。成人式を終え正式に依頼を受けられるようになったことは嬉しい。その分、お給料も支払われるし一人前と認められたような気になっていた。しかし本当の始まりはここからだ。今は依頼も簡単なものが多い。だが、経験を積めば危険なことも増えていくだろう。その時に大切な人たちを護れるように力をつける必要がある。弱いことは自覚している。これからどう行動するかということだ。
「斎くん、どうしたの?」
「え? あ、なんでもない。ご飯、食べに行こうか」
 初めてのデートの時、清香から深くは聞かないと言われた。信じているから、と。気を使わせていることに心苦しくも、隠力のことを今は話せない。話して余計な心配をかけさせたくない。
 清香が待っていてくれるのなら、それに甘えさせてもらおう。
 目を細めて微笑む清香の手を握った斎は、護っていくと改めて決意する。

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