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司法試験予備試験 行政法 平成23年


問 題

Aは、甲県乙町において、建築基準法に基づく建築確認を受けて、客室数20室の旅館(以下「本件施設」という。)を新築しようとしていたところ、乙町の担当者から、本件施設は乙町モーテル類似旅館規制条例(以下「本件条例」という。)にいうモーテル類似旅館に当たるので、本件条例第3条による乙町長の同意を得る必要があると指摘された。Aは、2011年1月19日、モーテル類似旅館の新築に対する同意を求める申請書を乙町長に提出したが、乙町長は、同年2月18日、本件施設の敷地の場所が児童生徒の通学路の付近にあることを理由にして、本件条例第5条に基づき、本件施設の新築に同意しないとの決定(以下「本件不同意決定」という。)をし、本件不同意決定は、同日、Aに通知された。
Aは、本件施設の敷地の場所は、通学路として利用されている道路から約80メートル離れているので、児童生徒の通学路の付近にあるとはいえず、本件不同意決定は違法であると考えており、乙町役場を数回にわたって訪れ、本件施設の新築について同意がなされるべきであると主張したが、乙町長は見解を改めず、本件不同意決定を維持している。
Aは、既に建築確認を受けているものの、乙町長の同意を得ないまま工事を開始した場合には、本件条例に基づいて不利益な措置を受けるのではないかという不安を有している。そこで、Aは、本件施設の新築に対する乙町長の同意を得るための訴訟の提起について、弁護士であるCに相談することにした。同年7月上旬に、当該訴訟の提起の可能性についてAから相談を受けたCの立場で、以下の設問に解答しなさい。
なお、本件条例の抜粋は資料として掲げてあるので、適宜参照しなさい。

〔設問1〕

本件不同意決定は,抗告訴訟の対象たる処分(以下「処分」という )に当たるか。Aが乙町長の同意を得ないで工事を開始した場合に本件条例に基づいて受けるおそれがある措置及びその法的性格を踏まえて,解答しなさい。

〔設問2〕

本件不同意決定が処分に当たるという立場を採った場合,Aは,乙町長の同意を得るために,誰を被告としてどのような訴訟を提起すべきか。本件不同意決定が違法であることを前提にして,提起すべき訴訟とその訴訟要件について,事案に即して説明しなさい。なお,仮の救済については検討しなくてよい。

〔資料〕

乙町モーテル類似旅館規制条例(平成18年乙町条例第20号)(抜粋)
(目的)
第1条 この条例は,町の善良な風俗が損なわれないようにモーテル類似旅館の新築又は改築(以下 「新築等」という )を規制することにより,清純な生活環境を維持することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において「モーテル類似旅館」とは,旅館業法(昭和23年法律第138号)第2条に規定するホテル営業又は旅館営業の用に供することを目的とする施設であって,その施設の一部又は全部が車庫,駐車場又は当該施設の敷地から,屋内の帳場又はこれに類する施設を通ること なく直接客室へ通ずることができると認められる構造を有するものをいう。
(同意)
第3条 モーテル類似旅館を経営する目的をもって,モーテル類似旅館の新築等(改築によりモーテ ル類似旅館に該当することとなる場合を含む。以下同じ )をしようとする者(以下「建築主」という )は,あらかじめ町長に申請書を提出し,同意を得なければならない。
(諮問)
第4条 町長は,前条の規定により建築主から同意を求められたときは,乙町モーテル類似旅館建築審査会に諮問し,同意するか否かを決定するものとする。
(規制)
第5条 町長は、第3条の申請書に係る施設の設置場所が、次の各号のいずれかに該当する場合には同意しないものとする。
(1) 集落内又は集落の付近
(2) 児童生徒の通学路の付近
(3) 公園及び児童福祉施設の付近
(4) 官公署、教育文化施設、病院又は診療所の付近
(5) その他モーテル類似旅館の設置により、町長がその地域の清純な生活環境が害されると認める場所
(通知)
第6条 町長は,第4条の規定により,同意するか否かを決定したときは,その旨を建築主に通知するものとする。
(命令等)
第7条 町長は、次の各号のいずれかに該当する者に対し、モーテル類似旅館の新築等について中止の勧告又は命令をすることができる。
(1) 第3条の同意を得ないでモーテル類似旅館の新築等をし、又は新築等をしようとする建築主
(2) 虚偽の同意申請によりモーテル類似旅館の新築等をし、又は新築等をしようとする建築主
(公表)
第8条 町長は、前条に規定する命令に従わない建築主については、規則で定めるところにより、その旨を公表するものとする。ただし、所在の判明しない者は、この限りでない。
2 町長は、前項に規定する公表を行うときは、あらかじめ公表される建築主に対し、弁明の機会を与えなければならない。
(注)本件条例においては、資料として掲げた条文のほかに、罰則等の制裁の定めはない

関連条文

行政事件訴訟法
3条2項,6項2号(第一章 総則):抗告訴訟
8条1項(2章 抗告訴訟 1節 取消訴訟) : 処分の取消しの訴えと審査請求との関係
9条1項(第2章 抗告訴訟/第1節 取消訴訟):原告適格
11条1項(第2章 抗告訴訟/第1節 取消訴訟):被告適格等
14条1項(第2章 抗告訴訟/第1節 取消訴訟):出訴期間
37条の3第1項2号,2項(第2章 抗告訴訟/第2節 その他の抗告訴訟):
 義務付けの訴えの要件等
38条1項(第2章 抗告訴訟/第2節 その他の抗告訴訟):
 取消訴訟に関する規定の準用
行政手続法
2条2,4,6号(第一章 総則):定義
13条1項2号(第3章 不利益処分/第1節 通則):不利益処分をしようとする場合の手続
46条(第7章 補則):地方公共団体の措置
判 例
医療法の勧告(最判平 17.7.15 / 百選II -160)
土地区画整理事業の事業計画の決定(最判平 20.9.10 / 百選II -159)

一言で何の問題か

設問1 処分性
設問2 訴訟選択と原告適格

つまづき・見落としポイント

設問1 勧告、命令及び公表それぞれについて検討
設問2「訴訟要件」については出訴期間も検討

答案の筋

設問1 
3条の同意を得ずに建築を開始した場合、中止命令さらには公表といった処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、法的地位に直接的な影響が生じ、実効的権利救済の観点からも、不同意決定がなされた時点で取消訴訟の提起を認めるべき性質のものであり、「処分」にあたる。
設問2 
取消訴訟により不同意決定が取り消されたとしても、乙町長が本件施設の新築に同意するとは限らないことからすれば、申請型義務付け訴訟の併合提起が必要であり、原告適格、被告適格、出訴期間等の要件を充足しなければならない。

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