見出し画像

司法試験予備試験 行政法 平成26年


問 題

A県は、漁港漁場整備法(以下「法」という。)に基づき、漁港管理者としてB漁港を管理している。B漁港の一部には公共空地(以下「本件公共空地」という。)があり、Cは、A県の執行機関であるA県知事から、本件公共空地の一部(以下「本件敷地」という。)につき、1981年8月1日から2014年7月31日までの期間、3年ごとに法第39条第1項による占用許可(以下「占用許可」とは、同法による占用許可をいう。)を受けてきた。そして、1982年に本件敷地に建物を建築し、現在に至るまでその建物で飲食店を経営している。同飲食店は、本件公共空地の近くにあった魚市場の関係者によって利用されていたが、同魚市場は徐々に縮小され、2012年には廃止されて、関係施設も含め完全に撤去されるに至った。
現在Cは、観光客などの一般利用者をターゲットとして飲食店の営業を継続し、2013年には、客層の変化に対応するために店内の内装工事を行っている。他方、A県知事は、魚市場の廃止に伴って、観光客を誘引するために、B漁港その他の県内漁港からの水産物の直売所を本件敷地を含む土地に建設する事業(以下「本件事業」という。)の構想を、2014年の初め
に取りまとめた。なお、本件事業は、法第1条にいう漁港漁場整備事業にも、法第39条第2項にいう特定漁港漁場整備事業にも、該当するものではない。
Cは、これまで受けてきた占用許可に引き続き、2014年8月1日からも占用許可を受けるために、本件敷地の占用許可の申請をした。しかし、A県知事は、Cに対する占用許可が本件事業の妨げになることに鑑みて、2014年7月10日付けで占用不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。Cは、「Cは長期間継続して占用許可を受けてきたので、本件不許可処分は占用許可を撤回する処分と理解すべきである。」という法律論を主張している。
A県側は、「法第39条第1項による占用許可をするか否かについて、同条第2項に従って判断すべき場合は、法第1条の 定める法の目的を促進する占用に限定されると解釈すべきである。Cによる本件敷地の占用は、法第1条の定める法の目的を促進するものではないので、Cに対し本件敷地の占用許可をするかどうかについては、その実質に照らし、地方自治法第238条の4第7項が行政財産の使用許可につい て定める基準に従って判断するべきである。」という法律論を主張している。なお、B漁港は、A県の行政財産である。
A県の職員から、Cがなぜ上記のような法律論を主張しているのか、及び、A県側の法律論は認められるかについて、質問を受けた弁護士Dの立場に立って、以下の設問に解答しなさい。
なお、法の抜粋を資料として掲げるので、適宜参照しなさい。

設問

〔設問1〕
本件不許可処分を、占用許可申請を拒否する処分と理解する法律論と、占用許可の撤回処分と理解する法律論とを比べると、後者の法律論は、Cにとってどのような利点があるために、Cが主張していると考えられるか。行政手続法及び行政事件訴訟法の規定も考慮して答えなさい。

〔設問2〕
(1) Cによる本件敷地の占用を許可するか否かについて、法第39条第2項に従って判断する法律論と、A県側が主張するように、地方自治法第238条の4第7項の定める基準に従って判断する法律論とを比べると、後者の法律論は、A県側にとってどのような利点があるか。両方の規定の文言及び趣旨を比較して答えなさい。
(2) 本件において、A県側の上記の法律論は認められるか、検討しなさい。

【資料】

○漁港漁場整備法(昭和25年法律第137号)(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は、水産業の健全な発展及びこれによる水産物の供給の安定を図るため、環境との調和に配慮しつつ、漁港漁場整備事業を総合的かつ計画的に推進し、及び漁港の維持管理を適正にし、もつて国民生活の安定及び国民経済の発展に寄与し、あわせて豊かで住みよい漁村の振興に資することを目的とする。
(漁港の保全)
第39条 漁港の区域内の水域又は公共空地において、(中略)土地の一部の占用(中略)をしようとする者は、漁港管理者の許可を受けなければならない。(以下略)
2 漁港管理者は、前項の許可の申請に係る行為が特定漁港漁場整備事業の施行又は漁港の利用を著しく阻害し、その他漁港の保全に著しく支障を与えるものでない限り、同項の許可をしなければならない。
3~8 (略)

関連条文

地方自治法
238条の4 7項(2編 普通地方公共団体 9章 財務 9節 財産) :
 行政財産の管理及び処分
行政手続法
2条2-4号(第一章 総則):定義(処分、申請、不利益処分)
5条(第2章 申請に対する処分):審査基準
12条(第3章 不利益処分/第1節 通則):処分の基準
13条1項(同前):不利益処分をしようとする場合の手続
14条(同前):不利益処分の理由の提示
15条(第3章 不利益処分/第2節 聴聞):聴聞の通知の方式
20条(同前):聴聞の期日における審理の方式
行政事件訴訟法
3条2,6項2号(第1章 総則):抗告訴訟
25条2項(第2章 抗告訴訟/第1節 取消訴訟):執行停止
37条の2(第2章 抗告訴訟/第2節 その他の抗告訴訟):義務付けの訴えの要件等
37条の3第3項2号(第2章 抗告訴訟/第2節 その他の抗告訴訟):義務付けの訴えの要件等
37条の5第1項(同前):仮の義務付け及び仮の差止め

一言で何の問題か

1 申請拒否と捉える法律論に基づく原告側の利点
2(1) 撤回と捉え法律論に基づく被告側の利点
2(2) 後者法律論採用の許否

つまづき・見落としポイント

魚市場は2012年には廃止されて、関係施設も含め完全に撤去しており、Cは申請当時、漁港漁場整備法39条の占用許可の要件を満たさなくなっていた。そのため、観光客をターゲットとして内装工事含め営業を継続していたところ、後れてA県知事も観光客を誘引するために、Cの敷地を含む建設事業を計画した。

答案の筋

概説(5分程度の音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n1fc6a429c827

1 申請の拒否処分と捉えると、聴聞手続がなく、申請型義務付け訴訟と取消訴訟の併合提起が必要となる一方、撤回(不利益処分)と捉えると、聴聞手続もあり、取消訴訟のみで目的を達成でき、また、仮の救済である執行停止についても仮の義務付けと比べて要件が緩和されるためCは主張している
2(1) 法39条2項に従って判断する法律論によれば、原則として許可しなければならない一方、地方自治法238条の4第7項の定める基準に従って判断する法律論によれば、許可をするか否かにつき広範な裁量権が認められるため、県側にとって不許可処分が適法と認められやすいという利点がある。
2(2) 法39条2項と地方自治法238条の4第7項との関係は、特別法一般法の関係と捉えて、法1条の目的に適った占用は前者で判断し、それ以外は後者により判断すべきところ、Cの占用は法の目的を促進するものではなく、行政財産の目的外使用として地方自治法によるため、県側の法律論は認められる(観光客の誘致は漁港の本来の機能・目的ではない)。ただし、A県の事業構想も同様の判断となる。

ここから先は

3,135字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?